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恋と美容術で男爵令嬢は天下を取りに行く  作者: 乙巴じゅん
4章・美容術リン波念力の奥義
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美容術対決の一回戦が決着

 美容術の対決も最終日。コマチが遊びに来た。正確には椿油を買いに来たのだ。

「椿油が安いから。うん、商店街はなんでも高いよね」

 竜の涙より、椿油が売れる。たしかに樽を持って歩くのは女性としてなんぎだろう。

「有ったよね。お洒落な陶器に入った椿油が。美容品は高いのがいいのかなー」

「付加価値らしいけど。他人へ見せるものじゃないしね。中身が同じなら、私は安くてもいい」

 なるほど、コマチは浴衣の帯には凝っているらしい。農園の嫁とかで、屋敷だけ構える子爵家令嬢のアーホカよりは豊かな生活をしていた。財力や影響力ではコマチの農園が強い大人の事情があるらしい。

「あのれいじょうは、いつも営業して歩いてる。だから、お客も多いはずだよ」

「営業も必要かなー。ちょっと、フーモト地方からは遠いし、夕方になるから」

 仕事中に営業して歩くわけにもいかない。ただ、アーホカの施術へ、いつも客が並ぶ理由は分かったきがした。

 客とのコミュニケーションみたいなことをしていると、ダニエルがやってきた。

(3時ごろは迎えにくるけど、ハルナ様へ会うのを楽しんでるんだよ)

「きのうはおおきに」

 お喋りを始めた。コマチも若い貴族に興味を持ったのだろうか。話の間に入り込む。

「弟様ですか。あのキューりはいかがでしょう。うちの農園で採れましたのよ」

「これは新鮮そうですな。市場にも置きたい」

 大人ぶるダニエル。姉としては、一日で変わるわけもないと思う。コマチにとっては商売のチャンスのようだ。

「ぜひとも。アカリーヌ様の弟様なら、フーモト地方でございましょう。荷馬車で、朝のうちにお届けいたせますのよ」

(なるほど。これが営業というものなんだね)

 ハルナがライバル意識を持ってしまったらしい。

「よろしいおまんなー。市場はアカリーヌ様が仕切ってるようやでー。話したらよろしー。なーダニエル様」

「よろしゅうに。姉上のご判断を承りとうございます」

 ダニエルも威厳は持ちたいが、ここで、姉に逆らわないのが賢明と考えたようだ。

「結局は母です。ま、話しておきましょう。婦人会の集まりでは王都へ出かけるはずです」

「婦人会の幹事をなさってるアリス夫人が、そうでしょうか。フーモト地方だと」

「うん。貴族付き合いよりは良いとの考えらしい」

「いやいや、こっちこそ。やはり違いますよ、貴族の方が仲間におりますと」

 雑談をしている間にも、3時の鐘が鳴り、キャリロン王女たちが現れた。

「アカリーヌ。ニーバンとは知り合いか?」

 まっすぐな性格だ。

「市場のお客さまでございます。たまに見かけると話すような仲でございます」

「そうか。恋することは良いことじゃ。女が綺麗になれる特効薬であろう」

(恋といえばこいかな。男女の仲をすぐに恋愛へ結びつけるのが普通なのか)

「さようでございますか」

(蹴飛ばしたことで、次に話すときはどうしようか迷ってもいるけどさー)

「あれはな。蹴飛ばすぐらいがいい男じゃ。相談にのるぞ」

(詳しく聞きたいような、知らなくていいような)

「いえいえ。あの。そろそろ施術の準備を」

 元の婚約者とはいえ、あからさまに言いすぎも問題だろう。公私混同などは考えないらしい。やはり自分の思いのままに行動したい王女様だ。

「そうじゃった。最終日じゃ」

 キャリロン王女は周りへも合図する。いよいよ、美容術の対決が本格的に始まるのか? 

 それより、サナエも巻き込むはずの恋愛模様がこじれるのか。いまは、考えないでおこう。十万円をかけた施術が始まろうとしていた。

 イザベルとシラベルに伴われてエマたちが現れる。胸の大きく開いたドレスで、舞台演劇風とも思えた。

 マームが小声で教える。

「きょうは昼間に講演があったそうでございます。急いで来られたのかと」

「舞台は厚化粧をすると聞いてるけど。落としたのね。それで」

 クレンジングはしたはず。それでも、必要なのか。まずは肌を見てからだと思う。

 エマは未だ舞台の余韻で緊張しているようだ。

「あの、竜の涙とかいうの。気持ちが安まるから楽しみにしておりました」

「温熱はリラックスしますでしょう」

「そうだね。それより、初登城祝いは華やかだったでしょう」

「華やかというより、王女様の前で男を蹴飛ばしましたが」

「お転婆な令嬢だこと。だれかしら」

「私です。聞きます?」

「これは失礼。というより、シリアスな演技をしたので、喜劇みたいな話を聞きたいところよ」

 それなら、とニーバンと踊ったことを話す。

「イケメンでしたから、まわりの嫉妬みたいな視線もありましたねー」

「演劇より面白いね、貴族たちは」

 エマも柔和な顔になり、なにかを思いだしたように笑う。

「王女様も良く言ったって感じだね。へえー、威張ってるだけじゃない」

「あんがいね。いや、聞いてるかも」

 イザベルたちと並んで審査席に座るのに気づいた。

「楽しそうじゃな。リラックスするのは良いことじゃ。まだ施術は始まらないか」

 たしかにそうだが、肌を観察もしていた。軽くマッサージするだけで良いだろう。コミュニケーションを取るのも施術するときの基本だ。

 美容術で顔面マッサージは肌の刺激で皮下細胞を壊す恐れもある。血液循環が良くなることで肌の代謝は良くなるが、顔の筋肉を鍛えるわけでもない。化粧水で角層を柔らかくしてから、オイルやクリームなどを使って滑りをよくしてからマッサージ。たぶん施術している人は、素人が思うより軽く触れている。

