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「遅かったじゃないか」
「……申し訳ありません」
ダイニングに入るとあの人は足を組んで待っていた。顔が整ってるせいで、それもまた似合うのが少し腹立たしい。
「……ところでなぜ私たちの椅子が隣り合っているのでしょうか」
広々としたテーブルでいつも食べているはずでしょう?
「こうする習慣を持っているんだろう?」
片方だけ口端をあげてニヤッとした表情でこっちをみてくる。嫌味?なにを考えてるかさっぱりわからない。
記憶とも違うし。もう少し無口な人だと思ってたんだけど。
「えぇ……さぁ、しゅうくんこちらにおすわりになって?」
よし、流そう。挑発を無視するため、私とあの人の間の席を手で示す。
「え?え、僕、間ですか?」
「だって、息子だもの」
私たちのとは言えなくて、言葉を濁して伝える。
「わかりました」
席に座ったものの、沈黙が痛い。なにか話題、話題はないか……。
「そういえば、しゅうくんは将来はやっぱり秀英学園に通うのかしら?」
「通うに決まっているじゃないか。そのために幼い頃から勉強させている」
……あなたに聞いているんじゃないのよ!
キッと睨みそうになるのを我慢して口元を緩める。
「しゅうくんは通いたいの?」
通いたくないなら、それに越したことはない。秀英学園に通わなければ西園寺はともかく、ヒロインに会うことはないんだから。
「はい、代々一条院家のものが通っている学校ですから」
「そう」
通いたいというよりは義務って感じか。たしかに漫画でも秀英学園に通うことは上流階級の人間としての一種のステータスとして描かれていた。じゃあ、そこから逸らさせるのは今後を考えるとあまりにも酷かもしれない。上流階級の人間は道をそれることに対して厳しい人が多いから。
その怖さは身にしみている。
「学園に通うまでももう一年切ったわね」
「そうですね。もうそろそろ受験です」
「受験勉強はできているのか?」
あぁ、しゅうくんの体がビクッと⋯⋯。
いきなり乱入してきて、攻め立ててなにがしたいんだろう。
「そんなに威圧的な言い方しなくたっていいじゃありませんか。もう少し柔らかい言い方を」
「で、どうなんだ」
こいつっ!私の言葉を無視するどころかまた追い詰めるような言い方を。
「僕は大丈夫です、お母様ありがとうございます。はい、受験勉強は順調に進んでいます」
「そうか。ならいい」
本当にこの人何一つ自分の子供のことについて興味ないのだろうか。口を開けば勉強のことばかり。
「そういえば、母と呼び始めたんだな」
「はい!お母様が許してくれたので」
「許してくれた⋯⋯か」
意味ありげな視線で見られてる。
怪しまれてる?確かに忌み嫌ってた子供に対して急に親切になるなんてあまりにも怪しすぎる。でも、じゃあこの人はしゅうくんを気に掛けてたってこと?
理由を聞こうか迷っているうちにお子様ランチが来てしまった。
「すごいごうかですね!」
しゅうくんは初めてのお子様ランチを前に目を輝かせている。ケチャップライスの上には可愛いクマの絵が描いた旗が刺さっている。
力をいれるために本当のザ・お子様ランチにしてもらえるよう頼んだのだ。最初桜に様子を聞いた時、お子様ランチというよりは豪華なワンプレートランチになっている。
私が食べさせたかったのはファミレスで出てくるようなまさにこんな感じのお子様ランチだ!
いや、でもチープすぎるのをいきなり出すのも変か。
「…えぇ、実はねおもちゃも用意してあるのよ」
桜からずっしりとした宝箱を受け取る。こんなきちんとしたジュエリーショップに売っている宝箱に入れるには不相応だけど、中身は百均で売っている子供受けしそうなものにしてもらった。
「好きなのを一つ選んでね」
「え、いいんですか!ひとつ⋯⋯なににしよう」
頼めば何でも手に入る一条院家の御曹司がこんなおもちゃに喜んでいるなんて。とても微笑ましい。
あれもいいな⋯⋯これも良いな⋯⋯と小さな手に何個も持って吟味しているしゅうくんを見つめていると視線を感じた。
「⋯⋯俺にはないのか」
え?ほしいの?まぁ、欲しいっていうなら。
「ありますよ。ただしゅうくんの後です」
「あ、僕急ぎます!」
「別に良い。ゆっくり選べ」
「は、はい!」
そういうと、隆史さんはもくもくとキャラクターのマスコットがついているフォークを使って、黙々と食べ始めた。似合わない、似合わないんだけど⋯⋯なんかかわいいかも。
結局、しゅうくんは迷いに迷った結果金のメダルを持って帰り、隆史さんは3分ほどじっと見つめて固まった挙句、キラキラのプラスチックのハートの宝石がついたコンパクトミラーを持って帰った。




