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恋と美容術で男爵令嬢は天下を取りに行く  作者: 乙巴じゅん
4章・美容術リン波念力の奥義
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ニーバンに竜の目の涙を飲ませる

 通路の入り口に現れた騎士。続いて乗馬着の男性。

「ニーバン! そうか、オーカウエ地方だから」

 ここはイケスカナイ王朝の元居城。アッチスグ公爵の領土だ。ニーバンがいてもおかしくない。

「アカリーヌ、なぜここへ」

 話すと、つる草で身体を支えながら、するする降りてきた。騎士も同じようについてくる。

「立ち入り禁止と伝えたはずだ」

 魔女が不満そうにいう。知りあいらしい。

「アカリーヌは友達だ。それで、どこから」

 魔女に用事はないという素振り。

「裏庭みたいな場所だよ。古い城に用事なの」

(梯子を上ってとはいえないよ。やっぱりねーはしたないかなー)

 魔女は何かに気付いたように様子を見守るふう。騎士とマームも一緒に成り行きをみていた。

「城を整備しようと思ってな。それより、あれか。隠れ家みたいなところか、ここは」

「そんな感じ。魔女様に美容術の奥義を教えてもらったの」

「森の妖精にか。立ち入り禁止だといってたが、アカリーヌは許可されてるのだな」

「昔から、フーモト男爵家とは関係あるらしいから」

「なるほど。城の階段を降りてすぐか。立ち入り禁止の理由は、知られたくないものがあると」

 ニーバンが考えるように顎へ手をあてる。

(うわっ。勘がいいんだ。ばれちゃったかな)

 もしかして気づいたのか。アカリーヌはあまり嘘をつけない。

「魔女様の許可があるなら、教えるけどさ」

 魔女へ目を向ける。竜の目の涙を白状して良いのか。

「ここまで来たらしかたあるまい。ニーバンとやら、国を亡ぼすかもしれないぞ」

「それを防ぎたいのだが。気づいてるかもしれないな。竜の目の涙が欲しい。王子様に飲ませて、真意を確かめたいのだ」

 ニーバンも正直だ。ついでに聞きたいこともできた。

「好きな人もいるんでしょうね」

「好きだよ。なにか」

 まっすぐに見つめられてとまどう。

(そういうわけじゃ、あるけど。それじゃないっていうか)

 睨むような視線とはちがうが、最初のときと同じで、やはり女性の考えに鈍感な男性ではある。

「いや。ま、別に」

 まずは詳しく、王子の何がわるいのか知りたい。

「竜の目の涙は、すぐそこ。確かめてみる?」

「すぐ、そこ。あれか、あの小さな泉。燭台の下は暗いものらしい」

 魔女には説明したいことが有るらしい。

「この泉は誓いの泉と呼ばれていた。夫婦になる二人が嘘偽りのないことを宣言する場所だった」

 それで、アカリーヌが男性を試すのには、使うのを許可したらしい。

「イケスカナイ王国で最後のフンヌウ王は疑い深くてな、臣下の忠誠心を確かめようとして、宴会を開いて竜の目の涙を飲ませたのだ」

 そのあたりは歴史書でニーバンも知っているらしい。

「地域の豪族は、もっと領土と権力を欲しがっていた。それで、本音で言い争い、武力衝突になったと書かれている」

 アカリーヌはフーモト男爵家の伝え話で知っていた。

「まだ侯爵だったアトゥカラ大将が優位になり、城を攻めたと。フーモト男爵は、協力した地元の豪族だったらしいよね」

 魔女はうなずく。

「ときの令嬢トモーエヌが、手薄だったこの場所へ岩をよじ登り、門を蹴飛ばして壊した。そこからアトゥカラの騎士たちは、直接に王城を攻めて落としたのだ」

「お転婆な方だ。血は争えんな」

 ニーバンがアカリーヌへ目を向けて言う。

「いや。梯子を使いましたよ、私は」

「はしご。道はないのか。てっきり」

 細い道があると思っていたらしい。

(教えなくていいことを言ってしまったじゃん)

