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今朝起きると、桜に朝風呂へと放り込まれ、上がってくるなりオイルを全身に塗り込まれた。その危機迫る様子といったら、私はこれから注文の多い料理店みたく食べられるんじゃないかと思ったほどだ。
「なにか失礼なことでも考えてらっしゃいます?」
「いえ、なにも?」
桜の疑わしい目から逃げるように目を逸らす。
「それで、今日は何か予定あるの?」
「特に予定はございません。予定を入れていいのでしたら、これから一条院家と取引をしている家の奥様方との茶話会、ホテルのプロデュース等様々なものをご用意いたしますが」
「……それはいいわ」
今の私がそんなところにいっても、きちんとした対応ができる気がしない。もしかしたら、案外動作が体に身に付いていて、上手くこなせるっていうこともあるかもしれないけど。
今世の記憶が断片的にしか思い出せないのは、やっぱり前世を思い出してしまったからだろうか。
「そうでございますか。ですが、西園寺家の観桜会は避けられませんので、準備の方をお願いします」
「観桜会?」
「はい、毎年行われているもので、詩子様が嫁がれてからは最初の開催になりますね。一条院家とゆかりの深い家になりますので、そこでは当主の妻として振る舞っていただくようよろしくお願いいたします」
ゆかりの深い家……って一条院家とほぼ同規模の家ってことじゃない!それに西園寺って何か聞いたことがあるような。
「西園寺家にはちょうど秀平様と同じ歳のご子息がいらっしゃいますので、学園に入る前の人脈作りにも最適かと存じます」
あぁー!!そうだ!なんで忘れてた私!西園寺家の息子といえば、西園寺雅也。
「悪のカメリア」の主人公にして秀平……いや一条院家の敵じゃない!どうしよう、なるべく避ける方向で行こうと思ってたのにこんな初っ端に出くわすなんて!
「そ、その観桜会はいつなのかしら?」
「詩子様、声が震えていらっしゃいますが大丈夫ですか?」
私のチキンハートが悲鳴あげてるんだよ!
「えぇ、大丈夫。それで日時は?」
「来週の日曜日になります」
……もうすぐやん!
え、やばいやばいやばい。どうしよう。私、あの西園寺家になんて太刀打ちできる?いや、できない!で、でもできなかったら没落!?
「……私あまり西園寺家の方とお話しさせていただいたことがないのだけれど、どんな方なのかしら?」
「そうですね。西園寺家は元々武士の出ということも影響してか、真っ直ぐな方が多いように見受けられます。特に、今のご当主の和人様は正義感の強い方ですね」
「そう……」
正義感が強いって……一条院家潰す気じゃん!もう潰す気満々って感じのフラグ立ってるんだけど!フラグへし折りたい……。
いや、でも悪は滅されてしかるべき?いやいやいや、それじゃ私が困る。
「あと、隆史様とはあまり仲が良くありません」
隆史様って、秀平の父親だよね?こっちもぼんやりとしか覚えてないんだよなぁ。作中にも全然でてきてなかったし。
「それは、どうしてかしら?西園寺家とは昔からのつながりがあるのよね?」
「はい。和人様が幼い頃に隆史様にライバル心を持っていまして」
「あら、でもそれは幼少期の話でしょう?」
他に理由があるんじゃないの?
「……あと、壊滅的に性格が合いません」
「……壊滅的」
桜が重々しくうなずいた。
「和人様はどちらかと言えば、竹を割ったような性格です。ご当主になられてからは、やんわりとつつみ隠されることもありますが。一方の隆史様は」
「隆史様は?」
「清濁併せ呑むお人柄と言いますか……」
「だいたい理解したわ」
もう悪役ポジション確定してるじゃん!それも親の代で!私ここからいけるか?打ち倒せるか?
あ、でも打ち倒そうとしたらもうそれは悪役路線まっしぐらなのでは!?え、もうこれ和解の道しかない?せめて自分磨きを極めなければ!
「ねぇ、桜、私に足りないものがあれば観桜会までに補いたいと思うのだけれどどうかしか?」
「そういうことであれば、ご協力いたします。ですが、詩子様はあの白百合女学園を首席でご卒業されているので、私に補える部分があるかどうか」
「さらに極めたいの」
その記憶はあるけど、それでも不安なの!大体それも血の滲むような努力して掴み取ったものだし!
「その向上心に感服いたしました。早速明日から外部講師を呼ばせていただきます」
「えぇ、よろしくね。ちょっと疲れたから散歩してくるわ」
「では、運転手を」
「屋敷内だから」
はぁ、つかれた。ほんっと疲れた。そして絶望しかない。私をどうにかしても、問題は夫よね……。
屋敷を抜け、庭園を歩く。立派な日本庭園はこれが家でなければ、観光客が来そうなほどだ。
あ、水琴窟。久しぶりに見たなー。これ水落とすとすごい澄んだ綺麗な音がなるんだよね。
水を掬って、落とすを繰り返す。
荒んだ心を少しでも癒してほしい。
「……久しぶりだな」
なんか、イケボも聞こえるしいよいよストレスマッハで精神に支障きたしたかな。ハハハ……私もう終わりかもしれない。
「聞いてるのか」
「うひやぁ!」
肩を軽くたたかれる。
な、なに?驚いて変な声出しちゃったよ。恥ずかしい。
後ろを振り返ると、見覚えのない男性が立っていた。天使の輪ができるくらい綺麗な黒髪に少しグレーがかった柔らかい目元。パーツパーツは柔らかいのに引き結んでる口元がすごい無愛想で。
「会わないうちに夫の顔も忘れたか」
は、はぁーー!?夫!?




