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「予想以上ね」

「そうですか?いつも着られていたと思うのですが」

「いや⋯⋯目が眩しいわ」


 桜に連れられてきたウォークインクローゼットには、どぎつい原色や濃い色の服ばかりが並べられていた。全身金箔スパンコールのドレスだってある。さすがに趣味が悪すぎ。


 確かにこんなん日ごろから来てたら、言われるよね⋯⋯。典型的な成金女みたいな服装だ。


「問題点を分かっていただけましたでしょうか?」

「ええ。これでは良い印象を与えれなくて当然だと思うわ」

「そうですね。一条院家の当主の奥様としてはあまりふさわしい格好だとは言えませんね」

「はっきりいうわね。⋯⋯まぁ。こういう格好が似合う方もいらっしゃるのだろうけど」

「詩子様にはあまり似合いません」

「⋯⋯そうね」


 本当にはっきり言う使用人だ。主人に対して意見をはっきり述べることができるからこそ、代々一条院家に仕えるとができたんだろうけど。


「服装を変える前に、詩子様はまず自分のお顔をはっきりと認識されることが重要かと思われます。幸い、今はすっぴんであられますので、ちょうどいいです。この姿見の前にお立ちください」


 言われるがままに、姿見の前に立つとそこには清楚系の儚げな美女が映っていた。ほのかに茶色がかった黒髪に優しそうな琥珀色の目。綺麗な顔なだけに濃いワンピースが雰囲気をぶち壊してしまっているのがもったいない。


 さすが、一条院家に後妻として嫁いだ設定なだけある。前世の自分とは比べ物にならないくらい美人だ。でも、だからこそ、ヒステリックになったら怖いだろうなーというのは簡単に想像できる。


「まず詩子様の顔立ちは、フェミニンタイプに該当します」

「フェミニンタイプというと?」

「まず、詩子様の顔の形は卵型です。そして、目は丸みを帯びたアーモンドアイ。全体的にパーツが丸みを帯びています。印象は大人っぽいので、フェミニンタイプと言えるでしょう。そのため、このようなお召し物がお似合いになるかと」


 桜が白いAラインのワンピースをあてがう。


 うん、たしかにこれだとザ・清楚系の美女って感じだ。ワンピースの襟元にはわずかにビジューがついていて、ウエストは白いリボンで絞られている。


「服の系統をすべてこのような感じにするのは可能かしら?」


 今のままだと、ほとんどすべてがきつい印象を与えるものばかりだし。それに、外見を変えたら随分雰囲気が変わるのは前世で体験済み。折角の美人なんだから雰囲気を壊したくないっていうのもあるけど。


「承知いたしました。では、そのように取り計らいます」

「あ、あと、カジュアル目な動きやすいものも何点か用意してもらえる?」


 もし、秀平くんが遊びに来て、動くようなことになったときこんな格好では、遊びに付き合えない。


「はい」

「じゃあ、お願いね」

 

 ちょっと疲れたから少し寝よう。


 クローゼットから出ようとすると、桜に入り口をふさがれた。


 え、なになになに?何か私した?


「お待ちください。ついでなので、今ここでお支度も済ませてしまいましょう。これを着てきてください」

「え?今着るの?今日はもうこの服で」

「なにをおっしゃいますか。一条院家の奥方とあろうものが。今すぐ着てください。さぁ、さぁ!」

「わ、わかったわよ。着るわ。だからその無表情で迫ってくるのやめてちょうだい。怖いのよ」

「それは失礼いたしました。では、おまちしております」


 はぁ、こわかった。なにかしちゃったのかとおもった。


 桜が出ていき、一人で黙々と着替える。結構色んな人から視線を向けられて、悪意のようなものも少なからず感じたから今日はもう一人になりたかったんだけど。


 でも、言葉遣いは相変わらずだけど、少しずつ慣れてきた気がする。頑張らないといけない時期だから、この調子でどんどん慣れていくのはいいことだよね。


「着れたわよ」

 

