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打木希美は前を向く  作者: とは
第二章

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13/30

新しい自分を見せるのは勇気がいる その1

「みなさん、おはようございます! 一週間ぶりに私たちは、ザ・リベンジ公園にやって来ました」


 どうして自分のいとこは、いつも無駄に元気なのか。

 ため息をこぼしつつ、信利(のぶとし)は口を開く。

  

「……征明(まさあき)、勝手に公園の名を変えるんじゃない。打木(うちき)さんがきょとんとしているではないか」


 自分に話題が移ったことにあわあわとしながら、希美(きみ)が答えてくる。


「大丈夫ですよ! ちゃんと伊織(いおり)公園って名前は覚えていますから」


 なんだかフォローをさせてしまったようで心苦しい。

 冷たい視線を向けたままでいる自分に、なにやら征明は不服そうだ。


「え~、目的が分かりやすくていいじゃん。わかった! じゃあ折衷(せっちゅう)案でいこう!」


 ひらめいたとばかりに、征明がぽんと手を打った。


「あらためまして、おはようございます! 私たちは今、ザ・伊織(いおリ)ベンジ公園にやって来っ、待って痛い痛いぃぃ」


 隣に並ぶ、征明の脇腹をつついた。

 いや、そのつもりであったが、力加減を誤ったかもしれない。

 その場にうずくまる征明に、とどめと言わんばかりに尋ねてみる。


「征明、『混ぜるな危険』。この意味を知っているか?」

「ごめんなさい……。今、知ったところです」


 自分達の会話を、希美は楽しそうに聞いている。

 苦手克服計画とやらが始まってから、彼女はよく笑うようになった。

 征明のリードもあり、確かに彼女の会話は以前に比べ、スムーズになってきている。

 とはいえ、それは彼ら二人のみで、自分にはまだあまり進歩が見受けられない。

 焦ることはないが、少しでも前向きな行動が出来れば。

 そしてもう少し、彼女とも話をしてみたい。

 今日は、それを目標としていきたいとひそかに思う。 


 以前、昼食を食べた芝生広場にたどり着くと、征明がくるりと希美の方へと向き直った。


「さて、ではインタビューとまいりましょう。参加者である打木(うちき)希美きみさん。本日の意気込みをどうぞ!」

「はひっ! い、意気込みですか? えーっと……」


 言葉を詰まらせながらも、彼女は答えていく。


「そうですね。人見知り克服も兼ねて、自分のことをもっと知ってもらうことでしょうか? できればお二人に今まで見せたことのない新しい自分を知ってもらえたら。それを目指そうと思っています」

「ふんふん、なるほどね~。では、兄ちゃんの今日の目標は?」

「……私も、言わなければならないのだろうか?」


 人の心を読んだのか。

 まさかのタイミングで聞かれたことに動揺しつつ答えれば、彼は両手を腰に当てて自分を見つめてくる。


「あったり前でしょう! 希美ちゃんはきちんと答えてくれたんだからね。まぁ、難しく考えなくていいからさ」 


 素直に言うのは、どうも気恥しい。

 自分で語れる最大限の言葉を探しながら、信利は答えていく。


「かっ、会話を増やすことを目指したい。普段出さない話題などで、自分の幅を広げていけたらと、……思う」


 信利の答えに、どうしたことか征明はにんまりと笑う。

 

「うんうん、二人とも克服に向けて目標を出せたのはいいことだよね。とはいえ、急にそれをやってみてといっても無理でしょ? だから今日は~」

 

 持っていたショルダーバックから、彼は黄色のフリスビーを取り出す。


「まずは楽しく運動しながら、お話をしていこうと思いま~す」



◇◇◇◇◇◇



 風も穏やかなこともあり、フリスビーは大きくそれることもなく、互いに飛ばしてはキャッチするを繰り返していく。


 征明ほどではないが、運動神経は悪い方ではない。

 なるべく彼女の取りやすい場所へと意識をしつつ、投げ返すようにしていく。

 上手くキャッチできた時の彼女の顔は、本当に嬉しそうだ。


 フリスビーではなく、普通の会話で、彼女にこの表情を向けてもらえたら。


 思いはあれど、それを口にする勇気もなく、黙々と投げ続けてしまう。


「そうそう! 今の希美ちゃんの力の入れ方、いい感じ! 離すタイミングはもう少し早めでもいいかも」


 自分とのバランスをとるかのように、征明は彼女へとこまめに声を掛け続けている。

 それにしても、のんびりした見た目とは違い、彼女の運動神経はなかなかのものだ。

 始めこそ勝手がわからないようで、戸惑いながら様々な方向へと飛ばしてしまっていた。

 だが、投げるごとに自分の手首やひじの動きを確認し、自分たち二人のフォームを観察しては、少しずつ修正を重ねていく。

 やがてこちらが投げたフリスビーをなんなくキャッチしては、鋭いスナップを効かせ、次第にしっかりとした回転を掛け投げ返すようになってきた。

 なんという見事な順応力だろう。

 ……思っていてもやはり、口には出せないのだが。


 一方、へらへら笑っていた征明も、彼女の上達ぶりに驚いた様子を見せている。

 次第に真剣なまなざしとなり、スイングと同時にステップを加えた投げ方へと変化させてきた。

 とはいえ、楽しいということは変わらないようで、彼の口元には笑みが消えることはない。

 さらには、足の間や背面でキャッチをするトリッキーな動きを加えたことで、周囲の視線が彼に引きつけられていく。


 ――もちろん、彼女も。


 一週間前の痛みが蘇りそうになり、目をそらしてしまいたくなる。

 その彼女はと言えば、トリックキャッチに興味がわいたらしい。

 フリスビーを持ったまま、背中や足元へと当てて、征明の動きを真似し始める。


 ふわふわとさまよう黄色に、何かを刺激されたのだろうか。

 近くにいた大型犬が、フリスビーを目指すかのように、とことこと希美へと近づいていく。


 自分へと会釈をする希美に、飼い主は犬嫌いではないと判断したようだ。

 リードをしっかりと握りながら近づき、彼女と会話を始めていく。

 腕を大げさに振っていたりと、なにかと挙動不審ではあるが、一生懸命に彼女が話をしている様子がこちらからは見てとれた。


「希美ちゃんさ、かなり人見知りを克服できてるんじゃない?」

 

 隣にやってきた征明へと、信利は視線を向ける。


「打木さんの今日の目標である、『新しい自分を知ってほしい』。確かにそれは出来ていると思う」

「そうだね。いい意味で、驚くことばかり見せてもらえているなぁ。ってまずい、希美ちゃん!」


 征明が声を上げると同時に、希美に向かって走り出す。

 視線の先では、犬に飛びかかられ、彼女が後ろへと倒れこんでいく姿。

 わずかに征明から遅れながらも、気がつけば信利の足は、彼女の元へと駆け出していた。

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