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私の知ってる”中二病”じゃない

作者: 神渇 此方

オチはないです。

「我、この世を本当の混沌に陥れ、本当の平和を望む者、”真の(トゥルー・)調停者(ミディエイター)”。俺は、この世に生まれ落ちて来てからずっと一人だ……。家族も友人も、相棒と呼べる仲間すらいない……俺は一匹狼だ…。だが、俺に仲間など要らない。俺は一人でこの世に真の混沌と平和を訪れさせる!!そして、俺の真の名は────」


続きを喋ろうとした瞬間、部室の扉が開いた。


「”調(みつぎ)”~あんたに伝えなきゃいけないことが~」


扉に目をやると、そこには見慣れた人物が立っていた。 


「どうした”(たより)”、この”校内平和維持部”に何か依頼でもあるのか?それとも、この我、真の(トゥルー・)───」

「はいはい、帰宅部の間違いでしょ。ていうか、人数は足りてないから”校内平和維持()()()かっこわら”でしょ」

「帰宅部ではない!!」

「声でかっ」

「確かに今は同好会にすぎん……だが!いずれ校内平和維持同好会(ここ)は、校内さえも超え……世界に秩序を───」

「そう、頑張ってね、”()()()()()()()()()”さん」

「誰がトゥルースリーパーじゃ!!」


調(みつぎ)のツッコミを無視しながら、(たより)はバッグの中から紙を取り出して調(みつぎ)に渡した。


「はい、これが今回の用事」


その紙は、学校からの手紙だった。

紙を渡したあと、暇つぶしに(たより)は部室にあるものを物色し始めた。


「あと1週間以内に部員を一人でも集められなければ、この校内平和維持部が……強制解体……!?」

「だから()じゃなくて()()()だって」

「くっ……いったいどうすれば……」

「聞いてねえし…ん?なんだこれ」


(たより)は、部室に刀掛けとそこにかかっているオモチャの刀を発見した。

刀を持ち上げながら凝視して、呟いた。


「百均に売ってる……プラスチックの刀……?」


そう呟いた(たより)を見て、調(みつぎ)は「フッ」と笑って謎の説明をし始めた。


「それはうちの部に代々伝わる伝説の刀・・・”宝刀・神無月(かんなづき)”だ!!」

「ああ、10月の旧暦の名前を付けただけのオモチャね」

「っ…!?貴様、知っているのか……!?」

「知っているのは10月の方ね。で、これのどこが宝刀なのよ」


(たより)は呆れながら刀を抜いた。


「ふっ……貴様にはわからぬだろう……その宝刀は、我のように中二病(えらばれしもの)でなければ抜くことはおろか、真の力発揮することはでき───」

「ちょっ、それじゃあ私が中二病みたいになるじゃねえか!!」


そう言って(たより)は刀を思いっきり投げ捨てた。


「あーっ!!我の宝刀がー!!」


調(みつぎ)は急いで刀を拾い上げた。


「き、貴様…なんて罰当たりなことを……どうなっても知らぞ……」

「同好会に伝わってきた刀なのかあんたの刀なのかはっきりし──いや、平和維持同好会(ここ)はあんたが今年から作ったんだから伝わってきてるわけないか」

「う、うるさい!まあいい、とにかく部員を集めなければ……ではさらばだ!!」


そう言って調(みつぎ)は、部室を大きく飛び出してどこかに走り去って行った。


「・・・帰ろ」


そう呟いて、(たより)もゆっくりと部室を出た。




□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□




はあ……いつもどうり騒がしいやつだった。

調(みつぎ)は、小学校からの友人でそれ以来ずーっと同じ中学校、高校だ。

小学校のときからあんな調子で、もはや小二病ともいえる根っからの中二病。

まさか高校性になるまで引っ張って、挙句の果てには意味のわからない部活…同好会まで作ってしまうなんて。


「はぁ……」


自然とため息が漏れ出る。

下駄箱に近づいてきたその時、後ろから人が近づいていることに気が付いた。

そして、大きな声で話しかけてきた。


「ちょっと待ちな!!」


大きな声にびっくりしながら、(たより)は後ろを振り向いた。

そこには、変なポーズをした男子生徒が立っていた。おそらく私と同じ二年生だろう。誰だ…?


