第3.5章第2話:中級神たちの秘密クラブ「リバイバル」
「……下級神たちは騒がしいな」
紫煙のくゆる個室。
壁にはベルベットが貼られ、ジャズのような気怠いBGMが流れている。
ここは、ゴミ捨て場の奥深くに作られた会員制クラブ『リバイバル』。
革張りのソファに深く沈み込んでいるのは、神界でも上位の権能を持つ「芸術の神」や「記録の神」たちだ。
彼らは、外でギャーギャーと騒ぐ下級神たちを、グラス片手に見下していた。
「あんな単純な数字遊びの何が楽しいのやら」
「我々はもっと高尚な刺激を求めているのだよ。……そうだろう、マスター?」
カウンターの中に立つレオナルドが、氷をカランと鳴らして微笑む。
「仰る通りです、皆様。……ですので、今宵は『特別なヴィンテージ』をご用意しました」
レオナルドが取り出したのは、ボロボロの羊皮紙の束だ。
それは、数千年前に人間界で流行し、そして忘れ去られた『悲劇の詩集』だった。
「おお……! それは『失われた都の恋歌』か!?」
「懐かしい! 人間たちが涙を流して詠っていた、あの不合理で美しい感情の記録!」
神々が身を乗り出す。
彼らにとって、すでに知り尽くした「真理」は退屈だ。
彼らが飢えているのは、不完全で、愚かで、だからこそ輝く「物語」だ。
「今夜の賭け(ゲーム)は、『解釈のポーカー』です」
レオナルドが羊皮紙を配る。
「この詩のラストシーン。主人公は死を選んだのか、それとも生きて苦悩することを選んだのか。……皆様の『審美眼』をチップに、議論していただきましょう」
「面白い。私の芸術的解釈に間違いはない」
「いいや、私の記録の方が正確だ。……私の管理する『星の輝き』を賭けよう」
場が白熱する。
チップとして積み上げられるのは、神々が管理する「星」や「概念」の権利書。
彼らは気づいていない。
自分たちの高尚なプライドがくすぐられ、レオナルドの手のひらで踊らされていることに。
レオナルドは、神々が議論に夢中になっている隙に、そっとシルヴィに目配せをした。
「(……チョロいもんだ)」
中級神は「単純な欲」は否定するが、「知的な遊び」には抗えない。
「貴方たちだけは特別だ」という選民意識こそが、彼らの急所だ。
「さあ、コールしますか? それとも降りますか? ……プライドの高い神様?」
その夜、数多の「芸術」と「星」の権利が、一人の商人の元へ所有権移転された。
神々は満足げに帰っていった。
自分たちが、身ぐるみ剥がされたことにも気づかないまま。




