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【電子書籍〜4巻。コミカライズ予定】ダイアナマイト - 転生令嬢は政略結婚に夢を見る -  作者:
コランダム編

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業界では罰でも、私にとってはご褒美です

「ごめんなさいね。でも、こればかりは自然に任せるしかないわ」

「そうですか……」


 生家である王宮に過ごすようになってから、サフィルスの記憶は順調に戻ってきている。

 しかしその回復は、二年前のできごとまで蘇った時点でピタリと止まってしまった。


「肉体にダメージを受けた状態で、見知らぬ場所で目覚めたことから軽い錯乱状態になり、その後は強い不安や恐怖に晒され続けたことで記憶が封じられていた。安心できる場所に帰ってきたことで徐々に回復している」というのが医師の見立てだ。


「今の殿下にとって、私は覚えのない間に交代した見知らぬ婚約者にんげんですね」


 ダイアナは、帰還したサフィルスとまだ顔を合わせていない。

 婚約者を変更したことは本人に伝えているが、彼の精神的負担を鑑みて面会に関してはドクターストップがかかっていた。


 今のサフィルスは、王太子としての遅れを取り戻すことで、いっぱいいっぱいな状態だ。


「……ねえ、ダイアナ。貴女達の結婚だけど、サフィルスの状態によっては予定通り行うのは難しいと思うのよ」


 ダイアナに寄り添う姿勢を見せつつも、アリアネルは慎重に切り出した。


「婚約解消ということですか?」

「ちっ、違うわよ! 王太子の婚約を簡単に解消することはできないわ! ルベル王女の場合は、彼女が立太子するという正当な理由を掲げることができたからよ」


 二回目ともなると、どんな理由を述べてもサフィルス本人──ひいては王家に問題があると思われる。


「それは安心しました」

「──でもね。今のサフィルスは王太子として、通常の仕事をこなすのもギリギリな状態なの。あの子のことを想ってくれるなら……」


 王妃は貴族女性の得意技『婉曲な要求』を発動した。その真意は「お前から『落ち着くまで結婚を延期する』と言え」だ。



「わかりました!! 今の殿下には王太子は荷が重いから、男爵家の婿にくださるというわけですね!!」



「なんでっ!? えっ? ちょ、なんで!?」


 大事なことなので二回言ったな。

 まあアリアネルの反応は正しい。王太子が男爵家に婿入りなんて、断罪返しされた連中の末路じゃん。



「ご安心ください!! 殿下のことは私が責任を持って幸せにします!! 決して不自由はさせません!! 息子さんを私にくださいッッ!!!!」



 ステイ! ダイアナお嬢様ステイ!!


「王家の血筋が我が家に引き継がれるのがお嫌であれば、殿下との間に子は設けず、アダマス家は私の代で途絶えさせます!」


 前世の影響で、子供を持たない選択をすることに抵抗のないダイアナ。

 お家の存続第一に考える王侯貴族からすると、信じられない宣言だ。


「アダマス男爵令嬢!? そなたは何を言っているんだ!?」


 この部屋にいるのはダイアナとアリアネルだけではなかった。国王と宰相も居た。

 謎展開に宰相が叱りつけるように声を上げたが、キラキラ笑顔のダイアナは胸を張って答えた。


「王妃様はご出産可能な年齢でいらっしゃるので、まだチャンスはあります!」

「ちょっと! そんなこと、この場で言わないで頂戴! 無理よ! 無理無理!」


 再教育しようが王になるのは無理だと、暗黙の了解で選択肢から外されてるアレキサンダー。

 王妃が「無理」を連呼するので、国王は地味に傷ついた。


「では次の王は陛下の兄君の孫の中から選出し、その者が王太子教育を終えるまでは陛下が現役で頑張られるというわけですね! 陛下はまだお若いので、あと十五年くらい余裕でしょう!」

「じゅうご……」


「譲位したら世界一周に行きたいなぁ。炎の水、氷の大地、砂の雪原とか見てみたい」とぼんやり考えていたオニクス三世は涙目になった。

 氷河は無理だけど、マグマと砂漠ならコランダム(おとなりさん)にあるぞ。


「父は基本家に居ませんが、それでも舅と同居するのはストレスでしょうから新しい家を建てます! 元王太子という身分だと、社交や外での仕事はお互いに気まずいと思うので、殿下さえお嫌でなければ内向きの仕事をお任せします!」


 どんなにデカかろうと、王宮は二世帯住宅だ。

 新婚で義両親との同居を強いられていたダイアナは、降って湧いたチャンスに暴走モードに突入した。

 チャンスも何も、サフィルスを婿に出すなんてありえないので、稀によくある結婚関連で頭が残念なことになる恒例のパターンだ。お嬢様だけIQレベルダウンな件。


「まさかサフィルス殿下に女主人の仕事をさせる気か!?」


「通常の女主人の仕事から社交を除き、経営系の事務仕事を増やすつもりなので、まんまではありません」


 専業主夫に全く抵抗がなかったダイアナ。ちょっと在宅ワーク割り振れば、サフィルスの矜持が保たれるかなと判断した。

 気を遣うのそこじゃないんだよなあ。


「社交と、外で働くのは私が担当します。私、お金稼ぐの得意なので!」


 それ未成年の特技としてどうなの?