「───あんた誰…?」

「ふっ、知りたいか?俺の名が…」


ああ、一瞬で察した。こいつ調(みつぎ)と同じ中二病(タイプ)だ。正直、変なポーズをしてる時点で察しはついていた。


「俺の名は、”真の(トゥルー・)狂技術者(マッドエンジニア)”……この世界を───」

「またトゥルースリーパーかよ!!」

「トゥルースリーパーちゃうわ!まあいい本題に入ろう。」


なんだろう、まさか校内平和維持部に勧誘でもされるのかな。もしや調(みつぎ)、もう部員を増やして───


「俺の所属する悪の組織……”闇の支配者層(ダーク・ルーリング)”に入らないか?」


ダッセェ……ネーミングセンスが壊滅的に終わってる……まだ校内平和維持部に勧誘されるほうが100倍マシだった……。いけない、笑いがこみあげてくる…。


「そ、そんな変な…フッ…変な名前の組織、入る…わけ…フフッ」

「き、貴様!私の組織を侮辱したな!?」


そりゃそうだろ、なんだよ悪の組織って。誰が信じるんだよ。だめだ、笑いが止まらない。


「どうやら貴様には、痛い目を見せてやらないとわからないようだな……」


そう言って、自称真の(トゥルー・)狂技術者(マッドエンジニア)は懐から(リボルバー)を取り出して銃口をこっちに向けた。


「なっ───」


びっくりして一瞬声が出せなくなった。が、よく見たら銃の先が(オレンジ)色になっていた。これはこの銃がオモチャであることの印。おそらく百均などで売っている火薬銃か何かだろう。ビビらせやがって…。


「そんなオモチャの銃でどうするつもり?」

「ふっ、確かにこれはオモチャだ。だが、お前をわからせるためには充分だ───」


バアン!!


狂技術者(マッドエンジニア)が引き金を引いた。

その瞬間、火薬銃の大きな音と同時に後ろにあったガラスの割れる音が校内に大きく響き渡った。ほんの少し遅れて、たくさんの割れたガラスの破片が地面に落ちる音がする。

頭が一瞬真っ白になった。まさか本物の───


「オモチャだが、中二病(えらばれしもの)の力さえあれば、簡単に兵器になる」


まずい、どうしよう。想像以上にとんでもない奴に捕まってしまった……。中二病っていうのは皆こんな事出来る奴らなの…?

狂技術者(マッドエンジニア)が、改めてこちらに銃を向ける。


「さあどうする?さっきの侮辱を取り消せば、命は助けてやる」


今の時刻は、大体18時半頃。ほとんどの生徒は帰宅しており、先生達もほとんどは職員室かどこかで残業でもしているのだろう。周りに助けを求められるような人間はいなかった。

ていうかなんでオモチャの銃で窓ガラスが割れんのよ。冷静に考えれば、オモチャになにか仕掛け(タネ)があるっていう考え方が妥当。どちらにせよ、生身の体に当たればただでは済まなそう…。せめて、おなじ中二病(タイプ)調(みつぎ)さえいてくれれば───

頭の中で、色んな考えが交差する。その時、狂技術者(マッドエンジニア)の後ろに人が立っている事に気が付いた。

先生…?いや違う。暗くてよく見えなかったが、シルエットで分かった。調(みつぎ)だ。

私が狂技術者(マッドエンジニア)の後ろを見ていることに彼自身も気づいたのだろう。後ろに調(みつぎ)が居る事に驚いて、大きく横に引いた。そして、調(みつぎ)に向かって銃を向けた。


「っ──!?貴様、いつからそこに居た!?」

「ああ…クセになってんだ。音殺して動くの」


ああだめだ、会話が成り立っていない。あのセリフが言いたいがために話を聞けていない…。


「話のわからないやつだな……ならば貴様から死ねっ!!」


狂技術者(マッドエンジニア)調(みつぎ)に向かって銃を打とうとした。

まずい、あの銃はただのオモチャじゃない事を調(みつぎ)に伝えないと───


調(みつぎ)!その銃は───!!」


伝えようとした瞬間、調(みつぎ)が左手に持っていた刀、宝刀・神無月(かんなづき)に右手をかけている事に気づいた。

バン!!

