女子会
格子窓にガラスがはめ込まれている。壁に風車が備えられているが逆回りで、換気をするように風が流れる。
「どうじゃ。プリンの味は」
キャリロン王女がスプーンを置いて言う。丸テーブルを三人でかこんでいるところだ。
「茶色の苦さと甘さが新鮮でございます」
口で溶けるのを飲み込んで答える。
「カラメルというものやろー。めったに食べれへんなー」
ハルナがスプーンで白いプリンが乗るキャラメルを掬って口に運ぶ。スイーツは好みもあるらしく、口でとろけるか、ぷちぷち弾ける歯ごたえを楽しむとか、話は盛り上がる。
「そのまま食べるなら、くだものじゃな」
「新鮮な野菜も。トマトはがぶっと。弟が好きでございました」
言いながらハルナへ目を向ける。予想通り、反応した。
「ダニエル様がなー。もう大人になって、やらんやろかなー。見たいのー」
結婚した大人も変わらないと、経験者のキャリロン王女が話す。
「男はいつまでも子供じゃ。甘えるし、威張りたがりじゃ」
言えてる、とアカリーヌとハルナ。異性や恋愛に話題は移る。
「恋も厄介やでー。親が口をはさむやろー」
「うちは自由なほうだね。しつこく紹介されたことはあったけけど」
伯爵家では古い風習が残っているようだし、王家はもっと縛られるらしい。
「姉のほうがなー。親に反対して、やっと婚約したでー」
「気の強い方だったようじゃ。王家はほとんどが政略結婚じゃ」
「王女様も、自分のお気持ちは無視されたと」
「十歳のころから決められていた。だからアッチスグ公爵家にとついで、スローライフと考えていたんじゃが」
(そこへ話が行くのかー)
ニーバンとのことを聞きたいようで、聞きたくない。話題を変えるのがハルナ。
「のんびりが良いでなー。姉様は嫉妬しよったでー」
親しくしているミナミノ伯爵家の令息のこと。ハルナが好意を持っていると勘違いしていたらしい。
「ライバルに思うときもあるでな。私の姉上たちは、口うるさいんじゃ」
「長女というのは威張るのー」
二人の思いは同じらしく、顔を合せてうなづく。
(えっと。ここに長女がいるけど)
なにか聞きたいらしい二人の視線を感じた。
「可愛がってるだけだと。ま、自由に扱える子分ではありますね」
ダニエルとのやりとりをみられてもいるし、正直に話す。
「確かに子分じゃな」
「あの子分は、いつも大人しいのー」
「アーホカの我が強すぎんるんじゃ」
一緒に居る施術者の話らしい。それなら詳しく知りたい。
「あの方々は姉妹でしょうか」
「似たようなものじゃ」
キャリロン王女は言うと立ち上がり、窓際へ行く。追いかけて右へ、ハルナは左へ立った。
商店街が見えて、化粧コーナーは思ったより近い、視線を下ろした場所。
「貴族のたまり場所じゃった。ハルナが叔父の手伝いをしてたのじゃな」
そこで、キャリロン王女はハルナへ声をかけたようだ。
「屋敷にいてもつまらんしのう。あそこでのんびりしてましたなー」
叔父は前のハナレテル伯爵のことだろう。腰を弱めて引退してからハルナが美容術を始めたらしい。
「オーボチャマの紹介でアーホカとオリエが化粧品を売るため来たんじゃ」
「押し売りしよったでー」
「しつこいゆえにな。それで、美容対決を始めたんじゃ。提案したのはハルナじゃろうが」
「ハルナさまが言い出しっぺなのね」
「あの人たちと関わりたくないしのー」
「一回で懲りたのじゃろう。ま、良い。アカリーヌは責任感もありそうじゃ」
「施術もうまいしのう」
「さすが長女じゃ」
「いまは持ちあげてくれますか」
年下にも年上を利用する面があるようだ。
「それで、あの二人じゃ」
初めて名前を知った施術者のオリエとアーホカの関係は複雑らしい。タニマノ伯爵の三男が妾に産ませたのがオリエ。妾が育てていたがいなくなり、子爵家の養女として引き取られたらしい。
「流行り病でしたなー」
ハルナは伯爵家同士で事情も分かるらしい。
「それは忘れていいのじゃ」
「大丈夫でなー。弟のことは運命やと思うんよ」
お互いに気遣い合うのは居心地が良い。商店街で一段落したか、御者も馬車を停めて、皆が集まり、何かを食べていた。ひとあし早く鶏ハンバーグにありついたらしい。夜明けから働きづめの者もいただろう。マームたちが水を運ぶのが見えた。
「うちらも食べましょう。食堂に集合ですよ」
メイド長の声がここまで響く。
「どうじゃ。あとからで良いか」
(仕事はあるらしいけど、何をするか知りたい)
「かまいませんが、なにかやることはございますか」
「働き手が揃ったしなー。どうやろう」
「貴族の令嬢にはな、仕事があるんじゃ。お手振りで慰労と慰めの挨拶じゃ」
キャリロン王女が話すのは、労わりの言葉をかけることらしい。
「女は見られて綺麗にもなろう。一石二鳥じゃ」
「お手振りなー。アカリーヌはどうしてるんかいなー」
「普通に話すだけですが。うん、マームがなにかいっておりました」
着飾ってなんとか言ってたのを思いだす。家柄のちがいか。いや、忘れてるだけかもしれない。
(私に似合うと思えないしねー)
いまはやるしかない。キャリロン王女が衣装棚へ案内して、薄い生地のマントが並ぶ場所を引き寄せる。
「好きな色を選ぶと良い」
「もったいない。あの、王家のしきたりでしょうか」
「そうやろうなー」
ハルナも、そのまま顔見せをすると思ってたようだ。
「王城としてでかけるゆえにな。私一人では見栄えしないんじゃ」
(そういうわけか)
引き立て役だろう。かといって美容コーナーで、引き立て役というよりは施術で注目もされる。たぶん、言葉の意味が少々ちがうのだろう。
アーホカがオーボチャマ王子の紹介だというのは気になる。
(魔王エーアイと関係あるのかな。ゴテン橋は前の王朝時代のものというから)
イケスカナイ王朝は科学信仰だったと聞いていた。オーボチャマ王子が橋に拘るのも、なにかの繋がりを予想させる。アーホカは魔王エーアイ信仰と、はっきり言ってたから。
(分からないや。ニーバンなら知ってることがあるはず)
ゴテン橋の何を調べるのか、ニーバンなら聞いていると考えた。
(でもさー。それしか話題はないかなー)
恋の甘い言葉は思いつかないというより、ロリコン子爵を思いだすようなことは遠慮したい。
(フーモトでは、もっとアイドルっぽくしていいということか)
マームの話してたのが、少しは分かった気もする。
(ま。着飾るのは苦手だしさ。大人の貴族って雰囲気はつくりゃなきゃ)
アカリーヌは自分なりのやり方があると思うし、ハルナとキャリロン王女は、お手本として良い関係になりそうだ。
(友達ってやつだよ。なにか遠慮する庶民とちがって、気兼ねなく付き合えそう)
夏の嵐が何かを成長させた。




