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【電子書籍〜4巻。コミカライズ予定】ダイアナマイト - 転生令嬢は政略結婚に夢を見る -  作者:
ギャラン帝国編

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犯人はお前か!

 ドゥ皇帝の第一子は、リーリャ王女だ。

 正室である皇妃の顔を立てる為、彼は最初に彼女との間に子供を儲けた。

 一年かけて王女が健やかに成長しているのを確認した後に、側室の部屋を訪れるようになりアルチュールとヴァルが生まれた。

 正室の子である第一王女と、側室の子である第一王子は二歳違いだ。第一王子と第二王子は数ヶ月違いなので、生まれた年は同じだが学年はひとつ違う。


 ギャラン帝国において、子供は生まれた順番に関係なく平等だ。

 それでも先に生まれた方が有利なのは、変えようのない事実。子供の成長において、一年という月日が与える影響はそれだけ大きい。


 リーリャは心身共に健康体の愛らしい少女だったが、突出した才能はなかった。

 それに比べてアルチュールとヴァルは幼少期から才気煥発だった。……ヴァルはちょっと尖り過ぎていたが。

 娘を女帝にしたがった皇妃にとって、二人の王子は早い段階で目障りな存在になった。

 彼女がより警戒心を抱いたのは、コミュニケーション力に難のあるヴァルではなく、オールラウンダーだったアルチュール。

 そして事故に見せかけた殺害計画が実行されたのだ。


「後宮で蹴落とし合いは日常茶飯事だが、無法地帯じゃない。罪を犯し、証拠があれば罰が下る」

「それで皇妃様は長い間、表に出てこられないのですね……」

「罪状は伏せられているが、蟄居のタイミングから察することができる。暗黙の了解というやつだ」


 アナスタシアが物心ついた時には既に、皇妃は健康問題を理由に人前に出ることがなくなっていた。


「リーリャ様は、幼い頃に病気でお亡くなりになったと聞いていますがもしかして……」

「彼女に罪はなくても、王女であり続ける限り母の罪が付き纏う。公式には死亡したと発表して、陛下はリーリャに新しい名前を与えて後宮から逃した」

「じゃあ、今は外の世界で幸せに過ごされているんですね!」

「金眼持ちじゃないから市井に溶け込むのは難しくないけど、王家の血を外に放つわけにはいかない。幸いにも我が国には、リーリャのような立場の人間にうってつけの場所があるから、幸せかどうかは知らないけどそこで生活している筈だ」


 ヴァルの言葉が意味することを理解し、アナスタシアは呟いた。


「……ジブラルタル修道院」


「公爵家が懇意にしている場所だから、もしかしたら既に会っているかもしれないな。飼い殺しみたいな生活だが、リーリャは元々インドア派だった。彼女の性格を考えるとピーナッツでもボリボリ食べながら、部屋で趣味に没頭してるんじゃないかな」


「何故ピーナッツ……?」


「『体のラインが崩れる』と、皇妃は幼い娘に菓子類を与えなかった。間食として唯一許されたのがピーナッツだったんだ。こっそりクッキーをあげたことがあったけど、既に舌が砂糖を混ぜた小麦粉を受け付けなくなっていた。外に出る頃には味覚の基礎ができあがっていたから、今も変わらないはずだ」


 大国の王女なのに、おやつがピーナッツ。一般市民よりも質素かもしれない。

 確かにストレスなく体型維持できそうだが、人並みに甘い物が好きなアナスタシアはホロリとした。


「もしかして第一王子が、修道院に同行したのは……」


「自分のことで手一杯な奴だけど、時間と共に他人を気にする余裕が出てきたんだろう。切っ掛けはどうであれ、リーリャがどんな環境で暮らしているか気になったに違いない。ギャラハッドの時間稼ぎの賜物だな!」