 ダイアナの宣言に男性陣は白けた顔をした。

 彼らの目は「社会に出たこともない小娘が何を言ってるんだ」「どうせ父親を頼るつもりなんだろう」と物語っている。


 しかしダイアナの発言が真実であることを、身をもって実感しているアリアネルは震えた。

 既に彼女は()()マイカを利用して、屋敷の一軒くらい即金で購入できるくらい荒稼ぎしている。

 更に婚活サロンでの一件で、彼女のビジネスパーソンとしての能力は実証済みだ。



 婚活サロンは無料ではない。

 少子化対策ではあるが、直接的な恩恵を受けるのは貴族だけなので、国の税金で全てを賄えば平民の反感を買う。

 しかし入場料、フード代だけでは、会場の整備費と人件費は賄えない。

 極力低コストにしようとアリアネルが頭を悩ませていたら、様子をうかがっていたダイアナが口を挟んだ。


 ダイアナとしては、アリアネルが仕切っている横からあれこれ口出しすれば、彼女のプライドを傷つける……生意気な嫁として認知される恐れがあったので様子見していたのだが、王妃に主導権を渡したままだと成功するビジョンが見えないので腹をくくった。


「王妃様。お役所仕事のしょぼいイベントなんて、若者は素通りして終了ですよ」


 ちょっ、久しぶりだなこの切れ味。


「なら費用がかさむ分、営業日を減らすのはどう? 隔月開催にするとか、季節ごとに一定期間だけ開催するとか。そうすればネックとなる人件費を削ることができるわ」


「利用しようか迷っている層に、そんなことをしたら敬遠されるだけです。気軽に利用できるのがこのサロンのウリです」


 アニメ化で新規開拓したいのに、サブスクチャンネルで独占配信するようなものだな。

 前から気になってた作品でも、これを機に契約するんじゃなくて「縁なかったわ。残念」で終了になるパターン。


「会場となる旧劇場の近くには、人気のパティスリーがあります。そこを利用しましょう──」


 ダイアナはラパンと宮廷料理人とのコラボを提案しただけではなく、会場内で出される飲食物をラパンが提供する方向にもっていった。

 今は優秀な保温ポットもあるので、飲み物すらラパン旧市街店が用意したものを補充するスタイルだ。

 これにより会場にキッチンを設置する費用も、調理する人間の人件費も浮いた。


 更にコラボメニューの一部をテイクアウト商品として、旧市街店で販売する契約を結んだ。

 本来であればサロンの利用客しか口にできないものが購入できるとなれば、貴族平民問わず人が殺到する。

 売上の一部は、サロンの運営費として還元される仕組みにした。


 テイクアウトとの差別化を図るために、サロンでは会場限定の期間限定メニューが用意されている。

 客単価を上げるために、意中の相手と楽しむためのアフタヌーンティーセットという、高額メニューも用意した。

 冷静に考えれば好きなものを単品で頼む方が利口なのだが、見栄を張りたい連中が殺到するに違いない。


 宮廷料理人にしてもデザート担当は椅子取りゲーム状態で、志願者たちは自己PRの機会を虎視眈々と狙っていたので、コンペを行うとアリアネルがお触れをだせば応募が殺到した。

 宮廷料理人が考えたメニューを、ラパンのパティシエが採算がとれるよう落とし込んで調理する。コラボの体裁はギリギリ保ってる、嘘は言ってない。



 同様に内装やテーブルウェアに関してもダイアナは外部を巻き込んだ。


「テーブルセット、食器をはじめとする内装全てをお任せします。契約した商会の名前をプレートに刻印して出入り口に掲示、メニューにも印字します」


 遊園地(テーマパーク)のアトラクションとか飲食店(カフェ)でよくみかけるヤツだな。


「サイズの問題があるのでテーブルや椅子はオーダーメイドになりますが、類似デザインの販売を認めます。テーブルウェアに関しては、そちらで売り出したい商品をテスト・マーケティングしていただいて構いません」


 ダイアナが王妃の名のもとに集めたのは、勢いはあるが歴史のない商会達だ。

『王室御用達』って堅実と言えば聞こえがいいけど、要するに地味な商売してる老舗の爺さんたちだろ。商売は売上が正義。今時そんな肩書きなんて……嘘です。喉から手が出るほど欲しいですっ!!

 でもウチじゃ難しいって分かってます。だって目新しい物や、流行り物を、大量に売り捌いて稼いでるんだもん!

 今から格式ある商会と肩を並べるなんて、転生しない限り絶対無理。転生したら創業年数リセットされちゃうし、覆面ブランドで老舗と戦うのも現実的じゃない。はー、つら。


 そんなジレンマを抱える連中に、ダイアナは『実質王室御用達のようなもの』という餌をぶら下げた。

 更に「無料の展示場扱いしていいよ」と仄めかす。


「極力税金に頼らない運営を目指しているので、入札価格がもっとも低かった所にお願いします」


 まあここまで来たらお察しだが、開票したら『0』が並んだ。

『1』を書いてしまった者が二名いたが、彼等は「(マイナス)を書き忘れた!」と悪あがきをした。

 中には金額を書けと言ったのに、小さい紙にみっちりと<季節に合わせて内装を一新します>とか<専用ブランド作ります>とかアピールしてきた輩も居た。


 こうしてガンガンテコ入れしたダイアナは、あっという間に婚活サロンを税金による補助を必要としない状態にもっていった。

次回、記憶を失ったサフィルスがダイアナと初対面します。


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― 新着の感想 ―
うーむ。有能ヽ(*゜ー゜*)ノ
[一言] たぶん記憶は戻ってるのだがあまりに非現実的だから受け入れられていないだけではと推測、本人に会って『あ、マジだったわ』になるに1票。
[良い点] 相変わらずヤバ過ぎて草w
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