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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『破壊の魔女』は最愛の人を殺さなければならなかった。


この世界には皆それぞれ特殊な力を1つだけ、与えられる。


・・・とはいっても、同じ時間に目が必ず覚めるとか、あくびをすれば近くに人がいたら必ず伝染するとか、そういった大したことのないものがほとんどだ。


でも、全ての人に何らかの特殊なのが与えられるということは、誰もが恐れるような特殊な能力を持つ者がいてもおかしくはないのだ。


・・・事実、強力な能力を手に入れてしまったばかりに恐れられ、『なんでも破壊できる能力』を持った『破壊の魔女』と呼ばれる少女がいた。




「なあ、メリエム」


「なに、ルリシット?」


朗らかな微笑みを俺に顔を向ける少し小太りな少女、メリエム。

彼女は大いなる特殊能力を持っている『破壊の魔女』と町の皆からは言われている。


そんな彼女と俺は幼馴染で、よく一緒に遊んでいたため、16歳になった今も一緒にいることが多い。町の人たちもそれを知っていて、メリエムへの用事を俺に伝えることも多い。


あ、そうだ。


「ゼジーの家の庭の大木が腐り始めてて、家を押しつぶしそうらしいから、破壊してくれって」


ふと、思い出した用事を彼女に伝えると、彼女は一瞬足を止めた、が、すぐに歩き出した。


「やっぱり破壊することにしたのね・・・わかったわ」


メリエムは木だって生きてるから、壊されたくないだろうけどと少し寂しそうに笑う。


「・・・考え方って難しいよな」


「そうね、私たちは生きるために生き物を殺して生きているし、それはやめたら私たちが死んでしまうものね。でも、植物だって生きているし、猪や鳥、カエルだって食べるけど、それは私たちが生きるために仕方ないから、彼らに許しを乞いながら生かされてる、だよね?動物はだめだけど、植物は食べて良いなんて都合の良すぎる命の天秤にかけてはいけないわよね」


「そうだね」


植物も刈り取られる時には悲鳴をあげ、生で食べれば苦しむと、『植物の言葉がわかる能力』をもつ能力者が言っていたというから、事実なんだろう。


・・・いつだったか、幼い子ころにメリエムが猪を殺す瞬間を見てしまい、それが彼女の大好物のお肉であると知り、大泣きして食べられなくなってしまった事があった。


心優しい彼女には、生き物を殺して生きていることを衝撃に感じたらしい。


まあ、それが彼女らしさでもある。

だけど、それでは彼女が今まで食べてきたものに対しての冒涜でもあるのではないかと思った。

あの時俺はどうやって伝えたか忘れたけど、そんなことを伝えたら彼女はそれを今でも頭に入れていつも生活しているのだとか。


「私もルリシットみたいに、『手に隠した小石がどちらの手に入ってるかがわかる能力』だったらよかったなあ」


「・・・言葉って重たいな」


「え?」


何も答えない俺に、はにかんで彼女は俺に背を向けて歩きだす。



ゼジーの家にたどり着くと、メリエムが今にも倒れそうな傾いた巨木に手を当てた瞬間。それまでそこにあったはずの巨木は粉微塵となり、風に舞って行った。


「相変わらず凄いな」


「根元までしっかり一瞬で消し飛ばしたから、あまり木も苦しくなかったはずよ」


「ルリシット助かったよ!邪魔な木だと思ってたからよお!ルリシット!彼女の手綱はちゃんと握っとけよ?」


俺たちに気が付いて家から出てきたゼジーは手を叩きながら感心したように木のあった場所を眺め「ありがとさん!」とだけ告げて家に戻っていった。


「相変わらず陽気な人ね、ゼジーさん」


はにかむメリエムをよそに、俺は内心、ゼジーの言葉にイラついていた。


「・・・」


「どうしたの?」


ゼジーは実は生まれつき声が出せない。だが、手を叩いてる間に、その音が聞こえる範囲に心に思っていることを伝えることができる能力者だ。


「いや?なんでもない、帰ろうぜ」


・・・ならば、ゼジー。なぜ彼女に感謝しないのか・・・?


この町はそういう人間が多い。


表面上は取り繕っていても、内心はメリエムのことを怖がっている。

・・・怖いものは永遠に怖いのだろう。


いつか、この町を出ていきたい。メリエムと二人で・・・ま、まあ恥ずかしくて言えねえんだけど。



ただ、俺はこの恥ずかしく感じていた頃を後悔することになる。



ある日、唐突な声で目を覚ました。

ただ、何と言ってるかはわからなかった。


眠気眼をこすりながら、外に顔を出すと、大勢が町の広場に集まっているようだ。


俺の家の近くが町の広場で、家から出ればすぐに広場が見えるからだ。


「え、なんだ?」


広場には町のほとんどの人が集まっているようだ。



そして、その光景に混乱することになる。


お、おかしい・・・もう昼、いや、もう太陽が傾いてる?!


いつもならこんな時間まで眠っているわけがないのに・・・!


