雷の魔獣
「早速森の見回りをするんですか?俺以外にこの森に召喚士がいるとは思えませんが」
「そうよ。きっとまだこの森には見習い召喚士がいる。……待って、何か聞こえるわ」
そう言うとルビアは耳を澄ました。
「そんな音、聞こえますか?」
そんなにすぐに見つかるものか?
ロアルは耳を澄ました。数秒後、森のすぐ向こうの方から声が聞こえた。
「おねがい!今日こそ頼むわ!雷の魔獣」
……普通にいましたね。しかもすぐ近くに。
これはあまりにも出来すぎている。
「ここでも見習い召喚士が召喚術の練習をやっていましたか。
さっそく話しかけますか?」
「あのタイプはだめよ。私が話すとすぐに逃げていきそうな顔をしているもの」
うーん……。そんな顔してるか?
「こういうときこそあなたの出番よ。えーっと……」
「ロアルです」
覚えてないな?これは。
「……ああいう人は一度言い出したらなかなか聞かないの。
でもあなたみたいな同じ境遇の人の話は聞く」
なんでわかるのよ。なんか感知スキルでも持ってるのか?
「だから最初の接触は頼んだわよ。あなたの今後がかかっていると思って」
なんか俺、良いように使われてね?
でもまあ仕方ないか。受けちゃったもんな。
ロアルは、緑のローブを着たピンク髪の見習い召喚士に近づいた。
◇
「あのー、こんにちは」
「今しゃべりかけないで」
「いやそうは言っても」
これ面倒な人だ。どうすりゃいいんだ。
ロアルがふと来た道に視線を移すと、ルビアがこちらを見つめていた。
あの目、明らかに監視している目だな。まだあきらめて帰るわけにはいかないか。
「あのー」
「喋りかけないでと言ったでしょ。私に何度同じ話をさせるの?」
うん。これはツンデレキャラかな?これ最序盤に出すべきキャラかな?
よし、ここはもう一押し。
「……やっぱりお話は無理ですか?」
「……これで私に三回話しかけたわね。条件はクリアしたわ。今次の案を練っているの」
三回話しかけたとか、言っちゃダメなやつじゃん?
「それで今どういう状況ですか?」
「だから、次の召喚の案を練っているの」
「そう……」
二度同じこと言っちゃってますけどいいんですか?
「何度やってもどうしてもうまくいかないの。
雷の魔獣の召喚。もう少しなんだけどね。だから今、他に方法がないか色々試しているところなの」
「そういえば、仲間にハイクラスの召喚士がいるんだけど……」
「なにそれ早くそれを言いなさいよ、早速話を聞かなくちゃ」
そしてロアルはルビアのもとに合流した。
うーん。この展開は……フラグ通り。
◇
「水に住む魚の魔物が私の村に大量発生して。どうしても雷の魔獣の力が必要なんです」
上の者には、急にかしこまって話だす人だ。
「そうなんですか。あなたはいつ召喚士になったの?」
「先月です」
「それじゃあまだ経験不足ね。召喚士の熟練度を上げて、ハイクラスにならなくては。
三大上級召喚術の一つ、雷の魔獣の召喚は無理ね」
いや、俺には急にやれって言ってたじゃん。
「でもなんか雷の魔獣に似たようなモンスターは出てくるんですよ。
それでなんとかなるかなと思って……私、今育てています」
「どんなモンスターなんだ?」
「向こうにいる……あれなんですが。雷を力を持つネズミのモンスターです」
指さす方向を見ると、雷を力を持つネズミのモンスターがいた。
ちょっと待て。それどう見ても〇〇チュウじゃん。
「毎日やっていたら、見よう見まねで召喚術を頑張っていたら、たくさん増えました」
たくさんいた。もう〇〇チュウの森じゃん。
「このモンスターをどうにか使って、魚の魔物をどうにかしようと思っているのですが……。
私だけではどうしようもなくて」
「魔物使いが必要ね」
それは……的確な判断……か?
「でも今時、魔物使いなんてなかなかいませんよ。そもそもなる人がいませんもんね」
「そうね。じゃあ今回は私が魔物使いを召喚することに致しましょう。
それでとりあえずは万事解決よ」
「そんなことできるんですか?」
「何を言っているの?私はハイクラスの召喚士よ。大抵のものは召喚できるのよ」
「それはすごいですね」
いや本当にできるの?
「それなら魚の魔物たちも何とかなりそうです」
そうか?
「じゃあ早速呼び出すわよ。いい?しっかり見ているのよ」
ちょっと待て、展開が早い。二人だけでイベント進めんなし。
「魔物使いを、ここに召喚する」
すると魔法陣が現れ、周辺に眩い光りを放った。
大きな魔方陣がルビアの前に現れた。
その光が真っ白に変わり、上空にすーっと伸びる。
間違いない。これは人を召喚する魔法陣の光だ。
すごい。まじまじと見たことはなかったけど、これがハイクラスの力か。
白いモヤが魔方陣から溢れ出てきて、次第にその量を増す。
そのモヤが晴れていくとき……。
魔法陣は再び光り、やがてどんどん黒くなり、その光りは空に去った。
やがてモヤが晴れ、現れたのは……。
モフモフのペンギンが召喚された。
対象のレベルは10だ。
「可愛いモンスターですね」
「あれ、そんなはずはもう一度……」
◇
……どうやら結果は同じようですね。
「なぜかしら」
「思いの力が足りなかったんじゃないですか?」
あなたの言葉ですよ。
「そんなはずは……術式はあっていたはず」
おい、人の話を聞いてね?
「まあ、こんなこともありますよ」
「そんなはずは……術式はあっていたはず」
いや?え?このイベントまだ続けんの?
その後ルビアは数回召喚を繰り返したが、一向に成功することはなかった。
◇
「そんなはずは……術式はあっていたはず」
はあ……。もうやだ、この子。
「……あの君?喋れる?」
「喋れるよ」
モフモフのペンギンは会話を始めた。
「どうやら言葉を理解できるようです」
いや、ここで君が入ってくんの?今まで召喚するのを見守っていたのに。
そういや名前すら聞いてないけど。
「そんなことより、ルビアさんそろそろやばくないか?」
「そうね……。まあ、あの人は放っておくしかないわね」
安定の定型文きた。
「……君ってもしかしてモンスターたちをまとめられる能力があるの?」
「あるよ」
「そうなんだ、じゃあネズミのモンスターの統率をよろしく頼むよ」
◇
そしてそのモフモフのペンギンは魔物を使う魔物となった。クエストクリア。
え、終わり?