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連載版『ポーションは自然に湧いてくるものだ』と本気で思っていた勇者パーティを追放されたので、補給線を全て遮断しました  作者: じょな


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第3.5章 第5話:『勇者アレクセイの「神界・社員慰安旅行」』

「す、すげえ……! ここが神界かよ……!」


元勇者アレクセイは、口をあんぐりと開けていた。

彼と、元聖女ミリア、元戦士ガンツの3人は今、レオナルド商会・土木事業部の「優良従業員表彰」として、神界デパートへの2泊3日ツアーに招待されている。


見上げれば、黄金のシャンデリア。

足元には、雲よりも柔らかい絨毯。

行き交うのは、神話に出てくる神々や天使たちだ。


「アレクセイ! 見てくださいまし! あそこの噴水、聖水が湧き出ていますわ! これ一本で家が建ちますわよ!」

「うおおっ! あっちの屋台の肉、ドラゴン級の魔力だ! 食いてえ!」


はしゃぐ仲間たちを他所に、アレクセイは緊張していた。

無理もない。彼はかつて「神の啓示」を受けて旅立った勇者だ。

ここはいわば、直属の上司(本社)のような場所なのだから。


「……腹ごしらえするか。1階のフードコートが凄いらしい」


一行は『グルメ・サンクチュアリ』へ向かった。

そこには、高級寿司店『海神わだつみ』の暖簾のれんがかかっていた。


「いらっしゃい! へい、何握りましょう!」


威勢のいい声。

カウンターの中に立っていたのは、筋骨隆々の男神だった。

白衣を着ているが、その全身からは隠しきれない「剣気」が立ち上っている。


「あ……」


アレクセイが絶句した。

見間違えるはずがない。

旅立ちの日、夢枕に立って聖剣エクスカリバーを授けてくれた、武と剣の神『ヴェレス』だ。


「ヴェ、ヴェレス様!? 俺です! 勇者アレクセイです!」


「ん? ああ、下界の。……久しぶりだな、小僧」


神ヴェレスは、柳刃包丁で巨大なマグロを切りつけながら、ニカっと笑った。


「その節は世話になったな。だが今は『大将』と呼んでくれ。ここでは俺はただの寿司職人だ」


「な、なんで剣の神様が寿司を……?」


「剣も包丁も、極めれば同じよ」


ヒュンッ!!

ヴェレスの手が霞む。

一瞬にして、マグロの柵が美しい刺身へと変わった。

その太刀筋は、かつてアレクセイが必死に習得しようとした「神速の剣技」そのものだった。


「今の俺の敵は、魔王じゃねえ。この『すじ』だ。……へい、大トロ一丁!」


出された寿司は、宝石のように輝いていた。

アレクセイは震える手でそれを口に運ぶ。

……溶けた。

脂の甘みと、完璧なシャリの解け具合。そして何より、神の技による切れ味が、素材の味を極限まで引き出している。


「う、美味い……! 俺が今まで食べてきたものは何だったんだ……!」


涙を流すアレクセイを見て、ヴェレスは満足げに腕を組んだ。


「だろ? 人間たちに『戦え』と命じるより、『食え』と言って握る寿司の方が、俺には性に合ってたみたいだ」


かつて「魔を滅ぼせ」と厳格に告げた神はもういない。

そこにいるのは、客の笑顔を見て喜ぶ、一人の職人だった。


「……どうだ、アレクセイ。お前もこっちで修行するか? いい板前になれるぞ」


「い、いえ……俺にはまだ、作りかけの道路がありますから」


アレクセイは苦笑して首を振った。

神様が寿司を握り、元勇者が道路を作る。

なんて平和で、なんてふざけた世界だろう。


「ごちそうさまでした、大将! ……また、食べに来ます!」


店を出たアレクセイの足取りは、来た時よりもずっと軽かった。

神への過度な信仰心は消えた。

代わりに、働く仲間としての、奇妙な親近感だけが残っていた。


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