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恋と美容術で男爵令嬢は天下を取りに行く  作者: 乙巴じゅん
3章・弟の初登城を祝うがニーバンを蹴飛ばした
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初登城祝いで、派手に蹴飛ばした

 礼儀に大らかなニーバン。そしてサナエは、もっと大らからしい。

「なんや。革命に文句あるんか。ニーバンとなら上手くいく。成功するやろ」

「王子様が戸惑うぜ。あれだろ」

「ほっときいな。それより王女様はまだあれやろ」

「もう関係ない。はずだ」

 内輪話みたいにしながら階段を上る二人。アカリーヌとしては、いますぐにでも聞きたい。

(どういう関係なんだろう。ここで聞けないし。へんに馴れ馴れしい)

 ぶっそうな革命の話を二の丸で喋るのも不謹慎だ。ニーバンはやはり国家転覆を企んでいるのか。

 ほかの令嬢たちもニーバンが公爵の第二令息かもしれないと噂する。

「サナエ様と出来てるんでしょうか」

「公爵家としては、あまりにも開放的な」

「でも、助けてくださいましたわね」

 知り合いになりたい思いは同じらしい。

(なによ。私とはため口で喋るのだからね。デートもしたんだからね)

 たまに会うのがデートなのか分からないが、良い雰囲気で付き合っていると思っていた。サナエに問いただしたいが、どのような関係かと逆に聞かれそうだ。

(でも。あれもこれも。いやだー。いちゃいちゃラブラブ、想像しただけでロリコン子爵のイヤらしい顔が浮かぶ。やはり恋愛は無理かもしれない)

 それなら、いつまでも精神的なつながりのままでは、何かが足りない気がする。

(気持ちを伝えあってないからだよ)

 このままで、お互いに良い感じでお喋りするのが理想だが、ニーバンがどの程度好きなのか。いまでも、竜の目の涙を探しているニーバンの真意が分かっていない。まだ知らないことが多いのだ。

