第3.5章 第3話:天空のショッピングモール・フロアガイド
ピンポーン、パンポーン♪
『本日は、レオナルド・神界デパートメント本店にご来店いただき、誠にありがとうございます。当館は、全宇宙の快楽と物資を集約した、究極のエンターテインメント・タワーでございます』
透き通るような美声のアナウンスが、黄金の回廊に響き渡る。
かつては「静寂」だけが支配していた白亜の空間は今、色とりどりのネオンと、人々の活気あるざわめきに包まれていた。
もし貴方が初めてここを訪れたなら、その光景に腰を抜かすだろう。
**【1F:グルメ・サンクチュアリ】**
かつて神々が瞑想していた大広間は、広大な「フードコート」へと改装された。
地上から直輸入された「ドラゴンステーキ」の香ばしい匂い。
ドワーフ族の職人がその場で揚げる「黄金の天ぷら」。
そして、エルフのパティシエが作る、宝石のようなスイーツ。
「美味い! なんだこの『ラーメン』という汁物は!」
「背脂マシマシだ! 神気など気にするな!」
あちこちで神々が、丼に顔を突っ込んでいる。
彼らの胃袋は、数万年の絶食を取り戻すかのようにブラックホール化していた。
**【5F:カジノ&アミューズメント・フロア】**
中層階は、大人の社交場だ。
地下のゴミ捨て場で生まれた「ブラックジャック」は、ここでは洗練されたVIPルームで行われている。
バニーガール姿のサキュバスが微笑み、タキシード姿のオークがカードを配る。
チップとして飛び交うのは、金貨ではなく「星の命名権」や「未来の運勢」。
ここでは、運命すらもが商品として取引される。
**【R階:屋上庭園「エデン」】**
喧騒に疲れたら、屋上へ。
人工太陽が優しく照らす庭園には、かつてアストライアが愛した「清貧な秩序」が、癒やしの空間として再現されている。
ただし、そこにあるベンチには「有料」のタグがついているが。
◇
最上階、会長室。
レオナルドは、モニターに映る各フロアの光景を見下ろしていた。
「……売上は順調。客単価も右肩上がりだ」
かつての「虚無」は、今や「消費」という名の極彩色のエネルギーに変換されている。
神々は笑い、悩み、そして財布を開く。
それは、レオナルドが知る限り、最も健全で平和な世界の姿だった。
「さあ、もっと回せ。欲望を止めるな」
彼がグラスを傾けると同時に、窓の外で花火が上がった。
それは、神界デパートの「グランドオープン」を祝う、勝利の砲声だった。




