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誓いの握手

「パワーが大事なんですよ!」


 筋肉もりもりの屈強なアスリートが召喚された。

 対象のレベルは2だ。


 なるほど、ある意味炎のように熱い魔人のような男だ。

 ……ってなんでこうなった。


「どうやら思いの力が足りなかったようね」


「……そうですか?」


 いやいや、明らかに召喚士の熟練度不足ですけど。


「残念だけど、この異世界の人間は元の世界に返さなくてはね」


「はい……」


 屈強なアスリートを見ると、元気に準備体操をしていた。

 なんだか悪いことしたかなあ。


 呪文を唱え、異世界人を元の世界に返す。

 初めて人をまともに召喚ができたのに、なんだか複雑な気分だ。

 俺、呪文を言い間違えたのかなあ。


 そして屈強なアスリートは天に帰っていった。


 ……召喚に失敗して現れたものは、大抵元の世界に返される。

 人間ならここに召喚されたという記憶を消して。それが召喚術のルールの一つだ。


「そういえば、その子も返さないとだめですね?」


 少女の横にくっついている、モフモフのペンギンを見ながら言った。


「何言ってるの?もう少し一緒にいて、飼いならすのよ?」


「そんな職権乱用みたいなことをして大丈夫ですか?」


「大丈夫よ、あなたのような見習いと違って、私なら研究用とでも言っておけば何とかなるわ。

それに可愛いでしょ?この子」

 モフモフのペンギンを撫でながら、少女は言った。


「まあ……」


 ……たしかにマスコット的なキャラは冒険にはつきものかもしれない。

 見たところ狂暴ではなさそうだし……。何ならちょっとうらやましいまである。



「しかし…………やっぱりね」


「やっぱりってどういうことですか?」


「最近この世界に召喚士が続々と増えてきたでしょ。

その影響があるのかどうかわからないけど、思ったものと違うものがどんどん召喚されている。

それで面白がって元の世界に返さなかったり、面白半分で何度も召喚してしまう」


 俺も面白半分でやってたんだが。


「そんなことになってるんですか」


「そうね。詳しい原因は分からないのだけど。

その現象が今、各地で頻繁に起きているわ。思ったものと違うものが出てきてしまう。

でもそれで勘違いして自分にもできると思い込んでしまう。

それを私たちは勘違い召喚と呼んでいるわ」


 勘違い召喚って……そのまんまかよ。


「それで炎の魔人を召喚しようとしたのに、異世界の人間を召喚してしまったのか」


「そう。召喚に失敗したら何も出ないことが普通なのにね。おかしくなってしまったの。

だから私は今、召喚士になる人を止めようと必死に頑張っているのだけど。

どんどん召喚士になる人は増えていく。

それで召喚士になって良かった口コミがどんどん広がっていって、

とてもじゃないけど止められないほどに勢いを持っているの」


 へー。召喚士になって良かった口コミで召喚士は世界に広まるんだね。


「何か解決策はないんですか?」


「だから私がこうやって、未熟なものたちを見回っている。あなたもその一人よ」


 あー、俺もなのね。


「あなたには何か素質があるだようだけど……。いや……あなたならもしかしたら」


 あー、あれね。冒険の始まりの常套句的なの。


「……俺に何か特別なスキルでもあるんですかね」


「スキルと言うか素質というか私の感というか。うーん……分からない。だけど」


 なんなんだよ、結局わからないのかよ。


「……あなた今、何か仕事をしている?」


「一応冒険者ですよ」


「……数週間でいいの。私と一緒に未熟な召喚士を止める手伝いをしてくれない?」


 なんかスルーされた気がするんだが。


「……こんな自分でいいんですか?」


「まあ今の目的的にはね、適任ね」


 目的的ってなんだよ。


「ということは報酬もたんまりと貰えるんでしょうね?」


「もちろん。それなりの報酬は約束するわ」


「じゃあ……数週間でいいなら協力しましょうか」


「それじゃあ、お約束の……」


 少女は手を差し伸べる。

 俺を見つめる目は優しくも凛々しかった。


 こんな機会……。せっかくだから、しとこうか。


 俺は少し汗ばんだ手を、軽くズボンで拭った。

 迷いはなかった。俺はこんな少女と旅をしてみたかったのだから。


 少年と少女は握手を交わした。

 そして小さな村の少年は、先輩召喚士に連れられて旅を始めたのであった。


「ところであなた、名前は?」


「ロアル」


「私はルビアよ」

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