「男爵家が当時から続く家柄だからね。王子様がなんとか、教えてちょうだい」

 話を戻したい。魔女も、そうだったな、と袋からなにか取り出す。

「また恋の話だと、携帯浄水器を準備していた。飲みなされ」

 銅製の筒で先がラッパ状になっている。泉から柄杓で、竜の目の涙を掬って入れると、やがて下から水が漏れる。竹製のコップで受けるとニーバンへ渡した。

「変わるのか。俺は嘘をつかないし見分けがつくのか」

 コップを両手で受けて飲むニーバン。

(へんに丁寧な飲み方をするね。豪快さと繊細さを持ってるんだ)

「冷たいか。やはり竜の涙とはちがうな。オボーチャマが飲んでくれるか」

「王子様を呼び捨てですか」

「兄弟みたいなものだ。あれはなー、欲しいのは、何をしても手に入れるやつだ」

「王女様も」

「女というより、むしろハーマベ王国と縁を作りフンヌウ商会へ近づきたかったんだ」

 魔女は、その会社をしっているようだ。

「社長がフンヌウ王の末裔だ。なにか企んでいる。戦争より貨幣で支配しようとしているかもしれない」

 イケスカナイ王朝で最後の王がフンヌウだ。

 そうだな、とニーバンは納得したようにうなずく。

「流刑地へオボーチャマは視察しに行ってるが、待遇を良くしようと平屋を作っている。貨幣が絡むとなれば広大な商店街とも考えられるな」

「商店街なら、わるくはないでしょ」

 アカリーヌとして貨幣の流通には歓迎している。しかし、魔女が不機嫌にいう。

「怖れなさい。あの原野は魔女の館があった場所。水も食料もない、庶民には縁もない。最近は森の木を伐り、なにか作っている。聖女様には止めるようにお願いしているところだ」

「たしかにねー。不便だし、わざわざ遠くまで行かなくても、各地に市場があるし」

 王都だから商店街も成り立っていると気づいた。ニーバンはなにか思いついたようだ。竜の目の涙のせいか、思うことを喋る。

「砦か。フンヌウ商会は王国の復興を狙っている。金に釣られてオボーチャマは加担してると。いや想像だが、そういう考えもある」

 なにか大きな話になりそうだ。

「ねえ、ニーバン。竜の目の涙は効果があるかしら」

「うん、これは話さなくていいことを喋ったか。なるほど、隠そうとするのは、一番気にしてることだ。それが言葉になってしまう。オボーチャマのお金の話に気をつけろよ」

(意識するから喋ると。正直な人には縁もない水だね)

「そうだね。王子様にも気を付けなきゃ」

 そこでしゃしゃり出たのがマーム。

「ニーバン様。まだゆっくりする時間はありますか、お嬢様と」

 それは気がかりだが言い出せないし、リン波念力の奥義も練習したい。それなのに、ニーバンの垂れ流しは止まらない。

「アカリーヌ、ずっと一緒にいたい。結婚しよう」

「あの。あまりにも急だし、まだ付き合ってないし」

「そうだな。いや、何か言ったか。いや。まだ早いか。ちゃんと、次に会う約束とかしていいかな」

「そうだね。今日は勝負もないし、3時あとからお茶でもしたいです」

(ゆっくりした時間を早く作りたいのは確かだしね。お喋りするだけ。そうそうお話だけならねー)

「それでは後からだな。竜の目の涙の効果は続くのか」

「飲んだ量にもよるけど。ニーバンは正直だから。いっぱい飲ませた人は半日も続いたみたいね」

「これでは、おべっか使いは大変だ。お城の役任に飲ませたいな」

 魔女が慌てて言う。

「国が混乱する。嘘も方便というだろう」

「大丈夫だ。ちょっと、どのようにして王子ちゃまに飲ませるかだな」

 効果は薄れてきたらしい。それでも、アカリーヌへの思いは、結婚を口走るぐらいの強さだ。なぜ、と理由を問うのは野暮でもあろう。

(私も一目ぼれみたいなものだし。縁かしら)

 いまは信じられてないモノを信じてみたい気にもなった。

 それでも聞きなれない音が響く。緊急用のラッパ音だ。聖女たちがモールス信号で知らせるのは世界で共通だ。

 「パーパッ パッパー パーパーパッパッ パッパッパー」

 台風の警報だと分かる。短い音は理解できた。ニーバンは続くラッパ音も解読できるらしい。

「明日か、今夜かな。近づいたら、急に天気が変わる」

「雲の流れに気をつけなきゃね」

 デートの時間までは、良い天気であって欲しい。


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