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連載版『ポーションは自然に湧いてくるものだ』と本気で思っていた勇者パーティを追放されたので、補給線を全て遮断しました  作者: じょな


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第4章 第1話:腐る在庫

「……おい、シルヴィ。北の在庫データ、再計算したか?」


神界デパート・会長室。

私は、コーヒーカップを置く音すら立てずに、静かに問いかけた。

窓の外は人工太陽が輝く平和な昼下がりだが、室内の空気は凍りついていた。


「はい、会長。三度確認しました。……間違いありません」


秘書のシルヴィが、タブレットを抱きしめるようにして答える。

彼女の手が震えているのを、私は見逃さなかった。


「北大陸・ルメラ地方支店。……『小麦』と『初級ポーション』の売上が、先週から完全に停止しています」


「減少、ではなく停止か?」


「はい。在庫回転率ゼロ。倉庫の商品は……すべて腐敗し始めています」


私は天井を仰いだ。

ルメラ地方。冬が長く、貧しい鉱山地帯だ。

食料と薬は、彼らにとって生命線のはずだ。それが売れない?

全員が断食でも始めたか、あるいは集団自決でもしたか。

そうでなければ――


「……『供給』されているな。我々以外の何者かによって」


「競合他社ですか? しかし、あの地域にこれほどの物資を輸送できる商会は……」


「輸送じゃない。『湧いている』んだよ」


私はデスクの引き出しから、地図を取り出した。

ルメラ地方。

そこは、我が社の土木事業部長――元勇者アレクセイの故郷だ。


「シルヴィ。アレクセイを呼べ。……今すぐ、現場から引きずってこい」


          ◇


数分後。転移ゲートを通り、息を切らせてアレクセイが飛び込んできた。

ヘルメットに作業着、顔には煤がついている。

南大陸の道路工事現場から、緊急招集されたのだ。


「会長! なんですか、藪から棒に! 今、トンネル貫通の正念場なんスよ!」


「すまん。だが、お前の実家に関わる緊急事態だ」


「実家……?」


アレクセイの表情が変わる。

私は、腐った在庫のデータを見せた。


「お前の故郷、ルメラ地方で『モノが売れなくなった』。……不況じゃない。住民たちが、買う必要がなくなったんだ。何か心当たりはないか?」


アレクセイは目を白黒させ、そしてポケットを探った。


「あ……そういえば」


彼が取り出したのは、皺くちゃになった一通の手紙だった。


「昨日、母ちゃんから手紙が来たんです。『仕送りをありがとう。でも、もうお金はいらないよ』って」


「金がいらない?」


「はい。なんか……『村に裸足の聖女様が来てくれたの。お祈りすれば、パンも薬も、全部タダで分けてくれるから』……って」


その瞬間、私の脳内でパズルのピースがハマった。

同時に、背筋に悪寒が走った。


「……タダだと?」


「会長? ただの慈善活動じゃないスか? 俺の母ちゃんも喜んでるし……」


「甘いな、元勇者」


私は立ち上がり、セレスティアを振り返った。


「セレスティア。ルメラ地方へ『遠見』を繋げ。……アレクセイに、現実を見せてやる」


セレスティアが面倒くさそうに指を弾く。

空中に浮かんだ映像。

そこに映っていたのは、かつての活気ある市場ではなかった。


静まり返った広場。

商店はすべて閉まり、廃墟のように静かだ。

その中央に、一人の少女が立っている。

粗末な麻の服。裸足。

彼女が杖を振ると、空間が歪み、山のようなパンとスープが出現する。


「うおっ!? すげえ! 物質生成魔法か!?」


アレクセイが声を上げる。

だが、私はその先を見ていた。


村人たちが、列をなしてそれを受け取っている。

金貨を払う素振りもない。

「ありがとう」という言葉すら、機械的だ。

当然の権利として受け取り、無言で立ち去る。

そこには、人間らしい「生活の営み」が欠落していた。


「……アレクセイ。お前には、あれが『救い』に見えるか?」


「え? だって、みんな食えてるし、幸せそうじゃ……」


「あれは『飼育』だ」


私は吐き捨てた。


「タダで餌を与えられ、働く必要も、考える必要もなくなった人間は、どうなると思う? ……家畜になるんだよ」


アレクセイがハッとして私を見る。


「か、家畜って……会長、それは言い過ぎじゃ!」


「事実だ。見ろ、我が社の倉庫を。在庫が腐っている。地元の農家も、パン屋も、これじゃ全員廃業だ。……この聖女は、地域の経済を殺し、人間をダメにしている」


私はジャケットを掴んだ。

この敵は、放置できない。

商売敵としてだけでなく、この世界を腐らせる毒として。


「行くぞ、アレクセイ。案内しろ」


「えっ、現地に!?」


「ああ。お前の母ちゃんが家畜になる前に、その聖女の化けの皮を剥がす」


アレクセイは迷うように手紙を握りしめた。

彼の中にある「善意(タダで助けるのは良いこと)」と、私への「信頼」。

その二つが揺れ動いているのが見て取れた。


(……厄介だな)


この戦い、一番の懸念は敵の聖女ではない。

私の隣にいる、この「お人好しの相棒」が、どちら側につくかだ。


私は気づかないふりをして、転移ゲートを開いた。

商人の本能が告げている。

これは、身内を引き裂く、泥沼の戦いになると。


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