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恋と美容術で男爵令嬢は天下を取りに行く  作者: 乙巴じゅん
2章・美容術の対決だが相手は魔王エーアイのカガクを信じていた
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魔王エーアイと魔女スマフォー

 毎日ニーバンへ会えるわけでもなかった。昨日は期待もしていたが、そんなに都合良く運ばない。商店街の駐馬車場で、マームに話す。

「偶然を待つしかないね。ニーバンへ今度会ったら、次の約束を。あっ、だめだ」

 自分から仕掛けたら、いちゃいちゃラブラブへ一直線だろうし、ロリコン子爵を思いだしてしまった。好色そうに垂れた眉と目で、瞳がへんに濡れていた。

 マームはまわりを窺い言う。

「ニーバン様と、お会いしたらよろしいと思います」

「いまは仕事のこと。あの女に負けないわよ」

 ビンタ美容になら勝てると思う。

「仕方ないですね。あの。白い馬が繋がれておりますが、無視いたしましょう」

「えっ。ほんとだ。ニーバンかしら」

 見ないふりできるわけがない。とりあえず白馬へ近づく。尻尾を振り、ぶるるる、と息が荒い。

「危ないよ」

 背後から声。ニーバンだ。すぐ振り返るアカリーヌ。

「おひさ。今日から美容勝負だってさ。賞金が千マニーよ」

「いいことだが、お金は人を変えるから、気を付けて、なっ」

「分かった。それより、なにか用事だったの」

「少し、王子様にな。ちょっとした世間話だよ」

「王子様と。ま、庶民的な方だから。男は気軽に話せるのかな」

 深くは考えないアカリーヌ。ニーバンも詳しくは話さないし、謎多き男性だ。

「そんなところか。商店街は、ちょくちょく来るから、また会えるだろう」

 ニーバンもゆっくりはできないらしいし、アカリーヌも仕事だ。

(物足りないけど、会える機会は増えるんだよ)

 美容コーナーへ近づくと、すでに樽運びを終えたダニエルがハルナと話していた。

「竜の涙は運び終わったでしょ。きょうは実験台にならなくていいからね」

「ちがうよ。いえ、相違であります。あっちのやり方が変わったことを話してた、ました。おねえ。姉貴様のためでございます」

「ハルナ様を意識してるのかなー。高望みだからね」

「お姉様思いの男衆は好きやでー」

 またダニエルをその気にさせる言い方。

(もう勝手にしてって感じ)

 思いながらもアーホカのところを窺うと、ビンタ美容ではない。

「果物を顔にくっ付けてる、でござる」

 ダニエルはアーホカのようすを窺ってもいたらしい。

「果物を。知っておられます?」

 ハルナへ、どのような美容法か訊ねる。

「まえにはレモンを使ってた方がおったのー。あの女が、なにか説明はしておったが」

 アーホカが自慢して講釈をたれたのだろう。

 話しているところへさっそくやってきた。

「ケイヒキュウシュウをあなどるなよ。紫外線対策とコラーゲンでプルプル肌になる、魔王エーアイ様の編み出した美容術だからね」

 紫外線をどうにかしたら、果物やキュウリも納得できる。コラーゲンまで使って、どうするのだろう。

「食べた方が良いと思いますけど。もったいない」

「貧乏男爵家の考えることだな。ちゃんと余った部分は景品として上げている。これが、エーアイ様を崇拝するフンヌウ商会直伝のオマケ商法だ」

「魔王エーアイを崇拝? あんた、何なのさ」

 カガク信仰を警戒した。魔王エーアイの生み出したのは多く、利用もしているが、有害で危険なモノが多い。

(魔女様から危険な考えを持つ集団と聞いている)

 魔女から、すでに消滅したと聞いているAI。予言として有名な『人類は滅びない。生きて地獄へ歩いて行く』を残して能力が消えたはず。再び人類を混乱の闇へ突き落とすのか。

「私は魔王様の意思を受け継ぐ超人の末裔。再び科学の挑戦を目指すものだ」

「わからないけど。自然の恵み、竜の涙は、勝つのよ」

(時代遅れのカガク信仰へ負ける訳にいかないからね)

 アカリーヌが神話の書にも詳しいのは、父のフーモト男爵が王城で書記官をしているから。コピー機もないし、古くなった紙の記録を、新しく書き写すのも仕事だ。それで、神話や古代の話も聞かせてもらっていた。

 近くの森に住む魔女からも口頭伝承を聞かされていて、美容術も知った。魔王エーアイと魔女スマフォーの戦いが世界中に広がり、ゴブリンの操る生物エンツとコクロッチに魔王の都市は破壊されて、自然界へ逃れた人々。主流だった日本国の言葉や習慣を持ち、新しい社会は『ブンメイカイカ』という意味不明な呪文を合言葉に、小さな王国が誕生していったのだ。

 アーホカもアカリーヌのように古代の知識を持っているらしい。

「神話にもある情報だが、美容術には科学でつくられた成分が必要だ。値段も高いし、効果もある」

「自然にあるものが肌のトラブルも少ないのさ」

 交わす言葉は荒いが、美容に対してはお互いに良いライバルになれる気はした。

 

「盛り上がっておるな」

 キャリロン王女がやってきて声をかけた。イザベルともう一人の女性が後ろに控えている。

「美容術を変えたようでございますが、竜の涙は魔法の化粧水でございますから負けません」

「これから美容術もエンターテインメントじゃ。楽しみにしておる。イザベルから説明させよう」

 やっとちゃんと説明が聞けることになった。

 ゲストは準備するらしい。最初に肌質を確認。それで、五日間つづけて施術する。最終日に肌の変化を比べるというのだ。

「毎日の美肌ケアに耐えられる美容術が求められる。注意点は美肌評論家のシラベルから説明させていただきましょう」

 指名されて眼鏡を掛けた女性が、ちょっと礼をして話す。

「美と健康は一体だと考える。また、シミやくすみの原因となるのは減点の対象だ。施術の短い時間をゲストがファンタジーの世界で快適に過ごせる技が望ましい」

 セレモニーも行われるようだし、集まる観客の流れで、施術のお客様も見込める。3時の鐘が鳴るまで一人でも施術できればいいだろう。

(市場にいたころより充実してるよね。これは生き甲斐ってものかな)

 キャリロン王女は思いだしたように補足する。

「初登城の祝いが行われるな。最終決戦は一日延長じゃ。アカリーヌも参加されるであろう」

「はい。弟の初登城もございます」

「めでたいことじゃ。よし、施術に励め」

 そういえば、食事会も大広間で行われる。ハルナはどうか、目を向けるが予約客が来て施術中だ。家族は4人と定められていているが、5人で参加する貴族もいる。ハルナは次女だということで、いままで参加してなかったようだ。

(ニーバンも貴族らしいが、どうだろう。会ったことはないし、自由人みたいだからねー)

 肩がこる、といって参加しないかもしれない。


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