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恋と美容術で男爵令嬢は天下を取りに行く  作者: 乙巴じゅん
4章・美容術リン波念力の奥義
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再び実験台のダニエル

 正午になってもやけに晴れて、台風前と思えない。商店街の美容コーナーへ着くと、さっそくダニエルを練習用に使う。

「やはり、本気を出さないと勝てないらしい。覚悟してね」

 椅子の背もたれを倒しながらいう。

「覚悟とは、美容術じゃないのか」

 ダニエルはなにをされるか不安そうな顔で、身体が前へ逃げる。その気にさせるのがハルナ。

「覚悟を決めて立ち向かうんやなー。男やのう」

 ここで引き下がれないのが男性なのか。

「姉上のためなら。いや、女性のためなら危険も怖くない」

 ハルナを意識した言い方だが、アカリーヌは相手している暇もない。

「やはり鎖骨から始めるのがいいと思うし、脱いでダニエル」

「鎖骨からだろう。脱がなくていいし。うん、ちょっとだけなら」

 肩を見せるぐらいで、鎖骨は施術できるだろう。ボタンを緩めるダニエルの肩は、しばらく見ないうちに筋肉もついたようだ。 ダニエルがちょっと恥ずかしそうにハルナへ目を向けてから仰向けになる。

 新しい指使いも習得したい。

「リン波美容術の奥義、踊る関節技」

 顔の上で指を屈伸させる。人さし指から小指、そして逆に開く。

「物騒な」

 慌てて身体を起こそうとするダニエル。

「弟で遊んでんなー」

 ハルナが微笑みながら見守る。

(見せる演出も必要だよねー)

「宣伝のため、良い名前がないかしらね」

 タオルをダニエルの顔にかけながら、鎖骨も竜の涙で湿らせる。

「蝶の戯れみたいやなー。それとも」

 ハルナは指の動きを見ながら、施術方法の名前を考えているようだ。

 椿油を使いマッサージにはいる。やはり鎖骨からだと腕を曲げて姿勢もかがむ感じか。

 顔の皮膚は薄いし、1mmもない。リンパ管の流れは先端から、鎖骨に至るまで半日から約一日もかかる。急いでリンパ液を流そうとしても上手くいくものではない。だから高速で指を動かすこともない。ゆったりとした動きだ。

 連打するように、小指から人差し指と鎖骨の中央から外側へ、肩先に続く窪みまで摩る。首、あごの下、耳からは下降するように。

 ゆっくりでも、四指が連続して当たるし、力具合が微妙に変わりリズムを作る。手の大きさと部位を考えれば、何回も繰り返す必要はないが、繰り返すことで快感を生む。

 顎から耳元へ。カーブを描くので、曲がりに応じて四肢の連打を繰り返す。下手に肌へ密着させると、圧迫してしまう。肌を押さえて小顔になるわけでもない。

 頬は人さし指から連打していく。狭い目元や眉間はコントロールしやすい中指で、触れるか触れないかのタッチで滑らせる。

 いつの間に近づいたかアーホカが声をかける。

「マッサージの真似じゃないの。指が浮いているし」

 施術者が後ろで覗くようにしていた。台風前で客足は鈍いらしい。

「これが魔女の奥義、名前未定ですね。念力により肌を綺麗にします」

「ほんとに念力を送っているのかしら。真似でしょ」

 しかし、施術者は微かにまつ毛を下げて考えているふう。

(同じ接術をするものとして参考にしたいのかしら。私もハルナ様から習ったし、お互いに競い合うのが技の向上になると思う)

「これが念力、指の魔女。あっ、そうか。妖精の指を手にいれたから」

(ニーバンが魔女を妖精とよんでいたんだしね)

「妖精? ゴブリンか。私たちには魔王エーアイの科学力があるわよ。コラーゲンで肌をぷりぷりにできるから」

 自信満々な表情で戻るアーホカ。施術者は指を動かして確かめながら後を追う。

 ほほう、と何か分かったようなハルナ。

「コラーゲンでぷりぷりやてー。なにか勘違いしておるなー」

「そうだね。それなら、イザベル様たちがどう思うか、試してみようか」

 マッサージオイルとして使うと考えているだろう。経皮吸収だとアーホカは思っているらしい。 

(これで、挽回できる。あの女も勘違いがあるんだ)

 そして、ケイヒキュウシュウ美容術がコラーゲンも含むとなれば、印象はわるくなるだろう。

 ねえちゃん、と声をかけたのはダニエル。起き上がって鏡を見ている。

「ほんとうに妖精の指だったのか? 指先からメロディーが聞こえるように柔らかい。タンポポの綿毛みたいだ。お転婆なお姉ちゃんとはおもえない」

「おてんばは余計なの」

 柔らかい口調。べつに怒ってるわけでもない。

「でもいいか。妖精の指だ」

「名案でんなー。見てて楽しいのー。エンターテインメントでっしゃろう」

 ハルナも気に入ったようだ。エマのいう、舞台での違いは出せる気がした。

 マッサージのやりかたは色々あるし、アカリーヌの方法は指関節を柔らかく動かす方法。指をコントロールするために、あんがい手首や腕に力は必要だ。

(よし、あとは、ニーバンとのデートだー。はやく3時にならないか待ち遠しい)

 ただ、雲が太陽を覆いだした。風より雨が先行する台風らしい。再び鳴るラッパ音は、思ったより早く近づくのを知らせる。

「パーパー パーパッ パーパーパッ」

 夜の意味だが、その前に風も強くなるだろう。今は施術について考えながら、大雨にならないように天へ頼む。

 ラッパ音がなり、しばらくするとキャリロン王女がやってきた。

「3時までに、台風対策を終えるよう準備いたせ」

「きょうは暇やからなー。椅子とかはつないで置きましょかのー」

 メイドへ準備させる。

「軒下か。マーム、火は消して置いて」

 台風の経験があるらしいハルナのやりかたを見ながら棚のタオルなどもテーブルの中へ片づける。キャリロン王女は各コーナーへ合図しにいく。

(わざわざ自分で伝えるのに意味もあるのよね。威張りたいだけじゃなくて)

「仕切り家やからなー。こういうときも率先しよる。威張ってても好意を持たれるんやろう」

 部屋に座って支持するタイプではない。

「そうだね。台風はあとから大変だよ」

 幼いころのことを思いだす。直撃なら同じような避難民もでてくるだろう。

「去年は大きいのはなかったのー」

「風や雨は空の恵とかいってるし」

 暑い夏に凌ぎやすい気候にもなるがどうだろう。どちにしても、3時からのデートはどうなるのか気にしていた。


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