近所に住むチレットおばさんに『眠っている人の睡眠を延長する能力』を使われていたのかも・・・でも、なんで・・・


嫌な予感がして周囲を見渡してメリエムを見つけてしまった。普段なら、そんな場所にいるはずがないのに・・・


「この娘は大いなる災いだ!災いそのものだ!これまで生き長らえていたのが信じられない!」


広場にはいつも間に作られたのか、簡易的な高台ふが作られ、そこにメリエムが両手を後ろに縛られフードを被った人物に首根っこを掴まれ膝をつかされていた。


「この子は、災いをもたらすであろう!!!!近い将来、この町は滅びる!この予言の能力者である私が言うのだから間違いない!」


『未来を予言する能力』・・・予言者!?


そう、予言の能力を持った予言者に告げられ、町の人たちは集まったらしい。


「私はそんなことしません!!」


メリエムが必死にそう訴えても、町の人々が効く耳を持つはずなどなかった。


「嘘だ!悪い悪い魔女の言うことだ!」


「殺せ!今すぐに!」


「うちの飼っていた猫がいなくなったのも、あの魔女が殺したにちがいない!」


「ってことはなにか!!?隣の家のばあさんが去年死んだのもこの魔女のせいか!!!」


「そうだそうだ!!」


「わたしゃね!おととし火事になった家に頻繁にこの魔女が出入りしてたのを見たよ!?」


悪い噂を流し、ありもしない罪をでっちあげ、罵り、石を投げ続けた。


怒りで震える足を無理やり動かし、俺はメリエムの元に駆け出す。


「違う!違う!!猫もばあさんも年だっただけだ!火事だってあの家の火の不始末が原因だったはずだ!」


俺がそう言っても誰も、誰も誰も!聞いてくれなどしなかった!そして道を開けてくれることすらなかった。


「俺の話を聞いてくれ!」


何度言った言葉だろう。


「誰でもいい!!俺の話を聞いてくれ!!」


いままで、何度言ってきた言葉だろう。


「彼女は悪い魔女なんかじゃない!」


そのたびに、俺が鬱陶しいのか、やれやれと逃げていく町の人たちを、何度も説得しようとしてきた。


「彼女は、優しい人間だぁあああああああ!!!」


たしかに、メリエムはその気になればどんなものでも壊すことができた。


それが彼女の大いなる能力。


それゆえに、彼女は彼女の能力だけを知る人々から恐怖されていたのだろう・・・その不安が予言者の能力で煽られ、爆発して歯止めが効かない状態になってしまったのだろう。


「殺せ!突き刺せ!さあ!皆で突き刺せ!!それが彼女を許すことであり、この町を救うために絶対必要な正義だ!!」


「「「「「おおおおおぉぉおぉおおおおおっ!!!!!!」」」」」


ぐちゅっ!ごりぃ!みちぃ!!!ぐちゅごりゅぐちゅぐちぐちゅ!!!


町の人々の叫びの中に悍ましい音が響くのが聞こえ、人々をかき分ける俺の手に力が失われていく。


視界が歪みはじめる。鼻腔が詰まり、頬をおびただしい、液体が流れるのを感じる。



大いなる力を正しく恐れ、正しく行使していた・・・そんな彼女のことが、俺は大好きだった。



生きる権利。



そういうものが、人々には与えられているのだろう。


生きたければどんな状況でも生きることは自由だ。


そう思って生きてきた。


目の前で彼女が殺されるのを見るまでは・・・


彼女を元にたどり着くと、そこには全身を鉄の棒や鎌、鍬等で滅った刺しにされて動かなくなった彼女だった、それ、があった。


「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



彼女はずっと、その破壊の力を皆のために使ってきた。


『ねえ私は、何がいけなかったのかな・・・』


そしていつも、メリエムは自身が悪かったならそれを治そうとしていた。

いつだって自分以外のみんなのことを思っていた。


『この力があれば、きっとみんなの手助けができるよね!』


「そうだ、メリエムのその力はとても素晴らしいよ。メリエムにしかできないことがたくさんあるはずだよ」


・・・理不尽に死を迎えるその瞬間ですら、その大いなる力を正当な防衛にすら使わなかった。


なあ、こんな特殊能力なんて与えた神様・・・なんで、こんなことが許されるんだ?


俺は何もできなかったよ。


「皆の者!これで悪い魔女はいなくなった!神はあなたたちを許した!なんと素晴らしいことだろう!」


予言者が宣言した瞬間、時間が止まったように感じていた俺の時間が周囲の町の人々の歓声で動き出す。



「おお!!!」

「これでみんなが救われる!」

「神のご意思だ!なんと素晴らしい出来事だろう!」

「私たちが救世主なれたのね!」

「なんて良い日だ!!」

「最高に気分が良い!!」

「正義が下された!ああ!これこそが絶対な正義!」


歓喜に酔いしれる人々を見て、ぼそりと俺は「狂ってる」とだけつぶやくしかなかった。


メリエムの亡骸を抱えて、その場を後にすることにした。

内臓が飛び出てしまい、全部を持って行くことができなさそうだ・・・


だれも、手伝ってくれることはなかった。




・・・人間は間違える。




『間違い』・・・それは許されるべきだろう。




そして、許すということは、罪を犯したその人が問題なくその後も何不自由なく生きていくことを容認すること。

そう・・・皆、生きる権利を持っていて、それを奪ってはいけないから。


ただ、罪の意識もなく、反省もしない彼らは許されていいのか?