 唐突なブラコンやめれ。


「──アルチュールに出家するように告げたのは、エレイン妃の独断だ」


 親と言えど、妃一人で勝手に子供の進退を決めることはできない。

 出家ともなれば、絶対に後ろ盾である実家と皇帝の許しを得なければいけない。


「事件が起きた時、エレイン妃は妊娠初期だった。精神的に不安定な時期に、長男を殺されかけたことで彼女は心の病を発症していたんだ」


 当時のエレインは、自分が問題行動をした自覚がなかった。

 周囲に諭されても、自分の過ちを理解することができなかった。


「彼女の不幸は、周囲がそのことに気付かなかったことだ。アルチュールの足が治らないことに動揺して、つい先走ってしまったと処理された。アルチュールが母親に会うことに怯えたのもあるけど、ストレスによる流産の危険があった為にエレイン妃は離宮に移された。彼女の実家は辺境で妊婦が移動できる距離じゃないから、環境の良い場所でゆっくり過ごせるようにという陛下の配慮だ」


 表情が出難く、弱みを見せない性格をしていたことで、周囲はもちろん本人も無自覚のまま症状が進行した。


「同時期に、ボクの母も育児ノイローゼに陥っていた」


 時を同じくして、ペルスも息子の存在に悩まされていた。

 見た目は子供、頭脳は大人だったヴァル。ペルスは何とかして我が子を愛そうとしたが、本能的な拒否感と、彼と会話する度に蓄積されてゆく劣等感はどうしようもなかった。

「このままでは、息子に対して取り返しのつかないことをしてしまいそうだ」と、ペルスから助けを求められたドゥ皇帝は、落ち着くまで二人を隔離することにした。


「母は引き続き後宮で過ごすことになった。そしてボクが預けられた先は、王族が安全で快適に暮らせる場所──エレイン妃のいる離宮だった」


「え。それって大丈夫だったんですか? エレイン妃にとってヴァル殿下は、息子のライバルのような存在だったのでは?」


「皇妃は多くのスパイを各派閥に放っていた。大規模な粛清をした後だったから、どこも人手不足だったんだ」


 別の場所で保護するとなれば、世話役や警備など何人も動員しなければいけない。

 当時、信用できる人間が少ない状況で王族を守るためには、まとめて生活させるのが一番だったのだ。


「ボクは大人の指示を理解してこなせる子供だった。訳あって暫く保護することになった、と言う触れ込みで離宮に滞在することになった」


 王家の金眼持ちなので、降嫁した王族の末裔設定だった。

 パーシヴァルと名前を変え、ダークブラウンのカツラを被ったヴァルは、背格好も色彩もアルチュールによく似ていた。

 エレインは会えない息子の代わりを求めるように、パーシヴァルを可愛がった。


「あの頃のエレイン妃は『アルチュールが殺される夢を見る』と、眠ることを極端に恐れていた。だからボクは『アルチュールが狙われたのは、本人の能力と後ろ盾が揃っていたからだ。片方を外してしまえば、同じように狙われることはなくなる。生まれてくる息子にギャラハッドの名を与えれば良い』って言ったんだ」


「ちょっと待ってください! それだと第三王子が狙われることになりません!?」


「ならない。ただその陣営の本命が、ギャラハッドだと誤解する程度だ。言っただろ、能力と後ろ盾が揃って初めて脅威になるんだ。優秀かどうかも分からない赤ん坊を、リスクを背負って殺そうとはしない。アルチュールが後ろ盾を失ったと認識されれば、次に狙われるのはボクだ」


「……あのー。殿下は、その時何歳だったんですか?」


「四歳」


 そりゃ母親ノイローゼになるわ。


「アルチュールの名前はアヴァロン伝説のアーサー王が由来だ。長男に伝説の王、次男に伝説級の実在した王。ギャラハッドが成長して誤解を解きたくなったら、釣り合いを重視して名付けただけだと説明すれば解決する」


「アヴァロンは知ってますが、アーサー王なんて知りませんでした」


「成り上がりとか、復讐とか……帝国人はバイタリティのある人物や、波乱万丈なストーリーを好むから仕方がない。アーサー王の物語は優しい御伽噺だ。彼は幸運の持ち主で、ひたすら穏やかな一生を過ごした人物だ」


