見習い召喚士
今日も召喚、明日も召喚。やっぱり召喚士は楽しいな。
呪文を唱えると、それはどこからかやってくる。
別の世界か異次元か。きっとこことは違う、別の場所。
どんな仕組みか知らないが、俺は今日も召喚術を試行錯誤だ。
えーっと……どうやるんだっけ。
まず強く念じて、呪文を詠唱……。
すると魔法陣が現れ、周辺に光りを放つ。
その光が上空にすーっと伸びると、魔法陣の中で何かが起きる。
そしてモヤのようなものが出てきて、それが晴れると……。
「……またハズレか」
今日もまたつまらないものが出てきた。
これはどこかの国のコインだろうか?
この世界のお金だったら良かったのに。
やっぱり自分が念じたものが出てくるようになるには、相当な修行をしないと無理なのか。
熟練度を上げ、高クラスの召喚士になると上級モンスターであるドラゴンや、
上位階級の悪魔などなど自由に出せるようになるという。
そんなん憧れるんだが。俺はいつその境地に達するのだろう。
なんだか気が遠くなるな。
◇
「あれは……」
何やら上空に差す、光の筋が見えた。
どうやら向こうの方でも召喚をしているようだな。
こんな辺境の森の中で、俺以外にも召喚術の練習をする人がいたとは。
一体何を召喚しようとしているんだろう。
あの量の光なら、もしかしたら……。
俺は光が見えた、森の少し開けた場所に歩み寄ることにした。
◇
「氷の魔女を、ここに召喚する」
森一面に響く大きな声が聞こえ、呪文が飛び交い始めた。
周りにいた鳥たちが驚いて、一斉に飛び始めた。
どうやらちょうど詠唱を始めるところみたいだな。
茂みの先に長い呪文を必死に唱えている少女がいた。
あの女の子……できるな?
その少女は立派な杖を持ち、魔力を高めるローブを身に着けていた。
煌めく青い長髪は気迫で逆立っていた。
装備も中々のものだし……。
もしかして今ここに召喚されちゃうんですか?あの有名な氷の魔女が。
氷の魔女といえば、炎氷雷の三大上級召喚術の一つで。
もし呼び出すことができれば、召喚士としては一人前として認められる。
そんな召喚士が今この森に?
でも……こんな森に呼び出したら……。下手すればここら一帯が銀世界になるぞ。
大丈夫なんだろうか?いや、信じたいけども。
……しかし詠唱が長いな。さすがは氷の魔女。呼ぶのにも時間がかかるらしい。
◇
ようやく終わったみたいだな。
終わりの合図に魔法陣が光りを放ち、モヤのようなものが出ている。
なんだろう、よく見えないな。
青白いモヤモヤは魔法陣の中を隠すように、その場に長らく残っていた。
うーん、あれは……?
うっすら見えたけど、どうやら氷の世界の動物のようだな?
「また失敗しちゃった。やっぱり高レベルの上位魔族はさすがに無理か。
でもこの子可愛い。なんだかモフモフしているし」
少女はペンギンじみた小動物を優しく撫でていた。
どうやら召喚した小動物と戯れているようだが……声をかけるべきか否か。
でもどうやら俺よりも先輩みたいな気もするし。うーむ……。
声をかけるか悩んでうろうろしていたら、俺は足を踏み外して軽く転んだ。
「あっ」
いてててて、小石にぶつかったのか。
「誰?」
少女は物音に気付き、俺の元へと駆け寄ってきた。
◇
「いや、たまたま通りかかった通りすがりのもので。魔法陣の光を見てちょっと気になって」
「そう、あなたも召喚士なの?クラスは?」
「まだ見習いです」
「そう。でも見たところ……あなたには不思議な何かを感じるわ」
少女は返事にも動じず、俺の顔を見つめながらそう言った。
「ありがとうございます」
「そうだ。今ちょっと何か召喚してみてちょうだい」
「でも、俺さっき召喚したばかりで……」
「そうね、炎の魔神イフリートなんかどうかしら」
この子、人の話全然聞いてないし。
「……そんなもの、俺召喚できませんよ。まだ見習いなんですから」
「いいから、その気持ちだけでもいいからやってみて。唱える呪文は簡単なもので。
ただ強く念じるだけでいいから」
少女は俺に願うように言った。
こんなに押されたら……男ならやるしかないよな。
「じゃあ……分かりました。やってみます」
こうなればもうどうにでもなれだ。頭の雑念を捨て、一心に願う。
イフリート……イフリート……イフリート!
イフリート……イフリート……イフリート!
念じて、軽く呪文を唱える。
「炎の魔神を、ここに召喚する」
すると魔法陣が現れ、周辺に光りを放った。
ひと際大きな魔方陣が俺の前に現れた。
その光が赤黒く変わり、上空にすーっと伸びる。
間違いない。これは炎の魔神イフリートの魔法陣の光だ。
赤黒いモヤが魔方陣から溢れ出てきて、次第にその量を増す。
これはまさか。まさか……?
周囲では緊迫した空気が漂う。少女は隣で固唾を呑んで見守る。
モヤの出現が終わりを告げるころ、俺はひたすらイフリートの出現を心で祈っていた。
そのモヤが晴れていくとき……。
魔法陣は再び光り、やがてどんどん黒くなり、その光りは空に去っていった。
そして、そこには一人の人間が召喚されていた。
……えーっと、あなたは誰?
「パワー」