オボーチャマ王子の提案とニーバンの忠告
イベントのお陰か、アカリーヌへ施術を任せるお客様もいる。隙間をついて来たのは王子。燕尾服の男が知らせる。
(身近にお話できるかしら)
直接に話す機会は少ないし、ちゃんと喋られるかも気になる。
「オボーチャマ王子の視察でござる。お手を休まれよ」
化粧コーナーへやってきた。
「ちょっとなー、お手洗い急ぎますよって」
ハルナはメイドと一緒に出てゆく。急にかと思うが、逃げる言い訳だろう、王家とは距離を取りたいのかもしれないが、キャリロン王女にも凝りているらしい。
「ごゆっくり」
送り出すいとまもなく、紫の大きなマントを羽織るオボーチャマ王子が声をかけて来る。
「フーモト男爵家のご令嬢と聞く」
脂肪が溢れるような顔で笑う。
(元はイケメンらしいけど。太りすぎだと年配の方たちが噂していたね)
「はい。アカリーヌと申します」
「頼みは例の市場のことじゃ。一万マニーの参加金は百マニーで良いぞ。そっちからフーモト男爵を口説いてくれないか」
「そんなに安くなるのでございますか。なにかカラクリがあるような」
つい、疑問を口にだしてしまう。男性の話は警戒もして構えている。
「正直じゃな。アカリーヌもお金に興味があろう。貨幣流通促進会の仲間じゃ。儲け方を教えよう」
(そういう会もあるのね。儲け方ってものがあるのかしら)
「庶民でも肉や米がたくさん食べられるなら、お金も欲しいでございます」
貨幣流通促進会があるなら協力したいが、百万円が一万円に変わるようなものに、だれでも疑問を持つだろう。
アカリーヌが興味を持ったと思ったか、オボーチャマ王子は説明するように手で金を数える仕草で話す。
「市場でテナント料を取れ。すぐに百マニーは集まるでな」
(場所代ってことかしら。いやいや違うでしょ)
「元は物々交換で、補い助け合うのが市場でございます。土地は地元への奉仕だと考えております」
「古い考えじゃ。いまからはなんでも金に換える時代。商店街も百マニーのテナント料を取りたいが、キャリロンが反対しおる。それで、各地の市場から先に進めるつもりじゃ」
王子と王女は話し合いもしていて、考えの合わない部分もあるらしい。
(王女様がいない間に、各コーナーへ直接に勧誘してるんだ)
「とにかく。ちがっちゃった。恐れ入ります、父がお決めになることですので、私からはなんとも」
いくら市場を任されたといっても金を出すのは父だ。
「それじゃあ、金貸しはどうじゃ。貸した金の利子が儲けになる。金が金を生む時代じゃ」
(金が金を生むねー。どういうこと?)
「わからないけど。母は詳しいから聞いてみたいと思います」
「アリス婦人か。婦人会の幹事をしておるな」
ちょっと困った顔をするオボーチャマ王子。母は、王家へ対抗するほどの勢力がある侯爵家の孫娘だ。フーモト男爵家で一回は断られていたはず。
「ま、良いだろう。良い返事を待っておる」
貨幣の普及は歓迎するが、あまり知らないことばかり言われても、とまどうしかない。
(なるほどね。貸して使うことを援助するのもいいね)
貨幣の流通へ関心はあり、金貸しに興味を持ってしまった。もう少しは知りたいから、母に訊こうと思う。
ハルナたちは頃合いをみて戻って来た。市場は賑やかだし、アーホカたちの施術に反応したか、青果コーナーから地元のキューりや果実の試食を置くように頼まれる。代表のマトーメという男性だが、Tシャツみたいな服に法被をまとう。商売人の一般的な服装だ。
「ギブアンドテイクでいきましょう。美容コーナーの宣伝用看板を置かせてもらいますんで」
「くだものとか試食できるなら、歓迎だけど」
宣伝してくれるのも有難い。ハルナへ目を向けると乗り気みたいにうなづく。新しい試みに賛成らしい。後ろの台所用品コーナーへ避難していて、テナント料のことも聞いたようだ。
「王子様の提案はどうやったんかー」
「あれは、いけませんよ」
大袈裟に手首を振るマトーメ。
「いいときは儲かりますよ。台風とか不作の時も同じ金を払うのは堪忍してくれといいたい」
「ここも、いまのところ百マニーはきついし」
(一日に5人くれば良い方だし。これからかな)
長く続けて常連が増えれば稼げるとは思う。
「安定した収入ならのー」
ハルナは貨幣に詳しいところもあるようだ。
「貸したほうが儲かるようになっとるでなー。いつでも安定した収入が入りおるやろう」
なるほど。神話時代は貸した方が優位だったらしいが、まだ貨幣が普及の段階でも貧富の差を何気に感じていた。
「王女様は良い考えをお持ちだ」
マトーメが説明する。
売り上げの2割を支払い、商店街全体の役にたつことをしたいらしい。
「コーナーの代表が集まり、考えてるところです」
代表が、王女は威張ってるようで親しみやすい、と期待している口ぶり。キャリロン王女が庶民のことを考えているかもしれない。
(でもさー。こうしてほかのコーナーの人たちとお喋りもして行きたいね)
横のつながりで商店街に人間関係が増えるのは歓迎した。
