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打木希美は前を向く  作者: とは
第二章

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新しい自分を見せるのは勇気がいる その3

「スタートが早かっただけに、お昼ご飯の時間まではもう少し時間があるんだよねぇ。だからそれまでは、散歩を続けていこうと思うんだけど」


 二人の会話を知らない征明(まさあき)が、のんびりと信利(のぶとし)達へと話しかけてくる。


「そうなんですね。浦元(うらもと)さんのおかげで、水分と元気チャージもばっちりですので、私は散歩を続けても大丈夫ですよ」


 言葉は本当のようで、何事もなかったように希美(きみ)は立ちあがっている。


 彼女からの言葉に、動けなくなってしまった自分とは大違いではないか。

 一番キャパオーバーになったのは、ほかならぬ自分。

 そんな気恥ずかしさを抱え、立ち上がろうとする信利の耳に、征明の鋭い声が響く。


「あっ、希美ちゃん! ひじの所、怪我してる」


 その声に彼女の腕へと目を向ければ、わずかに血がにじんでいるのが見える。 

 傷をちらりと眺め、希美は「あら、本当ですね」と呟く。


「ちょっとすりむいちゃいましたね。一応、水で洗ってきますので、少し待ってもらってていいですか?」


 希美は少し離れた場所にあるトイレを指さすと、ぺこりと礼をして二人から離れていく。

 しっかりとした足取りで歩くのを確認しながらも、心配になりつい、彼女の後ろ姿を見つめ続けてしまう。

 そんな信利の隣に、嬉しそうな表情を浮かべた征明がやってきた。


「なになに? 兄ちゃん、今日の新しい希美ちゃんを知って、惚れちゃった感じ?」

「……そんなわけないだろう。そもそも私は『女性を好きにならない』のだから」


 そうだ、自分は忘れてはならない。

 言い聞かせるように呟いた言葉に、征明の笑みが消える。


『女性を好きになってはいけない』


 これはいわば、『呪い』だ。

 幼いがゆえに、純粋であったがゆえに起こした行動を。

 その責任を、自分はこれからも取り続けねばならないのだから。


 信利の過去を知る征明は、この言葉も意味も理解している。

 そんな彼が自分へと向けるのは、寂しげな表情。

 愚かな呪縛から未だに抜け出せない自分を、彼はどう思っているのだろう。


 余計なことを話し、彼を悲しませてしまった。

 謝らねばという気持ちにかられ、信利は口を開きかける。

 だが、先に言葉を出したのは征明の方だった。

 

「でもさ、俺は兄ちゃんが変われるんじゃないかって思っているよ。ねぇ、気付いてる?」


 征明は、穏やかな視線を自分へと向けてくる。


「さっきの言葉、今までのものとは違っているんだ。いつもは俺にこう言っているよ。『自分は女性をもう、()()()好きになることはない』って」


 そうなのだ。

 今まではいつも口癖のように語っていた言葉が、あの時だけはためらいが起こった。

 自分の中で違和感が生じ、どうしてだか言いたくなくて。

 

「……言葉が少し、変わっただけだよ。特に深い意味は」

「あるんじゃないの。それを兄ちゃんも気づいているんでしょう?」

「……」


 真っすぐに見つめてくる征明に、自分はどう答えればいいのだろう。

 その思いが、顔に出ていたようだ。

 柔らかな表情をたたえ、征明は再び口を開く。


「まぁ、兄ちゃん自身も戸惑っているか。焦って変な答えや行動になっちゃってもいけないし」


 腕を組み、彼は何度も首を縦に振る。


「時間はこれからたくさんあるんだもん。ゆっくり考えて、それから進んでいけばいいんじゃないかな? お! 希美ちゃん来たぁ……?」


 征明の口から出たのは裏返った声。

 これは以前にも覚えのあるパターンだ。

 得体のしれない不安を抱え、征明の視線をたどる。


「……新しいな」


 今、自分が思いつく精一杯の言葉を漏らせば、隣に立つ征明が答えてくる。


「普段、冗談を言わない兄ちゃんにしては頑張ったというか、面白いコメントだね。今日の彼女の目標が『新しい自分を知ってほしい』だもんね」

「いや、別にお前を笑わせようとか、彼女の目標だからといった意図は全くない。ただ、彼女の行動が想定外すぎて、どう対応したらいいかわからないんだ」

「奇遇だね。多分、兄ちゃんほどではないけど、俺もそう思っているよ」


 自分達へと近づいてくる希美を見つめ、信利は呟かずにはいられない。


「で、あれはいったい誰だ?」


 希美は一人ではなかった。

 彼女と手を繋ぎ、やってくるのは四歳くらいの女の子。

 いや、繋ぐという感じではない。

 少女は、必死に希美の腕にしがみつくようにくっついていたのだから。

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― 新着の感想 ―
[一言] 希美ちゃんを見ていた信利と征明。 二人の中では希美ちゃんはどううつっていたのか!? そしてそんな希美ちゃんが戻ってきた希美ちゃんが連れていた子とは!?
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