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連載版『ポーションは自然に湧いてくるものだ』と本気で思っていた勇者パーティを追放されたので、補給線を全て遮断しました  作者: じょな


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第3章 第3話:地下経済の熱狂

「……ヒット(もう一枚)」


男の声が震えていた。

いや、男ではない。下級神だ。

その肌は土気色で、瞳は白濁しているが、その手だけは異常な力でカードを握りしめている。


「承知しました」


私は、擦り切れたテーブル(元は古代の石碑だ)の上に、一枚のカードを滑らせた。

めくられた数字は『8』。

合計値は『22』。バーストだ。


「あああああッ!!」


神が絶叫し、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

その背中から、キラキラと光る粒子が抜け落ちていく。

『神気』だ。彼らを構成するエネルギーそのもの。


「残念ですね。……では、賭け金の『神気』は頂戴します」


私が合図を送ると、ディーラー役のセレスティアが、専用のガラス瓶にその光の粒子を回収する。

瓶の中では、すでに黄金色の液体がタプタプと揺れていた。


「ま、待ってくれ! もう一回だ! 次は勝てる! 次は勝てるんだ!」


神が私の足元にすがりつく。

その目は血走り、口端からは涎が垂れている。

数日前まで「無欲」を気取っていた高潔な神の姿は、そこにはない。

あるのは、ギャンブルという猛毒に脳を焼かれた、ただのジャンキーだ。


「お客様。これ以上のプレイには、追加のチップ(対価)が必要です」


私は冷たく見下ろした。

ボロボロのシャツの袖をまくり、手元の台帳を指差す。


「貴方の神気はもう枯渇寸前だ。……次は、何を賭けますか? その左腕か? それとも、貴方が管理している『小さな泉の権利』か?」


「くっ……うう……」


神は葛藤する。

だが、一度味わった「敗北の悔しさ」と、勝利した時の「全能感」は、永遠の退屈よりも遥かに甘美だ。

不老不死の彼らにとって、「失うかもしれない」という恐怖こそが、唯一「生きている」ことを実感させる麻薬なのだ。


「……腕だ。左腕を賭ける!」


交渉成立ディール。……さあ、続きを始めましょう」


          ◇


神界の最下層、『忘却の墓場』。

かつては死のような静寂に包まれていたこの場所は今、異様な熱気に包まれていた。


「張った張った!」

「おい、イカサマすんじゃねえぞ!」

「うおおおおッ! 勝ったァァァ!」


ガラクタで作った粗末な屋台が立ち並び、数百、数千の下級神たちがひしめき合っている。

ポーカー、ブラックジャック、チンチロリン。

単純な遊戯だが、そこに「神としての尊厳」や「身体の一部」が賭けられることで、それは最高級のエンターテインメントへと変貌していた。


「会長。……本日の売上です」


裏手の天幕の中で、シルヴィが報告書を持ってきた。

彼女の顔色は悪い。神界の瘴気に当てられ、肌は透き通るように白い。

だが、その瞳は爛々《らんらん》と輝いていた。


「回収した『神気』の総量、ボトル30本分。さらに下級神の労働力を示す『奴隷契約書』が50枚。……予想以上のハイペースです」


「ああ。退屈という乾燥した薪に、欲望という火を点けたんだ。燃え広がるのは一瞬さ」


私はボトルを手に取り、中の黄金色の液体を見つめた。

『神気』。

これが、この世界における新たな通貨であり、動力源だ。

これを集めれば、あるいは……。


「しかし、ボス。客層が変わってきたわ」


天幕の入り口で、見張りをしていたセレスティアが入ってきた。

彼女の手には、没収したと思われる美しい短剣が握られている。


「下級神だけじゃない。上の階層から『中級神』たちが降りてきてる。……嗅ぎつけられたわね」


中級神。

上界で一定の地位を持ち、まだ腐りきっていない神々だ。

彼らが動いたということは、この地下カジノの噂が、上界の「秩序」に亀裂を入れた証拠だ。


「問題ない。想定通りだ」


私はニヤリと笑った。

危機ではない。上客カモが来たのだ。


「中級神はプライドが高い。安っぽい賭場には座らないだろう」


私は立ち上がり、汚れたジャケットを羽織った。


「シルヴィ、セレスティア。店を改装するぞ」


「改装? こんなゴミ山で?」


「ゴミ山だからいいんだ」


私は、山積みになった「ガラクタ(かつての神器)」を指差した。


「ここには『過去の栄光』が捨てられている。中級神たちは、新しいものより、自分たちが捨てたはずの『懐かしい物語』に弱いはずだ」


私は指示を飛ばした。

壊れた神殿の柱を立て直せ。

破れたタペストリーを縫い合わせろ。

そして、賭場の真ん中に、一つの看板を掲げる。


『会員制クラブ・リバイバル(再生)』


「選ばれた者しか入れない、秘密の社交場。……そういう演出に、神様は弱い」


          ◇


数日後。

地下の片隅に作られた「VIPルーム」には、高貴な輝きを纏った中級神たちが座っていた。


「……ほう。下界の人間にしては、わかっているではないか」


ワイングラス(実は欠けた聖杯を磨いたもの)を傾けながら、中級神の一人が言った。

彼らが興じているのは、金銭のやり取りではない。

「神話の語り直し」という賭けだ。

忘れられた英雄譚を、私が脚色して語り、その結末を予想させる。


「退屈な天界のど真ん中で、こんなスリルが味わえるとはな」

「アストライア様には内緒だぞ。あの方は堅物だからな」


神々が忍び笑いをする。

共犯意識。

これもまた、強力な依存性を生むスパイスだ。


私は影でその様子を見ながら、手の中の『神気』のボトルを強く握りしめた。


溜まってきた。

この場の熱狂、欲望、そして神々のエネルギー。

これだけの量があれば、あるいは「あの鍵」をこじ開けられるかもしれない。


「(待っていろ、アストライア)」


私は天井の遥か彼方、白亜の世界を睨みつけた。


「(お前が否定した『欲望』が、お前の足元まで浸水しているぞ)」


地下経済ブラックマーケットは完成した。

次は、この力を使って、凍結された最強の武器を取り戻す。


「シルヴィ。……準備はいいか?」


「はい、会長。ハッキング・プログラムの構築、完了しています」


「よし。今夜、決行する」


神界のシステムへの、強制介入ジェイルブレイク

商人の反撃が、ここから始まる。


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