母が金貸しに前向きではないが、ニーバンは何というか気になる。
(母は詳しく説明しなかった。ニーバンなら詳しくお教えてくれると思う。どこか、頼れるよね)
オボーチャマ王子と話せば、どうしても参加することになるだろうし、何か引っかかるものがあった。
試食品を目当てに、足を止める人たちは増えた。すぐにお客様につながらないのは仕方ない。
「朝から来たら変わるかしら」
ハルナへきいてみる。
「そうやなー。予約客が多いでー。仕事中やし、来れないからのー」
「ひいきのお客様をつかむことだね」
市場でも午前中は必要なものを探しにくる人が多い。お洒落するのは仕事を終えた午後からになるだろう。
(市場では午前中にやることもあるし)
管理者として、連絡を受けたりもしている。そして、商店街で朝から働くと、庶民とのつながりが消える寂しさもあった。金を溜めて何かをしようと思うが、美容術のあとは思いつかない。
(お金の使い方か。王子様のいうとおりなのかな)
美容術の対決で勝てば千マニーを儲けるが、もっと能率よく稼ぎたくもなる。
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それでニーバン。4回目の勝負を終えての帰り、駐馬車場で白馬から降りたところで会った。友達みたいな仲にはなったと思う。まずはニーバンの考えを知りたい。
「おひさー。王子様から貨幣流通促進会のことを聞かされたけど。どう思う?」
「おひさー。貨幣の流通は流れから当然だが。やり方がな」
言いながら、ちょっと待って、というふうに騎士へ合図した。
「なにか、色々あるの」
稼げば良いだけではないらしい。
「王子さまはどうか、分からないが。損はしないようなやり方で、相手を騙す輩もある。金貸しとかが代表だ」
「えっ。悪いことなの?」
貸して助けるのがいけないのか疑問だ。
「悪徳業者もいる。ただ大金が必要だし、それを借りることになる。たぶん利子を払って返さねばならない」
たしかに、いまは貸すほどの金もない。
「借り手がいなかったら、帰さなくていいよね」
「規則によるが、その借りた所へ月に幾らかは返すことになる。なにか、始めるつもりか?」
「いや。ニーバンから言われると怖くなるね」
結局は、自分が借りて利子を返すことになるらしい。
「借りる人も簡単にさがせないと思う。訳ありの人だと思うし、返せるかわからないだろ」
「貸したのが返ってこなかったらどうするの」
「ちょっと脅して回収するか、あげたものとして諦めるかだな」
「王子様がそれをしているんだよ。たぶん」
話から考えると、オーボチャマ王子が借りる人を捜していたのだろう。
「どちにしても、王子様の本心を聞いてからだ」
「そのために、この前は会ったの」
「いろいろと。そうだ。明日は休みか。初登城祝いだろ」
「うん。ダニエル、弟ね。こんど初顔見せなの」
「楽しみだな。ちゃらちゃらした連中が集まるから苦手なんだよなー」
言うと、思いだしたように、ちょっと笑った。
「市場へよったとき、若いのが張り切っていた」
コーナーをまわり、話していたようだ。
「庶民たちは、かしこまっていたが。ひとりだけ、やけに馴れ馴れしくしてたな」
「ミテルシかも。市場の監督って立場。同級生なの」
「もっと大人っぽくもみえたが。仲がいいんだな」
「私のファンだよ。言い寄るから蹴飛ばしたけど、いまは市場で貨幣を広めようと協力している」
ミテルシは軽い部分もあるが、世話をやくのが趣味みたいな男性で年配の人の信頼もあり、人望は厚い。
「蹴飛ばした。うん、ありえるか」
会った最初の日に、喧嘩を売ろうとしたのを思いだしたのだろう。
「ありえないっての。やっぱり、金貸しは無理かな」
「まずは、美容術だと思う。金はあとからついてくる」
ニーバンは金儲けに興味はないらしい。アカリーヌも貨幣は使い方が複雑と考えるようになった。
ニーバンは待ち合わせのようで、騎士と一緒に奥へ去って行った。みると、アマクマ侯爵家の四頭立て馬車が停まる。王城で見たこともある。母が公爵家の孫だから、幼いころに乗ったことはあるらしい。乗り心地もいいだろうし、きれいな服を着て男性のエスコートを受ける。
(でもねー)
ロリコン子爵の幻影が現れてしまう。いまは恐れるほどではないが、どうしても、いやだ、との思いは湧く。恋人といちゃいちゃすることは難しいだろう。
「ニーバンとは、良い友達で続けようかしら」
いつものように隣にいるマームへいう。
「明日でしょうかね」
「えっ。なにが」
「お嬢様も、ニーバン様の御身分には興味がないのでございますか」
「そうだ。きょうも聞きそびれた。ま、いいや」
「だから。あしたでしょうね」
マームはなにかを分かりながら黙っているようだ。
「そうだね。貴族なら」
初登城を祝うのは年間行事でも盛大なもの。
(苦手とかいってたのはさ。参加する予定だよ、きっと。ニーバンへ会えるかもしれない)