 呼びかけると、すぐに入ってきた。


「化けましたね」

「化けたって失礼じゃない?」

「それだけお綺麗になったということですよ」


 さっきから思っていたけど、私に対して容赦なさすぎじゃないだろうかこのメイド。


「じゃあ、お次はメイクですね。こちらにお座りください」


 クローゼットから出て、その次はドレッサーの前に座る。


「今日は、詩子様に似合うメイクをさせていただきます。ですので、いつものように詩子様自身にメイクはさせませんので」

「あら、私にメイクさせたくないのかしら?」

「はい。詩子様がメイクをするとご自身の顔を台無しにするので」


 台無しは言いすぎじゃない?でも、たしかにクローゼットの中はひどかったな。


「おや、言い返されないのですか?」

「さすがに、今の恰好とさっきまでの自分を比べたらね」

「分かっていただけて嬉しいです」


 淡々と私の顔を上に下地とファンデーションを塗り広げる。


「なんかいつものファンデーションと違う?」

「おや、お気づきになられましたか?いつも詩子様が使われていたものはカバー力重視のものですが、今回は素肌感のある艶肌になれるものを使っています」

「へぇ、そうなの」

「はい。そもそも詩子様はお肌がそのままでもきれいなんですから、別にカバー力重視したものを使わなくていいんですよ。詩子様に似合うイメージは清楚と儚さ。そこに厚塗りの化粧は必要ありません」

「語るわね。⋯⋯もしかして私の外見好きなの?」


 なーんてね。とつなげようとしたら、まっすぐじっと見つめられているのに気づいた。


「⋯⋯悪いですか」

「え、悪いだなんて言っていないけれど」

「詩子様にわかりますか。理想の外見を持った女性にお仕えできることになったのに、その中身が残念なヒステリック女だった時の絶望感が。しかも、自分の外見とは似合わない派手な服装しかしない!!すごい絶望感でした⋯⋯。ねぇ、詩子様」

「な、なにかしら」


 うっとりとした表情で顎をくいっと持ち上げられた。え?なにこれ?なんか退廃的な雰囲気漂ってない?儚げ美女が凛とした美貌のメイドに迫られてるって傍から見てやばくない?


 あ、なんかこんなに綺麗な美人に迫られると、変な気持ちになっちゃいそう。前世でも今世でも恋人のコの字もなかった喪女にこれはきつい!


「詩子様に協力する代わりに、詩子様をすきにプロデュースさせてください。詩子様は理想の一条院家の奥方になれますし、良いですよね」

「えっと」

()()()()()()?」

「⋯⋯はい」

「詩子様とはいい関係の築けそうで嬉しいです」


 桜が上機嫌に私の肌にスポンジを滑らせる。


「それは⋯⋯よかったわ?」


 脅された気がするけど、さっき否定したら食われそうな勢いがあったから黙っておこう。


「でも、このファンデーションいつものに比べて化粧している感じがなくていいわねー」

「そうでしょうとも。軽いものをつかっていますからね。今日のアイシャドウはピンクベースにしましょうか。ラメ感がかわいいかんじのもので」

「ええ。⋯⋯桜はメイクするのが好きなのかしら?」

「そうですね」

「じゃあ、そちらの道に進もうと思ったことは?」

「ありませんね。私は代々受け継がれているこの仕事に誇りを持っていますから」

「そう。⋯⋯の割にはさっきやめようとしていなかった?」

「あぁ、私が辞めるのは詩子様の専属であって、一条院家ではありませんから」

「⋯⋯つまり、私あなたに辞められたらそこそこきつい状況におかれた?」

「⋯⋯そうかもしれませんね。霊陰家の使用人で詩子様にお仕えしているのは私ひとりでしたから」


 代々使用人を輩出している家に見捨てられる。それはもう一条院家の人間ではないと烙印を押されるのと同じだ。


「私、結構危ない橋を渡っていたのかしら」

「ご安心ください。詩子様は私の理想の外見を持っていらっしゃいますので、身支度をお任せしていただけるのであれば、霊陰桜は詩子様から離れることはありません」

「⋯⋯そう。この外見でよかったわ」


 本当に美人でよかった。


 ふぅ、と一息つくと疲れがたまっていたせいか瞼が重くなり寝てしまった。



 


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