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打木希美は前を向く  作者: とは
第二章

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23/30

まだ、心はみえない

 征明(まさあき)信利(のぶとし)を自分の車へと強引に押し込む。

 力強くドアを閉め、ドアが開けられないようにもたれかかりつつ、彼は希美(きみ)へと笑顔を見せてきた。


「そんな心配そうな顔しなくて大丈夫。あのね、今度は俺が約束を守る番だから」

「あら? でもそれはもう、迎えに来てもらったということで、守ってもらっていますよ?」


 希美の言葉に、征明はなぜだか嬉しそうに微笑んでくる。


「ふふ、迎えにっていい言葉だよね。それって誰かが待っていてくれるから成立することなんだもん」

「え、ええっと。……そうですね?」


 尋ねたことに対する答えではない。

 意図が理解できず戸惑う希美に、征明はウインクをしてくる。


「このままだと、今日でこの会が終わっちゃいそうだからね。司会進行役としては、そんな展開は不本意なのですよ」

「あぁ、そういえば。浦元(うらもと)さんがこうして一緒に来てくれるのは、私達の苦手さを克服するのを見守ってくれるためでしたものね」


 ここまで人のために、苦労を惜しまない人間はどれだけいるだろう。

 彼の行動に、希美は感謝しかない。


「浦元さん、本当にありがとうございます! いつかきっと自分も、恩返しできるように頑張りますね」

「いやいや、なに言ってるのさ~! そんなことしなくても希美ちゃんが笑っていてくれる。それだけで俺へのご褒美になるんだよ。だからね」


 言葉を区切ると、征明は寂しげな表情を浮かべる。


「俺へと向ける表情や感情。これから先、それが変わらずにいてくれたらいいなぁって思う。……何を言ってるんだって、言われちゃいそうだけど」


 笑みを取り戻し、征明は希美を見つめる。


「あはは、ごめんね。いつもの俺らしくないや。さて、希美ちゃんも車に乗って。美味しいもの食べて仕切り直そう?」


 明るく振舞っているが、心の内はそうではない。

 口に出せない、何かをこらえている。


 希美には、今の彼がそう見えてならないのだ。


 人と話をする楽しさ。

 うつむかず、前を向くことで、世界はどこまでも広がっていく。

 征明との出会いで、希美はそれを知ることができた。


 同じように、何か彼に出来ることはないだろうか。

 出会って日が浅いこともあり、どうしたら征明に喜んでもらえるのかが、まだ自分には分からない。


 ならば、だからこそ素直に。

 ありのままに、感謝や気持ちを伝えてみよう。

 あなたがいてくれたから、変われたのだ。

 その気持ちを忘れずに、持ち続けていこう。

 それがきっと、彼の望む『変わらず』に繋っていくような気がするのだ。 


「……はい! えっと、たくさん食べていいですか? 実は私も、お腹がペコペコで」


 笑いながらそう尋ねれば、征明はほっとした表情で頷いてくれる。


「よかった、俺たち一緒だね。任せて! すっごく満腹笑顔になっちゃうところに連れていくから」


 穏やかな表情を見せ、征明は運転席へと向かっていく。

 その後ろ姿を眺め、希美は思うのだ。


 彼は、自身への認識や態度が変わることを、恐れている。

 希美には知られたくない一面。

 それを隠し持っているということであろうか。

 

 だが一方で、そんな自分を認めてもらいたい。

 あの時の寂しげな表情からは、そんな矛盾した思いも感じられるのだ。


 出来ることならば、その姿を希美にも見せてほしい。

 彼によって自分は、たくさんの気づきと笑顔を生まれさせることが出来た。

 今もそれはこうして、自分の中で芽生え、成長の糧として息づいている。

 彼の希美に対する理解が、自分へと一歩踏み進めてくれたことが、この成長を促してくれたのだ。

 

 自分も彼にとって、そういう存在でありたいと思う。 

 だが今の希美では、まだ彼がそれを許せるまでには近づけていないようだ。

 ならば、いつか話してもらえるように、彼がそう思えるように。

 変わらない姿を、素直な気持ちを届けていこう、見てもらおう。


 手のひらへと、希美は視線を向ける。

 彼と比べれば、この手はとても頼りなく、小さなものだ。

 けれども精一杯、彼へと伸ばしていってみよう。

 そうすれば、きっと。

 ぐっと手を握りしめ、希美は呟く。


「私、……頑張ってみますから」 


 いつか、ありのままの彼と話をして、向き合うことが出来る。

 その日に、この手が届くはずだと信じて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 征明さんとの出会いは希美ちゃんにとって特別なものなのですよね。 でも征明さんも希美ちゃんとの関係性人間としてのコミュニケーションに迷いがありそうで。 希美ちゃんの真っ直ぐな思いに上手くいく事…
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