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恋と美容術で男爵令嬢は天下を取りに行く  作者: 乙巴じゅん
5章・台風は後から大変
23/49

女子会

 格子窓にガラスがはめ込まれている。壁に風車が備えられているが逆回りで、換気をするように風が流れる。

「どうじゃ。プリンの味は」

 キャリロン王女がスプーンを置いて言う。丸テーブルを三人でかこんでいるところだ。

「茶色の苦さと甘さが新鮮でございます」

 口で溶けるのを飲み込んで答える。

「カラメルというものやろー。めったに食べれへんなー」

 ハルナがスプーンで白いプリンが乗るキャラメルを掬って口に運ぶ。スイーツは好みもあるらしく、口でとろけるか、ぷちぷち弾ける歯ごたえを楽しむとか、話は盛り上がる。

「そのまま食べるなら、くだものじゃな」

「新鮮な野菜も。トマトはがぶっと。弟が好きでございました」

 言いながらハルナへ目を向ける。予想通り、反応した。

「ダニエル様がなー。もう大人になって、やらんやろかなー。見たいのー」

 結婚した大人も変わらないと、経験者のキャリロン王女が話す。

「男はいつまでも子供じゃ。甘えるし、威張りたがりじゃ」

 言えてる、とアカリーヌとハルナ。異性や恋愛に話題は移る。

「恋も厄介やでー。親が口をはさむやろー」

「うちは自由なほうだね。しつこく紹介されたことはあったけけど」

 伯爵家では古い風習が残っているようだし、王家はもっと縛られるらしい。

「姉のほうがなー。親に反対して、やっと婚約したでー」

「気の強い方だったようじゃ。王家はほとんどが政略結婚じゃ」

「王女様も、自分のお気持ちは無視されたと」

「十歳のころから決められていた。だからアッチスグ公爵家にとついで、スローライフと考えていたんじゃが」

(そこへ話が行くのかー)

 ニーバンとのことを聞きたいようで、聞きたくない。話題を変えるのがハルナ。

「のんびりが良いでなー。姉様は嫉妬しよったでー」

 親しくしているミナミノ伯爵家の令息のこと。ハルナが好意を持っていると勘違いしていたらしい。

「ライバルに思うときもあるでな。私の姉上たちは、口うるさいんじゃ」

「長女というのは威張るのー」

 二人の思いは同じらしく、顔を合せてうなづく。

(えっと。ここに長女がいるけど)

 なにか聞きたいらしい二人の視線を感じた。

「可愛がってるだけだと。ま、自由に扱える子分ではありますね」

 ダニエルとのやりとりをみられてもいるし、正直に話す。

「確かに子分じゃな」

「あの子分は、いつも大人しいのー」

「アーホカの我が強すぎんるんじゃ」

 一緒に居る施術者の話らしい。それなら詳しく知りたい。

「あの方々は姉妹でしょうか」

「似たようなものじゃ」

 キャリロン王女は言うと立ち上がり、窓際へ行く。追いかけて右へ、ハルナは左へ立った。


 商店街が見えて、化粧コーナーは思ったより近い、視線を下ろした場所。

「貴族のたまり場所じゃった。ハルナが叔父の手伝いをしてたのじゃな」

そこで、キャリロン王女はハルナへ声をかけたようだ。

「屋敷にいてもつまらんしのう。あそこでのんびりしてましたなー」

 叔父は前のハナレテル伯爵のことだろう。腰を弱めて引退してからハルナが美容術を始めたらしい。

「オーボチャマの紹介でアーホカとオリエが化粧品を売るため来たんじゃ」

「押し売りしよったでー」

「しつこいゆえにな。それで、美容対決を始めたんじゃ。提案したのはハルナじゃろうが」

「ハルナさまが言い出しっぺなのね」

「あの人たちと関わりたくないしのー」

「一回で懲りたのじゃろう。ま、良い。アカリーヌは責任感もありそうじゃ」

「施術もうまいしのう」

「さすが長女じゃ」

「いまは持ちあげてくれますか」

 年下にも年上を利用する面があるようだ。

「それで、あの二人じゃ」

 初めて名前を知った施術者のオリエとアーホカの関係は複雑らしい。タニマノ伯爵の三男が妾に産ませたのがオリエ。妾が育てていたがいなくなり、子爵家の養女として引き取られたらしい。

「流行り病でしたなー」

 ハルナは伯爵家同士で事情も分かるらしい。

「それは忘れていいのじゃ」

「大丈夫でなー。弟のことは運命やと思うんよ」

 お互いに気遣い合うのは居心地が良い。商店街で一段落したか、御者も馬車を停めて、皆が集まり、何かを食べていた。ひとあし早く鶏ハンバーグにありついたらしい。夜明けから働きづめの者もいただろう。マームたちが水を運ぶのが見えた。

「うちらも食べましょう。食堂に集合ですよ」

 メイド長の声がここまで響く。


「どうじゃ。あとからで良いか」

(仕事はあるらしいけど、何をするか知りたい)

「かまいませんが、なにかやることはございますか」

「働き手が揃ったしなー。どうやろう」

「貴族の令嬢にはな、仕事があるんじゃ。お手振りで慰労と慰めの挨拶じゃ」

 キャリロン王女が話すのは、労わりの言葉をかけることらしい。

「女は見られて綺麗にもなろう。一石二鳥じゃ」

「お手振りなー。アカリーヌはどうしてるんかいなー」

「普通に話すだけですが。うん、マームがなにかいっておりました」

 着飾ってなんとか言ってたのを思いだす。家柄のちがいか。いや、忘れてるだけかもしれない。

(私に似合うと思えないしねー)

 いまはやるしかない。キャリロン王女が衣装棚へ案内して、薄い生地のマントが並ぶ場所を引き寄せる。

「好きな色を選ぶと良い」

「もったいない。あの、王家のしきたりでしょうか」

「そうやろうなー」

 ハルナも、そのまま顔見せをすると思ってたようだ。

「王城としてでかけるゆえにな。私一人では見栄えしないんじゃ」

(そういうわけか)

 引き立て役だろう。かといって美容コーナーで、引き立て役というよりは施術で注目もされる。たぶん、言葉の意味が少々ちがうのだろう。


 アーホカがオーボチャマ王子の紹介だというのは気になる。

(魔王エーアイと関係あるのかな。ゴテン橋は前の王朝時代のものというから)

 イケスカナイ王朝は科学信仰だったと聞いていた。オーボチャマ王子が橋に拘るのも、なにかの繋がりを予想させる。アーホカは魔王エーアイ信仰と、はっきり言ってたから。

(分からないや。ニーバンなら知ってることがあるはず)

 ゴテン橋の何を調べるのか、ニーバンなら聞いていると考えた。

(でもさー。それしか話題はないかなー)

 恋の甘い言葉は思いつかないというより、ロリコン子爵を思いだすようなことは遠慮したい。

(フーモトでは、もっとアイドルっぽくしていいということか)

 マームの話してたのが、少しは分かった気もする。

(ま。着飾るのは苦手だしさ。大人の貴族って雰囲気はつくりゃなきゃ)

 アカリーヌは自分なりのやり方があると思うし、ハルナとキャリロン王女は、お手本として良い関係になりそうだ。

(友達ってやつだよ。なにか遠慮する庶民とちがって、気兼ねなく付き合えそう)

 夏の嵐が何かを成長させた。

 





 


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