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打木希美は前を向く  作者: とは
第二章

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新しい自分を見せるのは勇気がいる その6

「すみません。うちの子がご迷惑をおかけしたようで」


 少女の保護者だという男に、信利(のぶとし)は不信感がぬぐい切れない。

 男が自分達へと語りかける中、笑顔を浮かべた希美(きみ)が、彼の方へと近づいていく。


「よかった! ご家族の方ですか? 一緒に遊んでいるうちに、()()()ちゃん眠ってしまって」


 彼女も、この男を疑っている。

 今の発言は、それを(あん)に信利達へと伝えてくるものだ。


 自分たちは少女から、『あんちゃん』という名前しか聞いていない。

 あえて微妙に違う名前を出して、彼女は相手の反応を見ているのだ。

 男は希美の言葉に一瞬、考えこむ様子を見せる。


「そうでしたか。……あんずがいなくなって、どうしようかと思っていたのです」


 わずかの間、黙り込んだこと。

 加えて希美が出した偽名を、そのまま受け入れている様子に不信感が募る。

 だがこの少女が本当に、「あんず」という名前だとしたら。

 真偽が分からず戸惑う自分へ、男は困った様子で話しかけてくる。


「家族が公園の出口で待っているんで、早く連れて帰りたいんですよ。この子を返してもらえませんか?」


 疑わしいと思われる以上、素直に渡すわけにはいかない。

 少女を守れるようにと、征明(まさあき)に近づきつつ、信利は男へと声を掛ける。

 

「私たちは今から、そこの管理事務所に向かうところです。失礼ですが、この子のご家族かどうか確認できないので、一緒に来ていただけませんでしょうか」


 この話を拒否するのであれば、この男は怪しい。

 案の定というべきか。

 信利の提案に、相手は苛立ちを見せてくる。


「あんたたち、俺の子供を誘拐する気なのか? だからそんなことを言ってくるんだろう。時間がないって言ってるんだよ。さっさと返せ!」

「ま、待ってください!」


 険しい目つきで少女の元へ向かう男の前へ、希美が阻むように進み出る。


「脅かしてしまったようですみません。私達はただ、この子が心配なだけだったんです」


 動揺からか、希美の声は震えている。

 そんな彼女の姿に、自分が優位に思えたようで、男はにたりと笑った。


「そいつらと違って、君は話が分かりそうで良かったよ」


 男が立ち止まったのを確認すると、希美は自分のバックへと手を差し入れる。


「実はあんちゃんから『大事な宝物』と言われて、荷物を預かっていたのです。えっと、これだったかな?」


 希美が取り出したのは、猫のイラストが描かれたあの時の缶ケースだ。

 彼女とケースを交互に見つめ、男が口を開く。


「いやぁ。助かったよ」


 男の言葉に、信利は征明と目配せを交わす。

 征明は静かに少し離れた芝生へと移動すると、少女をそっと横たえ、「この子は俺が」と告げてくる。


 あの缶ケースは希美の私物。

 それすらわからずに受け取ろうとするこの男が、少女の保護者である可能性は低い。

 当初の会話ですら、あれだけ高圧的な態度をしてくる相手だ。

 逆上し、危害を加えてくることは十分に考えられる。


 この状況においては幸いというべきであろうか。

 自分たち二人は、ある程度の護身技術を持ち合わせている。

 できれば使うことなく、穏便に。

 征明の表情が、言わずともそれを伝えてくる。


 少女を征明に任せ、信利は希美の元へと急ぐ。

 

「これはあんずのお気に入りなんでね。それが無いと拗ねてしまうんだ」


 男がそう言って缶に触れるものの、希美はケースを離そうとしない。

 怪訝な表情を浮かべる男へと、彼女は口を開く。


「これは、あんちゃんの物ではありません。……あなたは一体、誰なんですか?」


 彼女の言葉でこちらの意図に気づいたようで、男は「だましたな!」と叫んでくる。

 醜く表情をゆがめた男は、強引にケースを奪うと、もう一方の手で希美を強く突き飛ばしてきた。

 このような悪意など、今まで受けたことが無かったのだろう。

 あるいは、恐怖で動くことが出来なかったのか。

 踏みとどまることが出来ず、バランスを崩した彼女の体が後ろへと傾いていく。


 信利は倒れこむ希美の後ろへと駆け寄り、手を伸ばしその体を引き寄せる。

 守るためとはいえ、彼女を抱きしめるような体勢になってしまった。

 あわてて腕の力を緩め、「失礼を」と呟いてしまう。


 ともかくも、怪我をさせずに済んだ。

 ほっとしたのもつかの間、男がケースを自分達へと振りかぶるのが目に入る。

 このまま振り下ろされるなど、絶対にあってはならない。

 希美をかばいつつ体を反転させ、男へと背を向けてすぐ、肩に衝撃が来る。


 自分にとっては、大した痛みではない。

 だが、この男が彼女にこの力をぶつけようとしたこと。

 これは到底、許せるものではない。

 怒りがこみあげるが、今は彼女の安全の確保が最優先だ。

 前を見据え、「走って!」と彼女に声を掛け、その小さな背中を押す。

 

 これでもう大丈夫だ。

 なぜなら自分には。


「征明!」


 彼女を託すことが出来る存在がいる。


 名を呼ぶまでもなく、すでに駆け出していた彼は、よろめき走る彼女を受け止めてくれる。

 顔をこちらへ向けた征明が、「後ろ!」と自分へと叫んできた。

 征明の視線から相手の位置を把握し、右手の拳を握り、体をひねりながら強く振りぬく。

 振り向きざまの拳は、次の攻撃のために手を掲げていた、男のわき腹に食い込んだ。

 みっともない悲鳴を上げ、男は地面へと倒れこんでいく。

 うめき声を出し、自分を見上げてくる男は、すっかり戦意喪失の状態におちいっていた。

 

 こんな男に、もう関わりたくもない。

 だが自分にはまだ、やらなければならないことがある。

 注意を払いつつ、信利はゆっくりと男へと近づいていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あんずちゃん?を引取りにきたという男。 こんな怪しい男の話に希美ちゃんも怪しむ。 そして一気に男を取り押さえる。 果たして!? 続きも楽しみです(*´艸`)
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