と銃の音が響く。だが調(みつぎ)はそれより一瞬速く、抜刀して刀を振り上げた。


「なっ───貴様まさか、俺の銃弾を……」

「校内の平和を乱す奴は…この真の(トゥルー・)調停者(ミディエイター)が許さない!」


そして(たより)は、考えるのをやめた。

調(みつぎ)が、狂技術者(マッドエンジニア)に向かってゆっくりと歩き出す。


「くぅっ…オレのそばに近寄るなああーーーッ!」


バン!バン!バン!と調(みつぎ)に向かって連射した。

調(みつぎ)は落ち着いた様子でしゃがんで回避し、その直後、目にも止まらぬ速さで相手に詰め寄り刀で銃を叩き落した。叩き落した銃が、地面を跳ねて転がり(たより)の足元の近くまで転がってきた。


「お、俺の銃が……」


調(みつぎ)が刀を振り上げた。


「お前はこれで終わりだっ!!」


振り上げた刀が、黒く光る。


「くらえっ!!【必殺・スーパーアルティメットウルトラアタック】!!!」


ダサい!!ネーミングセンスが小学生で止まってる!!

調(みつぎ)は振り上げた刀を思いっきり振り下ろし、黒い光とともに狂技術者(マッドエンジニア)が後ろへと吹っ飛んだ。そのまま壁に衝突し、野垂(のた)れんだ。


「ぐっ……俺様の…計画が…」

「はっ、この俺、真の(トゥルー・)調停者(ミディエイター)がいるこの校内(せかい)では、何もできないと肝に銘じておくんだな……」


そう言いながら、調(みつぎ)は刀を鞘に収めた。

ふと、(たより)は足元の近くに落ちた銃に目をやった。そこで気が付いた。それは銃ではなく、()()()()()()()()だということに。さっき調(みつぎ)は銃を叩き落したのではなく、切り落としたのだ。あのオモチャの刀で。


「まじ…?」


(たより)から自然と声が出る。


(たより)!ケガはないか?」


心配そうに聞きながら、調(みつぎ)がこちらへと駆け寄ってきた。


「あ、ああ。私は大丈夫だけど……あ、あいつはどうするの?」

「そうだな…器物損壊に脅迫、殺人未遂の罪を背負っているからなあ…警察に突き出してもいいんだが…」


調(みつぎ)はしばらくの間、首を傾けながら考えた。そして、一つの結論を出した。


「───こいつを、校内平和維持部に強制加入させる!!」

「「なっ───」」


(たより)狂技術者(マッドエンジニア)の声が被る。


「お、俺は貴様の部活(そしき)など入らないぞ!!」


狂技術者(マッドエンジニア)は倒れた状態のまま、大声をだして拒否した。


「ならば、牢屋か生徒指導室に行くか?まあ貴様にはそんな勇気は無いだろうがな」


調(みつぎ)がそう言った後、すこしの沈黙を挟んで狂技術者(マッドエンジニア)が口を開いた。


「……くそっ…仕方ない、入ってやる」

「ふっ、決まりだな」


ん、待てよ?この自称狂技術者(マッドエンジニア)が最初に言ってた”悪の組織・闇の支配者層(ダーク・ルーリング)”はどうなったんだよ。いいのか、それで。


「よし、これで校内平和維持部(おれのそしき)が解体されることは無くなったな。なあ(たより)