・・・『罪』とは、社会的に決められた法律や道徳的基準に違反する行為や行動そのもの。


社会的にそもそもこれはただの殺人のはずだ。


このメリエムの殺人は『罪』にならないのか?


神が関われば、その時点で犯罪ではなくなるのか?

正しいと思っていれば罪ではないのか?


「・・・そんなわけはないだろうが!!!」


亡骸を抱え、俺は、決意した。


生きる権利を、彼女は不当に奪われた。

ならば、その簒奪者たちに因果応報があっても良いのだろう・・・



「なぜだ?おかしい、未来が変わっていない・・・!?」


ふと預言者が異変に気がついたようだがもう遅い。



俺の持つ能力を強く発動させた。






一瞬の明滅の後、町の景色が変わった。

あったはずの建物がなくなったり、人々が消えていったり、それまでいなかった人が現れたりと大きく変わった。


そして、一番変わったことがある・・・目の前からメリエムの亡骸は消失している。



「近い将来、この町は滅びる!この予言の能力者である私が言うのだから間違いない!」


先ほどまで歓喜していた街の人はいない。

予言者が唐突に広場で叫ぶが、街の人たちは失笑している。


「私の話を聞け!今に元凶の人間がやってくるぞ!そいつを殺さなければ、皆殺される!」


「なんだよあんた、このさびれた大した能力も持ってない人間しかいない町にそんな人間がやってくるわけねえだろ、それにそんな大それたことをしでかす奴なんて聞いたこともねえ」


「私は予言者だ!嘘じゃない!」


だがその『予言』という名の『戯言』に取り合う人間はいない。



なぜならば、悪い魔女とされた破壊の能力を持つメリエムはとっくの昔からこの町にいないのだ。


「なあ、でも、その予言、間違ってないぜ?」


俺は、予言者の背後で、小声で告げる。




その数時間後、この町はすべてが粉微塵になって消え去っていた。

そこにあった人間たちも動植物も建物もそのすべてが一瞬にして消え去っていた。



・・・俺が過去を変えた。

そう、俺の能力は『過去を改変する能力』。


この町にたしかにメリエムは生まれたが、俺は彼女の能力が明るみになる前に、彼女の全てを否定しこの町から追い出したのだ。


彼女を慰める言葉など一切なかったことにし、代わりにこの町の人間たちと同じことをしてやったのだ。

いや、もっとひどいことをしただろう。


だから、今、彼女は俺の目の前で生きている。

残忍な性格になり、人を殺してもなんとも思わないような、稀代の殺人鬼になって・・・


「久しぶりねルリシット」


「ああ、会いたくなかったなぁぁ・・・メリエム」


嘘だ・・・会いたくて仕方なかったよメリエム。

ただ、彼女はそれを知らないだろう。どんなに彼女を思ってきたかなんて・・・



彼女は塵が飛び交う地帯となった場所になぜか、俺と二人きりになっていた。

最後に神がくれたチャンスかもしれない。


「最後に、1つ、言っておきたい」


「なにかしら?」


やっぱり嘘はつけないな。


「メリエム、どんな君でも俺は大好きだ」


ああ、やっと言えた。どの人生でも言えなかった言葉だ。


「・・・」


彼女の表情は読み取れない。塵の嵐でまともに俺は目を開けられなくなっていた。


でも、もういい。


・・・彼女が生きられる世界は・・・彼女が残忍でなければならなかった・・・心残りはない。

この未来になるまで、何度能力を使い続けただろう。


何度彼女は自己防衛もせずに殺されたことか・・・優しいだけでは殺されて喜ばれるだけだ。

逃げ出しても他も町でも予言者が現れて、殺された。

逃げして、森や山、秘境・・・どこにいても、予言者が放ったのか暗殺者が現れ殺された。

予言者を見つけ出して殺しても、今度は別の予言者がランダムで現れて殺された。


もう、彼女らしい状態では、どこにも彼女の生きる世界はなかったのだ。


だから・・・彼女さえ生きてくれていてくれさえすればそれで良いんだ。

最後に残された道は、俺が存在せず彼女自身が自己防衛をできる状態になっている世界。


皆、生きる権利を持っていて、それを奪ってはいけないなんて・・・ね。


俺は罪を認めない。反省もしないし、許しを乞うこともない。


正しいと思い込み、他人を貶め続けた人間が迎えるべき姿・・・か。



俺は、体が飛び散るのを、自覚した。

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