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打木希美は前を向く  作者: とは
第二章

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だから自分は足を止めない

「大丈夫ですか? なんだか顔色が良くないですけれども」


 公園の職員の声掛けに、希美(きみ)は笑顔を作り「大丈夫です」と答えていく。

 

「お嬢さんは、こちらでお預かりしますね」

「はい、よろしくお願いします。あんちゃん、また遊ぼうね」


 声を掛ければ、寝起きでぼんやりとしながらも、小さな可愛らしい手を少女はこちらへと振ってくれる。

 すぐに受け入れてくれたこと。

 彼女の服装や名前を聞き、事務所内の職員達のざわめく様子に、すでに保護者からの問い合わせが来ているのだと希美は察する。

 もうこれで、彼女は大丈夫だ。

 眠っていたこともあり、この子が怖い思いをせずに済んだことに改めて安堵する。


 自分のすべきことを、まずは一つ果たせた。

 あとは、男性のことを話すべきかということだが。


「では私は失礼します。親御さんに、よろしくお伝えください」


 ひとまずは語ることなく、希美はその場を離れることにする。

 先に暴力を振るわれたとはいえ、信利も反撃していた。

 すぐに激昂した態度や行動から考えるに、あの男性は嘘をつく可能性が高い。

 

『一方的に信利に暴力を振るわれた』


 ありもしないこんな偽証をされれば、目撃者もいない状況は自分達に不利となってしまう。

 さらに信利達が、大ごとになるのを望んでいないとしたら。

 まずは、二人の意思を確認してから判断した方がいい。

 そう結論を出し、希美は足を進めていく。


 少し歩いた先にベンチを見つけ、そこへと腰かける。

 心を落ち着かせようと目を閉じ、彼らが来るのを待つ。


「私は約束を守りましたよ。……浦元(うらもと)さん、次はあなたの番ですからね」


 希美はそう呟き、征明(まさあき)と交わした会話を思い返していく。



◇◇◇◇◇◇



 征明に半ば抱えられるようにして、眠り続けている少女の元へとたどり着いてすぐのことだ。

 少女を指さしながら、征明が希美へと早口で話し始める。

 

「希美ちゃん、あんちゃんを連れて、このまま事務所まで向かってほしい。兄ちゃんを見て分かると思うけど、俺達けっこう強いんだ。だから心配しないで」


 彼と共に視線を向けた先では、倒れた男の傍らで信利がしゃがみ込んでいるのが見える。


「いろんなことは、あとで必ず説明するから、……どうか、お願い」


 申し訳なさそうに、征明は目を伏せる。

 彼とて希美がいなければ、すぐに信利の元に向かいたいはずだ。

 ならば自分は、今できることを。

 眠り続けている少女を抱きかかえ、希美は征明へと頷いてみせる。


「……分かりました。事務所で先に待ってます。でも、約束してください。二人が必ず私を、迎えにきてくれると」


 震え声で伝えれば、彼は一瞬、驚いた顔をこちらへと向ける。


「そっか、……『迎えに』かぁ。うん、ありがとう。約束するからね」


 どうしたことか、感謝の言葉と共に、彼は希美の頭を撫でてくるのだ。

 予想外の行動に、思わず裏返った声で反応してしまう。


「ひゃあっ! わっ、私は浦元(うらもと)さんよりお姉さんなんですよ!」

「あっれー、そうだったっけ。じゃあさ、お姉さん」


 征明は希美の肩へと手を置き、くるりと希美の体を事務所の方へと向けさせる。


「一度も振り返らずに、そのまま事務所に入ってね。あんちゃんのこと、お願い」


 信利同様に背中を軽く叩かれ、希美は走り出す。

 動かすのは足と、振り返りたいという思いを抑える心。


『この子を安全な場所へ届ける』

『彼らが迎えに来るのを待つ』


 この二つの約束を守るため。

 自分に出来ると託してくれた、彼の思いに応えたい。


 だから希美は願い、待つのだ。

 彼ら二人は必ず自分を、『迎え』に来てくれると信じて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 希美ちゃんはあんちゃんの事を信じて。 続きも楽しみです。
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