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おっと?夫ってなんだっけ?
「おい、聞いてるのか」
「え、えぇ」
慌てて、水を掬うのに使っていた柄杓を置いて、向き合う。
……身長高いなー。170後半はありそう。
ため息をつくと、目を鋭くして私を睨んできた。
こわっ!美形の怖い顔ほど、恐ろしいものはないよね。
「最近母親の真似事をしているらしいじゃないか。一体どういうつもりだ」
「……真似事じゃないわ」
心底呆れた目で私を見てくる。なんて失礼なやつ。私はこれでも真剣に向き合おうとしてるのに。たしかに今までの行動は褒められたものではないと思うけど。
「どうだかな。滅多な真似はするなよ」
「しないわよ」
「一回、秀平を叩いたそうじゃないか」
「っ……それは」
「また叩くのか?」
「するわけないでしょう!」
するわけないじゃないか!虐待なんて!だって、あんなに嫌いな人にまで縋り付く子供を見て、そんなことはできない。
この人の顔を見てると、言ってることは正論なのに胸の底からむかむかとした気持ちが浮かんでくる。
「そういえば、今日はお子様ランチとかいうメニューらしいな」
「え、えぇ。どちらでお聞きになったのですか?」
「桜から。私も同席するからそのつもりでいるように」
はぁ!?同席するですって!?あんなになるまで秀平くんを放置していたくせに今更どんな腹づもりだ。
断ろうとした時にはもう歩き出して遠くへと行っていた。
なんなのあいつ!言いたいことだけ言ってどっか行って!帰って桜に聞こう。アイツが私のことをどういってたのか。
「桜!」
「どうされましたか?扉をそんなに勢いよく開けたら指をケガしますよ」
ドカッと苛立ちに任せてソファに座ると、桜がすかさずお茶を目の前に置く。
「あの人に私のこと言ったの?」
「あの人⋯⋯あぁ、隆史様のことですか。はい、聞かれたので」
「どういう風に聞かれたの?」
「今、家はどんな感じだ?って聞かれましたね」
「すごいアバウトな聞き方したのね」
「あの方はいつもそんな感じです」
「⋯⋯私たちに興味がないのね」
そんな感じなんだったら、嫌みをわざわざ言ってこないでほしい。言われたら、いろいろ考えてしまうからとてもしんどいし。
「いえ、そんなことはないかと思いますが⋯⋯」
「え?何か言った?」
一気に体の力が向けて、話を聞いていなかった。
「いえ、なんでもありません。隆史様に会われたのですか?」
「えぇ、庭園で」
「庭園ですか。それは珍しい。もしかしたら詩子様に会いに行かれたのかもしれませんね」
「とてもじゃないけどそんな感じには見えなかったわ」
「そうですか?」
「私が何を企んでいるんだとかそういうことを聞かれたもの」
「企んでいるですか。まぁ、ここ最近の詩子様の様子は近くで仕えていた私ですら、驚くほどの変化ですから、滅多にこちらの状況に目を向けない隆史様から見たら人が変わったのかと思うぐらいかもしれませんね」
どきっとした。別に詩子の体を乗っ取ったわけではない。けど、前世を思い出したことによって、人が変わったっていうのは嘘じゃない。
「そうかもしれないわね。私も自分の変わりっぷりには驚いているわ」
「それ以外には何かお話しされたのですか?」
「あとは、夜ご飯を一緒に食べるって言ってたわね。そうそう、もともとこれを伝えようとしてたのよ。忘れてた」
「隆史様がですか!?材料があるか至急料理長に聞いてまいります」
「材料がないの?」
「ないわけではないとおもいますが⋯⋯。基本隆史様は外で接待ついでにお食事を済ませることが多いので、あまり用意していないんです」
「なるほどね」
あ、良いこと思いついた。
「ねぇ、材料があったらでいいんだけどあの人の料理、お子様ランチでお願いできないかしら?」
子ども扱いして悔しがる顔が見れるかもしれない。私を嫌な気持ちにした罰だ!ふっふっふっ。
「それはそれは。了解しました。詩子様の分はどうされますか?」
久しぶりにお子様ランチか⋯⋯。食べたいな。お子様ランチって別に特別なものは言ってないんだけど、背徳感あっておいしいんだよね。
「私の分もお願いするわ。あ、あの子にはかわいい旗さしてあげてね。あの人の分はどうでもいいわ」
「かしこまりました」
あぁ~少しだけ憂鬱な晩御飯が楽しみだ。ふひひひひひひ。




