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打木希美は前を向く  作者: とは
第一章

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12/30

過去はあまり振り返らない方がいい

「……やってしまった」


 自宅のベットに倒れこみながら、希美(きみ)はうなり続ける。


 心地よい満腹感。

 暖かな光、爽やかに吹き抜ける風。

 近くで聞こえてくる、大好きな人の声。

 次第に重くなっていくまぶたの上に、弁当作りの睡眠不足がさらにのしかかってくる。

 近くであったはずの彼の声が、やがてとぎれとぎれになっていき、そして……。


 気がつけば、征明(まさあき)の車の後部座席に自分は座っていた。

 いつの間にと驚きつつ、周りを見渡せば、まだ公園の駐車場内にいる。

 起きたことに気づいたようで、前の座席にいた二人が、希美へと振り返ってきた。

 彼らから、公園で希美が眠ってしまったこと。

 風邪をひくといけないので、そのまま連れて帰ってきたことを聞かされる。


 何ということだろう。

 散歩をすると言っていたにもかかわらず、昼寝だけして帰ってきてしまうなんて。

 落ち込む希美へと二人は、弁当が本当に美味しかったこと。

 仕事や学業で疲れていた体に、ちょうどいい休みになったと話してくれたのだ。


「というか浦元(うらもと)さん、大学生だったんだね。しかも二十歳って。私より四つも年下なんて、びっくりだよ」


 結局、そのまま自宅まで送り届けてもらい、諸々の荷物を片付け今に至る。


「起こしてしまったことは、悔やんでも仕方がないもんね。それにこのハプニングで、新しい楽しみが出来たわけだし」


 スマホのスケジュール画面を開き、翌週の土曜日の画面にある『公園再集合!』という文字をなぞる。


 お詫びをしたいと謝る自分に、今度は二人から提案がなされた。

 一週間後、もう一度あの公園に行こうと。

 ただし次は、希美は弁当は作らずに来る。

 代わりにゆっくり散歩を楽しんだ後、征明のお気に入りの店で昼食を食べるのだという。


「個人でやっているお好み焼き屋さんだよ。そこの自家製のわらび餅がすっごく美味しいんだ」

「お好み焼きに、わらび餅」


 全部、大好きな食べ物だ。

 さらには美味しいお店を教えてもらえる。

 何て素敵な企画なのだろう。


「ぜひ行きたいです! どうかよろしくお願いします!」

「わかったよ。こちらも楽しみにしているからね〜」


 そう機嫌よく征明からは告げられたのだが……。


一水(いっすい)さん、怒ってたのかなぁ」


 淡々とした態度はいつも通り。

 だが、車内での彼の態度に違和感を拭えない。


「ん〜。浦元さんとは、親しくなれた感じはするんだけど。一水さんはなんだか、まだ距離があるというか……」


 自分と同様に、彼も人見知りだ。

 親しくなるのには、まだ時間がかかるということか。


「でも、本当に嫌だったら、次の約束ってしないよね」


 征明がスケジュールを確認した際にも、信利(のぶとし)は断ることなく予定を確認し、翌週の約束をしてくれたのだから。

 さらに征明からの提案により、週一のペースで、三人で予定を合わせ『苦手なものを克服するぞ計画』なるものが実行されることになった。


 希美は人見知りを。

 信利は女性が苦手だという意識を変えていくのを最終目標として、様々なリハビリを行っていくという。


 とてもありがたい提案だ。

 しかしながら、なぜ征明はここまでしてくれるのか、という疑問が浮かぶ。

 興味を持って尋ねれば、彼はニンマリと笑ってこう言うのだ。


「決まってんじゃん! 一番近くで、二人を見守りたいからだよ~!」


 確かに、初めて会った店でも、彼がそう語っていたと希美は思い出す。


「二人共、口下手だから一緒に克服するぞ! って言ってもだんまりで終わっちゃうでしょ? だったら司会進行というか、導いていく存在ってものが必要になってくる。そのために俺はいるって思ってくれればいいよ」


 実に頼もしいことを言ってくれるではないか。

 短所に困っている人の心を導く優しさを、征明は持ち合わせている。

 自分もぜひ、そこは見習っていきたい。

 感動する希美とは対照的に、信利は不審そうな目を彼へと向けていく。


「征明、『見守りたいではなく、一番近くで面白いものを見るため』。なんてことではないだろうな?」


 しばしの沈黙。

 やがて咳払いをした征明が、満面の笑みを信利へ向ける。


「兄ちゃん、そんな考えは良くないよ。いいかい、世の中の見方は一つだけではないんだ。俺たち三人は、そんなくくりで縛られるものではないんだよ。つまりはって……、痛い痛い! 兄ちゃんやめてぇ!」

 

 征明の耳を、信利が引っ張り上げている。

 痛々しい悲鳴が車内に響き渡る中、申し訳ないと思いつつ、希美は笑いをこらえることが出来ない。

 普段あれだけ冷静な態度の彼が、こんな行動をするなんて。


 それだけ二人は、心を許し合える仲なのだ。

 羨ましいという気持ちを抱きながら、希美は思う。


 過ごした時間で築かれた信頼が、そうさせるのだろう。

 ならば自分はこれから近づいていけばいい、知ってもらえばいい。

 そうして、いつか……。


 ささやかな願いを胸に、希美は二人を見つめていくのだった。

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