 歯がゆさと嫉妬に胃がもたれる思いだが、肉の脂っぽい匂いが、気持ちを現実に戻す。メインのステーキも運ばれたらしい。

「朝はご飯抜きにしたからね」

 胃もたれも消え去り、食欲が増してくる。どうぞ、と令嬢たちも二の丸本堂の中へ案内された。レディーファーストを心がけているのか、あとから令息たちは続く。


 入口から近い場所に男爵家のテーブルがある。ニーバンがどこに座るのか追うが、他の令嬢たちも同じようだ。

 サナエが励ますように、ニーバンの肩を、ぽん、と叩いて侯爵家の席へ座った。ニーバンは王家の座る雛壇へ。やはり王家の、ニートと呼ばれていた、公爵家の第二子息だった。

「なに! 見せつけてるねー」

 つぶやきに、どうしたのお姉様、と声をかけたのはダニエル。

「改まった言い方をするじゃん」

 そうだ、家族がテーブルを前にして座っているんだった。左に座る父のフーモト男爵が期待するような笑顔でダニエルをみつめる。

「初登城で、もう大人だからな」

 貴族の服に、勲章が三個。重要なのから選んで着けて、あまり多く飾らない。特に金色の小さな勲章は特別らしい。

「アカリーヌも、座って。熱いうちが美味しいから」

 父の右に座る母が急かす。大人の女性は落ち着いたロングドレスを着る。

 家族が揃わないと食事が始まらない。先ずは食べることに専念。肉は久しぶりだが、庶民は鶏肉をたびたび食べているらしい。飼育しやすく、貢物にするほど貴重でもない。

卵は時々おすそ分けをもらっていて、常食していた。

 司会者が産地はどこだとか紹介したり、お世辞を並べる。なにより、サクランボがフーモト産なので、ちょっと自慢したくなる。

「紳士淑女諸君。宴もたけなわになりました。これからバンド演奏によるダンスタイムになります。食後の余興にお楽しみください」

 落ち着かない様子で、前を窺うダニエル。ハルナを捜しているのだろう。

「ハナレテル伯爵家は右の端っこ。ほほう、なにを期待してるのかなー」

「別に。伯爵家だから、弁えている」

 それに父は興味があるようだ。

「ハナレテル伯爵か。鮎の養殖に成功したらしい。それで一緒に、川を利用した船の運搬を計画している」

 舟を使った移動手段で同じ意見を持っているらしい。

「鮎の養殖。私は研究したいから、ハナレテル領へ勉強に行きたい」

 ダニエルはハルナと共有したいものが有るらしい。

「鮎は近くでとれますよ。ダニエル、さっそく明日から飼育してちょうだい」

 母が言う。確かに天然で小さいのは川にいる。

「そうではなくて。あの」

 淡い恋だと告白はできないらしい。アカリーヌは食べなれたサクランボを含み、甘酸っぱさに、この時期だよねー、と季節の香りを楽しむ。

 ざわめきが起こった。前の方で令嬢たちの小さな声が聞こえる。

「お立ちになった。踊ってくださるのだわ」

「どなたかしら、それとも、これからお気に入りの方をお捜し」

 ニーバンが王家の座るテーブルをあとにして伯爵家たちの並ぶテーブルへ向かう。王子と王女が率先しておどり、何組かが踊っていた。

 髪をかき上げたり、服を整えたりする令嬢たちを尻目に伯爵家のテーブルを後にするニーバン。子爵の令嬢たちは半ば腰を浮かせて待っている。

(サナエ様と踊ればいいじゃん。あんなに見せつけたんだし)

 サクランボをやけ食いだと含んだ。そこでニーバンの声がした。

「本日はお日柄も良く。フーモト男爵様におうかがいをもうします」

(改まってなんだ。ま、家長に断るのが常識だからね)

「本日はお日柄も良く。おそれいります。さて、ご用事というのは」

 父はいつも仕事だとの姿勢だ。

「ご令嬢のアカリーヌ様と、踊っていただけると光栄でございます」

(いや、ちょっと待って。変に意識しちゃったらロリコン子爵の指を思いだして、蹴飛ばすかも)

 しかし、断る理由もない。いまは、なかば恋しているという感じ。アカリーヌは親を前にして戸惑う。すすんでお受けしますとは言えない。

 父は答えに迷っているふうだ。普通は、よろしく、と承諾するところだが、なぜかアッチスグ公爵とは仲がわるいらしい。性格が合わないのだろう。庶民レベルでは交流も盛んだ。

 母が積極的だ。

「よろしいじゃないの、あなた。アカリーヌが嫌ならお断りしますか?」

 子爵の娘だった母が父以上に貴族へ拘りもあるらしいが、表にはださない。

(社交的な付き合いと割り切れば問題はないでしょ、たぶん)

「私でよろしければ、お受けしますわ」

 答えながら、ダニエルが何か知っているような顔でうなずくのも見えた。

(市場へ来たといってたが、私のことを喋ったのかな。ま、社交上の付き合いだ。蹴飛ばすようなことは起こらないと思う)

 たちあがり、ニーバンのエスコートで前のほうへ歩く。令嬢たちの羨望と驚きの声を感じる。

「ダンスが好きなのよ」

「あたしとも踊ってくださるかしら」

 ここで、令嬢たちを見返したい思いも出てきた。

(爵位が高くて良いドレスを着けても。私を選んだよー)

「ニーバン様と踊れて、嬉しく思いますのよ」

 微笑んで周りへ視線を流す。

「肩が凝る。さま、はいらないよ」

 わざわざ顔を寄せて囁くニーバン。しかし、この場では、様、だろう。そして気になること。

「王女様も、肩が凝ると聞いたことあるらしいけど。公爵家なら親戚みたいなものだし、話した?」

「それな。婚約してたから」

「ええっ。こん」

 大きな声にみんなが注目したのに気づいた。蹴飛ばすより恥ずかしい。

 まあまあ、とニーバンが宥めて、踊場へ。席へ戻ったキャリロン王女と目が合ってしまったが、すー、と逸らされた。

(たしかサナエ様がなにか言ってたはず)

 踊りは簡単にワルツに合わせて揺れながら踊り場を回るだけだ。お喋りが目的でもある。

「サナエさまがおっしゃってた、あれって。それ?」

「たぶんな。王女様は切り替えも早い方だ、問題ない。それより王子様だよ」

「戸惑うとか。なにかあったのかしら」

「サナエ様と婚約してた。革命なら、婚約破棄を蒸し返されないか心配もするはず」

 王家と公爵家、そして侯爵家を巻き込んだ恋愛事情がみえてきた。ちょうどアカリーヌはサナエの前を通るが、長いまつ毛を伏せてワインを飲んでいる。わざと無視したようにも思える。

「複雑なんだね。余りもの同志。サナエ様と一緒にならないの」

 半分は冗談だが、ニーバンがうなづいた。

「親同士は結婚させたがっている。いまは、ちょっとやることがあるからな」

(断れよー、気がないなら。いや。気が有るのかな)

 聞き方によっては、前向きにも受け取れる。流れから、公爵家と侯爵家での縁組はあり得るだろう。

「ニーバンも色々あるね。そうだ、ニートなのに何をやるの?」

「女王様から特命。竜の目の涙を探している」

(そこへ話は行きつくのか)

 フーモト地方には無いと思ったはずだが、諦めきれてないのか。

「どこかにあると良いね。誰に使うか、まだ内緒なの」

「王子様。前に話しただろ。本音を聞いたが、庶民へは綺麗ごとだけを並べている」

(王子様!)