 アカリーヌはいつもより軽く丁寧に施術する。

「デコルテもできるかな。ちょっとやりにくいし」

 エマは自分の手で鎖骨へするのが苦手のようだ。

「よろしいですよ。ちょっとあれですが」

 胸元まで濡れるかもしれない。マームにタオルをお願いして、エマの胸を覆う。耳の下から肩先へと、鎖骨の窪みまで軽く摩る。ちょっと白い粉が残ってたが、すぐに指先で取れた。自分でやるときは反対の手でやりやすい。首と肩の付け根にリンパ節があり、鎖骨はそこへむけて摩る。

「逆だったかな。こう、撫でおろしてた」

「リンパの流れはそうですが、刺激にはなると思いますよ。左側と、できれば、脇などにも大切なリンパ節がありますから」

 軽くさすれば、リンパ液を刺激することになるだろう。

 リン波念力とは、リンパマッサージのことだ。皮膚を押せば、へこむ位置にリンパ管はある。軽く摩っても刺激を受ける場所だ。アカリーヌが施術するリンパマッサージは、鎖骨リンパ節からはじまり、耳のうしろから鎖骨へ。耳の前から後ろへまわし、鎖骨へ。顎の下から耳の後ろへ。顔は中心から耳の前へ。頬骨あたりから顎へ。こうして、最初に戻る。やりかたには、別の方法もあるらしい。初めて、鎖骨からを公開したわけだ。

 エマはアカリーヌが気に入ったようだ。

「椿油もな。商店街で買い求めた。お洒落な瓶にはいっていた」

「やはり、容器もたいせつでしょうか」

「インテリアになる。アカリーヌは飾りが嫌いか」

「そうですねー。高いのはちょっと」

「輸入したカメリアオイルより椿油は安いものだ。やはり女はお洒落がいい」

 コマチも浴衣にはこっていた。

「竜の涙も、樽では売れないからね」

「化粧水もお洒落なもの。フモート地方では手軽に使えるのか」

「湧水ですから。使おうと思えば」

 源泉の場所で施術も考えるが、田舎だ。

「もっと流行れば、フモート地方へお客様を呼ぶことも可能になるはずだ」

 心強いファンができた。リン波念力も、美容術のライバルは多いし、竜の涙を売るのがいいのか。あとひと工夫は必要だと感じた。

 アーホカの施術も終わったらしく、キャリロン王女が立ち上がる。

「勝者を決めるときがきた。施術者とモデルは観客の前へでよ」

 はたして、今度の美容術対決に隠されたテーマは何かも明かされるのだろうか。

 イザベルがエマたちの肌をチェックする。

「無難です。舞台化粧のあとが、どう影響を与えるか見たかったが、さすがだ」

 シラベルも調べてから、眼鏡を外して言う。

「日頃スキンケアをしてるプロの方たちだ。施術者が、やりすぎてしまうこともある。それがテーマだった。うまくゲストのことも考えいる。互角かな」

「そうなると、王女様のご判断に任せよう」

 イザベルが言うと、キャリロン王女は前に出た。

「両者とも見事じゃ。あとは、エンターテインメント性じゃな」

 いかに大衆を楽しませたか。地味な施術にあるのだろうか。

「やはり、流行りを作ることか」

「それなら、果実のサービスでしょ」

 イザベルとシラベルの意見は一致した。

(それかよー。私も乗ってしまっているし) 

 アカリーヌは内心で焦る。技術だけでは商売にならないらしい。リン波念力も、ずば抜けて良い訳ではないようだ。

 キャリロン王女は高々に宣言する。

「ケイヒキュウシュウ美容術の勝利じゃ。拍手いたせ」

 アーホカとゲストが前へ招かれて、手を振る。拍手につられてアカリーヌも祝福はした。

(未だ素人なんだよ、私も。美容術で商売をするのも難しい)

 簡単に千マニーは手に入らないらしい。

(相手と勝負する駆け引きも必要なんだよ)

 エマが拍手しながら声をかける。

「いい勝負だったね。演技も同じ、観衆に受けるか、だから」

「エンターテインメント性はねー。考えてなかった」

「結局は技術かな。舞台では同じ役でも役者によってちがう」

「なんとなく、わかるけど」

「だから、舞台の演技も結局は技術。アカリーヌの柔らかなタッチはまねできないよ」

「そうかなー。誰でもできるのがリン波念力だけど」

「自分じゃ分からないか。とっても柔らかいよ。それがパフォーマンスとして表現できたらエンターテインメント性があると思う」

 一緒に交流して友達感覚もできている。

「試してみるよ。派手な演出は無理だし、技術を磨くしかない」

 魔女が話していた、リン波念力の奥義を教えてもらうときが来た。

(私らしくもないか。お転婆になれば良いのかな)

 施術と言うことで、真面目にやりすぎたかもしれない。竜の涙を化粧水として使う方法を思いついたような発想が、いま欲しいところだ。


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