お喋りな観葉植物
「おい、もっと日当たりの良い場所に置いてくれないか?」
いつものように起きた僕の耳に、そんな言葉が聞こえてきた。部屋の中には僕しかいないはずである。
まだ寝ぼけているのかなと首を傾げ、眠気を追い出すためにも顔を洗おうと部屋を出ようとする僕の背後から、また声が聞こえてくる。
「それがダメならもう少しカーテンを開けてくれるだけで良いんだが」
先ほどよりも少し遠慮気味なその声は、間違いなく部屋の中から聞こえてきていた。誰だ、と振り返った僕の目に、つい先日買ってきて机の端に置いておいた観葉植物が目についた。
カーテンを開けてはいるが、観葉植物を置いてある位置はギリギリ影に隠れてしまっている。
僕はその観葉植物に近付くと恐る恐る机の一番の日当たりの良い場所に移してみた。すると「おお。ありがたい!」と声がした。
どうやら喋っているのはこの植物で間違いがないらしい。
それから僕とこの喋る植物と共同生活が始まった。
僕は植物の手入れをして、植物は僕の愚痴を聞いたり、退屈なときはお喋りをしたり、様々な話を聞かせてくれたりしてくれた。
ある日、僕は植物に聞いてみた。
「君はなんで植物なのにそんなに色んなことを知っているんだい? 動けないはずだろ?」
すると植物はこともなげに答えた。
「ああ、もともと人間だったのさ」
「え、それって本当に?」
僕は驚いて聞き返す。植物はああと答えると、君も植物になってみないかい? と言ってきた。
たしかに植物がいろんなことをどう感じているのかは興味があった。
「……それって、人間には戻れるの?」
「ああ、戻れるさ」
「それならやってみようかな」
僕がそう答えると、植物は自分に触れるようにと言ってきた。その指示に従って僕は植物の葉に触れる。
するとなにやら奇妙な感覚がしたかと思うと、僕は植物になっていた。
というより、僕の意識が植物に入り込んだと言ったほうが良いだろうか。目もないのに周りの景色すべてを感じ取ることができて、なんだか不思議な気分だ。
植物になった僕の前には、前の僕の体が立っている。
その体が僕の方を見ると、ニンマリと笑ってこう言った。
「じゃあ、この体は貰っていくぞ。人間に戻りたかったら、俺と同じようにすればできるから、頑張れよ」
そうして僕の体は部屋から出ていってしまった。
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