「あ、ああそうだね。というかそんな危ない奴、部に入れといていいの?」

「その辺は心配ない、こいつが悪さをしないよう監視を込めての強制加入だからな。ハーッハッハッハ!!」

「うるさ……」


調(みつぎ)はそう言って、狂技術者(マッドエンジニア)の腕を肩に担いだ。


「あ、そうだ。(たより)、この事は誰にも他言するなよ」

「他言してもどうせ誰も信じないよ……」

「もし他言したら、その時はお前も校内平和維持部(おれのそしき)に強制加入だからな。まあ、普通に入りたければ言ってくれれば───」

「はいはい、そんなへんな同好会なんて入りたくありません~」

「変なとはなんて失礼な!」

「実際変でしょ」


その直後、遠くから先生の声が聞こえてきた。


「お前らかー!!騒がしくしてたのはーー!!」


そりゃそうだ。火薬銃何発も鳴らしたりガラス割ったりすれば駆けつけてくるだろう。


「まずい、逃げなければ!」


調(みつぎ)狂技術者(マッドエンジニア)を担ぎながら急いで階段を上って逃げて行った。


「ちょっ、ま、待て!私を置いていくな!」


このままでは私に濡れ衣を着せられてしまう。私も逃げないと。

調(みつぎ)の後を追って、(たより)も急いで階段を駆け上がる。逃げながら考える。

まさか、調(みつぎ)にこんな力があったなんて全然知らなかった。中二病っていうのは皆こういうものなのか?絶対違うと思うんだけど…。

逃げながら、何度も自分の頬をつねる。痛い。これは夢ではない。だけどやっぱり、さっき起こったことはとてもじゃないけれど現実とは思えない。いや、今は何考えても無駄だろう。とにかく、先生を撒かないと───

私は、死に物狂いで走り続けた。




□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□




次の日、(たより)達は何事も無かったかのように学校に登校した。いつも通りの通学路、いつも通りの生徒たち、窓ガラスが割れたところにブルーシートが張られていること以外はいつも通りの校内。いつもとなにも変わらない風景。そして、いつも通り放課後に廊下に響き渡るある男子生徒の声。


「我、この世を本当の混沌に陥れ、本当の平和を望む者、”真の(トゥルー・)調停者(ミディエイター)”。俺は、この世に生まれ落ちて来てからずっと一人だ……。家族も友人も、相棒と呼べる仲間すらいない……俺は一匹狼だ…。だが、俺に仲間など要らない。俺は一人でこの世に真の混沌と平和を訪れさせる!!そして、俺の真の名は────」


(たより)が部室のドアを開けた。

部室の中には、変なポーズをしながら立っている調(みつぎ)真の(トゥルー・)狂技術者(マッドエンジニア)改め、”(くるい)”が椅子に座っていた。


「───本当に一人増えてる……」


(たより)が呟いた。


「ふっ、どうだ(たより)!これで校内平和維持部(ここ)も、同好会と馬鹿にできなくなったぞ!!」

「いや、部員が4人以下だと同好会のままだよ」


(たより)のツッコミに、調(みつぎ)が一瞬フリーズする。


「そ、そうなのか!?」

「それに、二学期が始まる前に部員を5人以上にしないと、学校から強制解体されるよ」

「なん…だと…」


調(みつぎ)は、ショックでそのまま倒れこんだ。

それを見た(くるい)は、笑いながら喋りだした。


「ははっ、この同好会(そしき)が潰れるのも時間の問題ってわけだな。そりゃありがたい」

「貴様、他人事のように……」


調(みつぎ)はゆっくりと立ち上がる。


「まあ、二学期までならなんとか集められるだろう。昨日も一匹捕まえたわけだしな!」

「俺を匹で数えるな!」


今は5月の上旬。ここの高校はちょうど9月から二学期が始まるので、強制解体のタイムリミットまであと4か月程度あることになる。まあ、こんな変な部活(ところ)に来る人なんてなかなかいないと思うけど。


「そうと決まれば、さっそく部員を集めなければ!!」

「ふっ、仕方ない、我もついて行ってやろう」


そう言って調(みつぎ)(くるい)は走って部室を出て行った。


「……帰ろ」


そう呟いて、(たより)も部室を出た。

このときは、まだ誰も想像しなかった。この同好会…部活が後々、校内に大きな影響を与え、校内でとどまることは無く、世界にさえ影響を及ぼすことになるなんて。

なんてことは、起きないよね…?



オチがなくてごめん!!

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