表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
連載版『ポーションは自然に湧いてくるものだ』と本気で思っていた勇者パーティを追放されたので、補給線を全て遮断しました  作者: じょな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/53

第3章 第6話:新・リブランディング

ワインの赤と、欲望の黒に染まった白亜の回廊。

その中心で、秩序の女神アストライアは膝をついていた。


「……あり得ない」


彼女は震える手で、足元の床に散らばるワインの破片を拾い上げた。

周囲では、かつて高潔だった神々が、肉を食らい、酒を浴び、嬌声を上げている。

その光景は、彼女が数万年かけて守り抜いてきた「静謐せいひつなる天界」の死を意味していた。


「なぜだ……。欲望は穢れだ。不純物だ。それを取り除き、完全なる世界を作ったはずなのに……なぜ、彼らは『汚れ』の方を選ぶ……!」


彼女の嘆きは、誰にも届かない。

ただ一人、コツ、コツと革靴の音を響かせて近づいてくる男を除いて。


「簡単なことですよ、女神様」


レオナルドは、アストライアの前に立ち、ハンカチを差し出した。


「貴方の作った世界は清潔すぎた。……『無菌室』と同じです」


「無菌室……?」


「ええ。菌もウイルスもない世界は美しい。ですが、そこで生物は生きられない。我々生命体は、多少の雑菌や汚れ――すなわち『欲望』や『無駄』がないと、息が詰まって死んでしまうのです」


レオナルドは、酔い潰れて眠る下級神を指差した。


「見てください。彼らの寝顔を。貴方の管理下にあった時より、ずっと幸せそうだ」


アストライアは唇を噛んだ。

反論できなかった。

かつて彫像のように動かなかった神々が、今は泣き、笑い、怒り、そして満ち足りて眠っている。

その「生気」は、皮肉にも彼女が排除し続けた「不純物」によってもたらされたものだ。


「……殺せ」


アストライアは、レオナルドを睨み上げた。

その瞳には、まだ理性の光が残っている。


「私は秩序の化身。この混沌を認めるわけにはいかない。私を消去し、貴様が新たな神になればいい」


「お断りですね」


レオナルドは即答し、手を差し伸べた。


「商人は『殺す』ことより『活かす』ことを考えます。……アストライア、貴方をスカウトしたい」


「は……?」


「この世界は、これから巨大な『エンターテインメント・リゾート』に生まれ変わります。そこには酒もギャンブルもありますが、無法地帯になっては困る。客が安心して遊ぶためには、厳格な『ルール』と『セキュリティ』が必要だ」


レオナルドはニヤリと笑った。


「『欲望』というエンジンには、『秩序』というブレーキが必要なんです。……私の会社に来て、そのブレーキ役(監査役)をやってくれませんか?」


アストライアは呆然とした。

自分を否定し、打ち倒した男が、今度は自分を「必要だ」と言っている。

混沌の中に秩序を組み込む。

それは彼女が考えもしなかった、清濁併せ呑む「第三の道」だった。


「……私が、欲望の片棒を担げと言うのか」


「いいえ。欲望が暴走しないように、監視してほしいのです。貴方にしかできない仕事だ」


アストライアは、差し出された手を見つめた。

その手は、泥と油と、そして人間の温かみに満ちていた。

彼女は迷い、葛藤し、そして深いため息をついた。


もし自分が消えれば、ここは完全な無法地帯になるだろう。

ならば、泥にまみれてでも、最後に残った「秩序」を守り続けるのが、女神の役割かもしれない。


「……給料は、高いのでしょうね」


彼女は、おずおずとその手を握り返した。


「ええ。世界一高く買わせてもらいますよ」


レオナルドが強く手を引く。

女神が立ち上がった瞬間、世界が震えた。


「よし! これより『神界リブランディング計画』を発動する!」


レオナルドが指を鳴らす。

地下で溜め込んでいた莫大な「神気」が、一気に開放された。


ズズズズズズッ……!!


白一色だった神殿が、光の粒子に包まれて変形していく。

冷たい石柱は、温かみのある大理石とゴールドの装飾へ。

無機質な広場は、噴水と庭園が広がる憩いの場へ。

空には人工の太陽と星空が描かれ、心地よいBGMが流れ始める。


そこに出現したのは、ただの遊技場ではない。

あらゆる快楽、美食、芸術が集約された、全宇宙最高峰の『神域デパートメント・ストア』だ。


「な、なんだこれは……」


アストライアが絶句する。

かつての無機質な天界が、洗練されたラグジュアリーな空間へと生まれ変わっていた。


「ようこそ、レオナルド・エコノミック・グループ『神界本店』へ」


レオナルドは、眼下に広がる新生・神界を見下ろした。

目覚めた神々が、新しい店舗に列を作り、歓声を上げている。

その横には、シルヴィとセレスティア、そしてスーツ姿に着替えたアストライアが並ぶ。


「これで、下界の生産と、天界の消費が繋がった。……世界経済の完成だ」


レオナルドは、胸元のポケットから一枚のコインを取り出した。

あの、ボロボロの銅貨だ。

それを空に掲げると、人工太陽の光を浴びて、金貨よりも眩しく輝いた。


「(見てるか、昔の俺。……お前の拾った銅貨一枚が、神様を買い取ったぞ)」


彼は銅貨を弾き、ポケットにしまった。

商人の戦いにゴールはない。

だが、今日のところは――この美しき「繁盛」を祝って、勝利の美酒に酔うのも悪くないだろう。


「さあ、開店オープンの時間だ! お客様を笑顔にするぞ!」


『『『いらっしゃいませーッ!!』』』


神々と魔族と人間。

種族を超えた従業員たちの声が、新しい世界に高らかに響き渡った。



くっころー!


本当にこのためだけに、

これを使いたかった。

幸せです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