「……エレイン妃はその物語を知っていたんですね」


「彼女の祖母はグラストン出身だ。帝国ではマイナーだけど、彼の国では有名な話だから、読み聞かせていたとしても不思議じゃない」


 四歳だったヴァルが、そんなマイナーな伝説を知っていたことについて、アナスタシアはツッコまなかった。

 理由はヴァルだからだ。


「ボクの意見を採用したエレイン妃は、陛下の許可を得たと嘘をついて出生届を出した」

「戸籍の管理は神殿の管轄なので、一度受理されてしまえば、たとえ皇帝陛下であっても撤回は困難ですね」

「二度目の暴走で、漸く周囲は彼女の精神状態がおかしいことに気付いた。出産までは母体を守るためだったが、出産後はエレイン妃がアルチュールを傷付けないために、陛下は二人を接触させなかったんだ」


「エレインはアルチュールを大切に思っている」とドゥ皇帝はフォローしたが、姿を見せない、手紙も寄越さない母親の愛を息子が信じることはなかった。


「ギャラハッドの成長と共に、エレイン妃は立ち直った。でも当時の記憶が残っているからか、彼女は自分からアルチュールに接触できなくなったんだ」


 心神喪失状態だったエレインを、皇帝は罰しなかった。

 病から脱却した彼女は、正常ではなかったとは言え、王族らしからぬ振る舞いをしたことを深く悔いた。

 この先は公人として正しい判断をしなければ、と雁字搦めになり、彼女は精神的に安定している次男を皇帝として推すに至ったのだ。



 話が終わる頃には、すっかり部屋の空気は重くなっていた。


「ボクとしては単なる思い出話のつもりだったんだ。君にそんな顔をさせるつもりはなかった」

「質問したのは私です。……でも、ちょっと……。すみません。気持ちを切り替えるのに時間がかかりそうです」


「そうだ、プレゼントを持ってきたんだ。物で釣るつもりはないが、気分転換にはなるだろう」

「えっ、そんな!」


 ポケットに手を入れるヴァルの姿に、アナスタシアはそわそわした。

 彼にこんな気遣いをされるとは思っていなかったので、正直に言ってかなり嬉しい。

 アナスタシアは婚約していたが、ロトの気遣いは外野へのパフォーマンスだった。プレゼントは他人に命じて用意させたもので、毎回使用人を介して届けられるものだった。


(男の人から手渡しでプレゼントされるなんて夢みたい! しかもポケットに入ってるってことは、自分で持ってきたってことよね!)


 幸せの閾値が低すぎるアナスタシア。


「求婚している女性に会いに行くのに、手ぶらでは格好がつかないからな」

「あっ、ありが────くぁwせdfrtgyふじこlp」


 ヴァルが取り出した物体を目にした途端、彼女はこの世界にはない驚き方をして椅子から転げ落ちた。


 彼が手にしているプレゼントは、あの聖杯だった。


 お前、国宝をポケットに突っ込んで持ってきたのかよ。しかも素手で掴んでるじゃん。

 言いたいことは色々あるが、本気でプレゼントのつもりなら剥き出し状態はダメだろ。ラッピングは資源の無駄とか言うなよな。

面白い! 続きが気になる! などお気に召しましたら、ブックマーク又は☆をタップお願いします。


次回最終話。

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― 新着の感想 ―
ヴァルさんー?!プレゼントに国宝。ぉ。ま。 そして、第一王女様御身かー!?
[一言] まぁ元皇女様はりっぱにイラストレーターとして稼いでいらっしゃるから······ いや何してんねんお前ぇ!?
[一言] 「なんでここでピーナッツ?」とか思った訳ですが、こんなところで回収されるとは。 人の心のわからない天才ってのは、やはり厄介ですなあ。 それを面倒見ていくアナスタシア嬢、頑張ってくれ。 …って…
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