誓いの握手
「パワーが大事なんですよ!」
筋肉もりもりの屈強なアスリートが召喚された。
対象のレベルは2だ。
なるほど、ある意味炎のように熱い魔人のような男だ。
……ってなんでこうなった。
「どうやら思いの力が足りなかったようね」
「……そうですか?」
いやいや、明らかに召喚士の熟練度不足ですけど。
「残念だけど、この異世界の人間は元の世界に返さなくてはね」
「はい……」
屈強なアスリートを見ると、元気に準備体操をしていた。
なんだか悪いことしたかなあ。
呪文を唱え、異世界人を元の世界に返す。
初めて人をまともに召喚ができたのに、なんだか複雑な気分だ。
俺、呪文を言い間違えたのかなあ。
そして屈強なアスリートは天に帰っていった。
……召喚に失敗して現れたものは、大抵元の世界に返される。
人間ならここに召喚されたという記憶を消して。それが召喚術のルールの一つだ。
「そういえば、その子も返さないとだめですね?」
少女の横にくっついている、モフモフのペンギンを見ながら言った。
「何言ってるの?もう少し一緒にいて、飼いならすのよ?」
「そんな職権乱用みたいなことをして大丈夫ですか?」
「大丈夫よ、あなたのような見習いと違って、私なら研究用とでも言っておけば何とかなるわ。
それに可愛いでしょ?この子」
モフモフのペンギンを撫でながら、少女は言った。
「まあ……」
……たしかにマスコット的なキャラは冒険にはつきものかもしれない。
見たところ狂暴ではなさそうだし……。何ならちょっとうらやましいまである。
◇
「しかし…………やっぱりね」
「やっぱりってどういうことですか?」
「最近この世界に召喚士が続々と増えてきたでしょ。
その影響があるのかどうかわからないけど、思ったものと違うものがどんどん召喚されている。
それで面白がって元の世界に返さなかったり、面白半分で何度も召喚してしまう」
俺も面白半分でやってたんだが。
「そんなことになってるんですか」
「そうね。詳しい原因は分からないのだけど。
その現象が今、各地で頻繁に起きているわ。思ったものと違うものが出てきてしまう。
でもそれで勘違いして自分にもできると思い込んでしまう。
それを私たちは勘違い召喚と呼んでいるわ」
勘違い召喚って……そのまんまかよ。
「それで炎の魔人を召喚しようとしたのに、異世界の人間を召喚してしまったのか」
「そう。召喚に失敗したら何も出ないことが普通なのにね。おかしくなってしまったの。
だから私は今、召喚士になる人を止めようと必死に頑張っているのだけど。
どんどん召喚士になる人は増えていく。
それで召喚士になって良かった口コミがどんどん広がっていって、
とてもじゃないけど止められないほどに勢いを持っているの」
へー。召喚士になって良かった口コミで召喚士は世界に広まるんだね。
「何か解決策はないんですか?」
「だから私がこうやって、未熟なものたちを見回っている。あなたもその一人よ」
あー、俺もなのね。
「あなたには何か素質があるだようだけど……。いや……あなたならもしかしたら」
あー、あれね。冒険の始まりの常套句的なの。
「……俺に何か特別なスキルでもあるんですかね」
「スキルと言うか素質というか私の感というか。うーん……分からない。だけど」
なんなんだよ、結局わからないのかよ。
「……あなた今、何か仕事をしている?」
「一応冒険者ですよ」
「……数週間でいいの。私と一緒に未熟な召喚士を止める手伝いをしてくれない?」
なんかスルーされた気がするんだが。
「……こんな自分でいいんですか?」
「まあ今の目的的にはね、適任ね」
目的的ってなんだよ。
「ということは報酬もたんまりと貰えるんでしょうね?」
「もちろん。それなりの報酬は約束するわ」
「じゃあ……数週間でいいなら協力しましょうか」
「それじゃあ、お約束の……」
少女は手を差し伸べる。
俺を見つめる目は優しくも凛々しかった。
こんな機会……。せっかくだから、しとこうか。
俺は少し汗ばんだ手を、軽くズボンで拭った。
迷いはなかった。俺はこんな少女と旅をしてみたかったのだから。
少年と少女は握手を交わした。
そして小さな村の少年は、先輩召喚士に連れられて旅を始めたのであった。
「ところであなた、名前は?」
「ロアル」
「私はルビアよ」