 身内の話では正直に喋ったようだ。

「べつに貨幣を流通させるのは良い話と思うけど」

「だから、竜の目の涙を飲ませてから、聞いてごらん。イケスカナイ王の城で飲んだと記録にはある。近くで水のある場所は、フーモト地方だよな」

 オーカウエ地方に旧王統の城跡がある。その下はフーモト男爵の屋敷だ。

「さすが名推理。お酒を竜の涙で水割りにして飲んだんだよきっと。酔っぱらって喋ったと」

 そういうことにしておこうと決めた。

「サナエ様も、同じことを言ってた。竜の目の涙に何か未知の成分があるかもしれない」

 (ここでサナエ様がでてくるのか。ま、いまは無視しよう)

「そうだね。女王様も知っているんだね竜の目の涙は」

「伝説だからな。存在を信じたい思いはあるようだ。話してみるか」

「誰と」

「女王様と。ほら、すぐそこにおられる」

(いやいやいや、この場所で気軽に話せる相手ではないでしょ)

「きょうは、お祝いだし。べつにお話しすることもない」

「いいから、いいから。竜の涙、化粧水にも関心を持たれておられる」

 ニーバンは、気に入った考えと思ったようだ。アカリーヌの右手を引っ張って女王の前へ歩こうとする。

「もう。怒ったからね」

 言いながらも右足は既にドレスを扇型に広げた。思い切りニーバンのわき腹に兎皮の靴が当たった。

「ぅわっ」ニーバンが悲鳴を上げて、手を放す。

 伴奏が止み「なんだなんだ」騒ぎがまわりで起こった。

(やっちゃったなー)

 無意識に防衛本能が働いたのはよくある。

 王様も座る目の前で、お転婆ぶりをいかんなく発揮してしまった。また縁談は遠のく。

「ごめんなさい。つい」

 縁談どころではないはず。ニーバンは苦笑いのような表情で、頭をかいて恥じるようだ。

 軽く拍手して立ち上がったのがキャリロン王女。

「素晴らしい余興であるな。女も選ぶ権利があろう。存分に遊ぶが良い」

「サプライズだったのか」

 安心しような声が響き、伴奏も再開する。アカリーヌは演技が終わった役者のように一礼すると家族の待つ席へ歩く。令嬢たちがキャリロン王女の言葉に刺激されたか、腰を浮かせて、積極的に令息たちへ話しかけていた。

「勇気をもらいましたなー」

 ハルナも立ち上がり近づく。

「王女様のフォローで助かりましたわ」

「あー見えて、女の味方だからのー」

「たしかに、あーみえて、ではありますよね」

 ただ威張っているだけではないらしい。女性の地位向上のためだろう。

(だけど、どこまでついてくる)

 後ろにハルナが歩くのを感じながら、家族の席を前にした。ハルナがフーモト男爵へ挨拶しだした。

「本日はお日柄も良く。ハナレテル伯爵家のハルナと申します」

「本日はお日柄も良く。ハナレテル伯爵様とは一緒に仕事をさせていただいてます」

 フーモト男爵としては、歓迎する相手だろうが、アカリーヌは予想ついた。

(ダニエルを誘いに来たか。勇気をもらったって、こういうことか)

 考えている間にも、用件にはいる。

「初登城のダニエル様へお祝い申し上げます。これを縁に踊らせていただきたく、参上いたしました」

「それはそれは感謝申し上げる。ダニエル、良きお誘いだよ」

 言われなくても、満面笑みのダニエル。

「こちらこそ、よろしゅうなー」

 立ち上がりハルナをエスコートやりだした。ぎこちないが練習はしていたはず。

「蹴飛ばされるなよ、ダニエル」

 エール代わりに言う。

「お姉様じゃありませーん、よーだ」

 ダニエルが振り返り、べー、と舌をだすが、真剣な表情になりエスコートを続けた。


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