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連載版『ポーションは自然に湧いてくるものだ』と本気で思っていた勇者パーティを追放されたので、補給線を全て遮断しました  作者: じょな


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第2.5章 第1話:オークの現場監督、安全確認ヨシ!

「おい、そこ! 荷揚げ作業中は立ち入り禁止だと言っただろうが!」


俺の怒号が、王都の青空に響き渡った。

俺の名はガルド。

かつては魔王軍・第三重装歩兵師団を率いる将軍だった男だ。

だが今は違う。

俺が被っているのは、角のついた鉄兜ではなく、黄色い安全ヘルメット。

身につけているのは、血塗られた鎧ではなく、汗と油の染み込んだ青色のつなぎ(サイズ10L)だ。


「す、すみません親方! つい近道しようと……」


部下のオークが、巨大な身体を縮こまらせて謝る。


「馬鹿野郎! 『親方』じゃねえ、『職長』と呼べ!」


俺は部下のヘルメットを軽く小突いた。


「いいか、今の俺たちの身体は、俺たちだけのもんじゃねえ。レオナルド商会の大事な『資産アセット』なんだ。お前が怪我して休んだら、工期が遅れる。工期が遅れれば、会社の信用に関わる。わかるな?」


「は、はい! 申し訳ありません!」


「わかったら復唱だ! 安全第一! 指差呼称、ヨシ!」


「安全第一! 足元ヨシ! 頭上ヨシ!」


よし、いい声だ。

俺は満足して頷き、手元の工程表クリップボードにチェックを入れた。


現在、俺たちが請け負っているのは、王都城壁の修復工事だ。

かつて俺たちが投石機でぶっ壊した壁を、俺たちの手で直す。

なんとも皮肉な話だが、これが意外と悪くない。


破壊は一瞬だが、創造には技術がいる。

石材の目利き、モルタルの調合、水平器を使った精密な積み上げ。

「力任せ」しか能のなかった俺たちにとって、それらは新鮮な驚きの連続だった。


「職長! 10時の休憩です! 差し入れが来てますぜ!」


「おう、今行く!」


休憩の合図とともに、オークたちが一斉に作業を止め、日陰へと集まる。

そこには、レオナルド商会のロゴが入ったクーラーボックスが置かれていた。


中に入っているのは、キンキンに冷えた麦茶と、塩気の効いたおにぎりだ。


「うめぇぇぇ! 生き返るわぁ!」

「この『ウメボシ』ってのがたまんねえな! 酸っぱさが疲れに効く!」


部下たちが笑顔でおにぎりを頬張る。

俺も一つ手に取り、大口を開けてかぶりついた。

塩味が舌に広がる。米の甘みが後を追う。


俺はふと、昔のことを思い出した。

魔界にいた頃、俺たちはいつも飢えていた。

カビた干し肉を奪い合い、弱い者が死ぬのは当たり前だった。

「明日の命」なんて誰も保証してくれなかった。


だが、今はどうだ。

働けば、飯が食える。

怪我をすれば、ポーションが出る。

成果を出せば、給料袋ボーナスが貰える。


「……変われば変わるもんだな」


俺は麦茶を飲み干し、遠くに見えるレオナルド商会の本社ビルを見上げた。

あのビルの最上階にいる、恐ろしい男。

俺たちを力でねじ伏せるのではなく、金と契約で飼い慣らした化け物。


最初は屈辱だった。

だが、あの男は約束を守った。

一度たりとも給料の遅配はないし、残業代も1分単位で出る。

俺たちを「魔物」ではなく、「社員」として扱ってくれる。


「ひ、ひぃぃっ! オークだ……こっちを見てるぞ……」


通りがかった人間の親子が、俺たちを見て怯えているのが見えた。

母親が子供を隠そうとしている。

まあ、無理もない。俺たちはつい先日まで、ここを攻めていた侵略者だ。


部下の一人が、不満げに鼻を鳴らした。


「けっ、人間どもめ。俺たちが直してやってるってのに、あの態度はねえよな」


「気にするな。俺たちの仕事は、愛想を振りまくことじゃねえ」


俺は立ち上がり、パンパンと尻の砂を払った。


「いい仕事をして、納期を守る。それがプロだ。出来上がった壁を見れば、あいつらの目も変わるさ」


俺はヘルメットのあご紐を締め直した。


「さあ、休憩終わりだ! 午後の作業にかかるぞ! 今日のノルマは西側ゲートの基礎工事だ! 気合入れろ!」


「「「オオオオッ(御意)!!」」」


雄叫びとともに、オークたちが現場へ散る。

その背中は、かつての戦場でのそれよりも、ずっと大きく、頼もしく見えた。


俺はツルハシを握りしめた。

この壁が完成したら、給料で部下たちを焼肉に連れて行ってやるか。

王都に新しくできた『食べ放題』の店、あそこなら俺たちがどれだけ食っても文句は言われねえはずだ。


「よし、ご安全に!」


俺の声に合わせて、王都の復興を告げる槌音が、高らかに響き始めた。


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