やっぱつれぇわ
実力主義の帝国で、実力を示してみせた。
ジェンマ国と違って政略結婚が盛んな帝国で、公爵家の入婿は優良物件。
なのに、縁談のえの字も無い。
毎日色んなところに出向き、多くの人と話した。
なのに、誰も年頃の男性を紹介したり、自分が婿に立候補すると言わなかった。
前世の悪夢再び。ダイアナが奏江だった頃と同じ流れだ。
ケイがカヴァスと手を組んだのは、有能な当主を失いたくなかったのと同時に、この先ダイアナに貰い手が現れないと判断したからだ。
行き場のない王子を引き取るくらいしか、ダイアナが結婚する方法は無いと思われているのだ。
政略結婚大歓迎なダイアナお嬢様だが、ギャラハッドのストレートパンチと相俟って、この扱いはかなりこたえた。
そこに悪意があれば鼻で笑って気にしないのだが、どちらもそうではない。
「今日俺達が会ったことは、既にこの屋敷の人間には知れ渡ってる。皇妃であれ、女公爵であれアナを求めている以上、身体に危害を加えるような真似はしないと思うが、万が一ということもある。このあと用意した避難場所に移動してもらうつもりだったけど、俺との関係であらぬ噂がたつリスクがある」
「……」
ヴィヴィアン公爵令嬢が家を出て、第三王子に匿われていることが世間に知れたら、二人が男女の仲だと疑われる──それどころか、既成事実にされる可能性すらある。
「友人がインペリアルホテルに滞在しているなら、そちらに匿ってもらう方が良いだろう」
「……」
ギャラハッドとしては未婚の女性に配慮したに過ぎないのだが、これまでの流れだと「責任取らされて、ダイアナと結婚するはめになるのは嫌だ」ともとれる。
彼から「お前と結婚したい男は存在しない」と率直に言われたダイアナは、つい穿った見方をしてしまった。
「そうね! あそこは国籍の無い大使館のようなものだから安全だわ。久しぶりにパジャマパーティーしましょうよ。きっと楽しいわ!」
やさぐれモードのダイアナが沈黙しているので、居た堪れなくなったエスメラルダが口火を切った。
「……避難した後は、どうする予定ですか?」
「それは……、何とかするから任せてほしい」
だがホテルに立て籠って、ただ時間が過ぎるのを待つというのは、打開策として不十分だ。
入れ替わりが自然解消されなかった場合は、聖杯を表に引き摺り出して新たに祈願する必要がある。
「カヴァスの暴走を止める為に、遂に兄王子に見切りをつけて、ご自分が皇帝になる決心をしたんですか?」
「──!?」
ダイアナの言葉に、ギャラハッドは目を見開いた。
驚く彼を置き去りに、エスメラルダが嬉しそうに反応する。
「やっぱり! お芝居するのを止めれば、ギャラハッド殿下が皇太子に相応しいことは一目瞭然ですもの。そうすれば『王子単独では皇帝の資格がない』という建前が通用しなくなるから、皇帝陛下はカヴァスに聖杯を差し出させることができるわ」
「──!!??」
冤罪事件の発端となった皇位継承戦について、エスメラルダは帝国への旅路でアナスタシアから説明されていたので、彼女はそれなりに現在の帝国の情勢を把握している。
王子達が三竦み状態なのは、全員内面に問題を抱えているからだ。
しかし第三王子に関しては、その短所は演技だ。
「ちょちょちょちょっと待って! 二人とも何言ってるの!? 『やっぱり』って、どういうこと!? 俺達、今日が初対面だよねぇ!?」
「ギャラハッド殿下は、第一王子を皇太子にすべく行動していたんですよね。アルチュール殿下が立ち直る時間を稼ぐ為に色々小細工していたけど、今回の件で時間切れになったから此処に来たんじゃないですか?」
「な、なん──」
「もしかして逆でしたか? アルチュール殿下がそれなりに安定したから、自身は辞退することにしたんですか?」
皇位継承戦に決着をつけるのであれば、ギャラハッドがチャラ男を演じるのを止める方が手っ取り早いのだが、それではいくつか不都合な問題が生じる。
エレインを説得し、陣営が一丸となってアルチュールを擁立して、ギャラハッドも影からではなく堂々とサポートする形になれば充分可能性はある。
「正直に言って、カヴァスの建前を崩すには少々弱く感じますが、アルチュール殿下が皇太子になる方が、お二人にとっては幸せな結末ですもんね」
初対面の会話でその兆しはあったが、エレインとの会話で確信に変わった。
ギャラハッドは、長いこと母と兄の間で板挟みになっていたのだ。
「まあ、そうなの? わたくしは詳しい事情を知らないから、今日お会いした殿下の様子から推察しただけよ」
「だけって。二人ともこんな短時間で、俺の何が分かるんだよっ」
「出会いがしらの軽薄な態度が素であれば、重要な部分を話し終えて緊張が緩めば元に戻る。もしくは、要所要所で本来の性格が顔を出すはずです。でもギャラハッド殿下の場合は、従者を見張りに立たせてから一貫して調子が変わらないので、今のお姿が本来の姿なのだと考えましたの」
「……」
エスメラルダにスラスラと語られて、ギャラハッドは絶句した。
「私は殿下の言動と、エレイン妃から得た情報で判断しました──」
エスメラルダに続いて、ダイアナも自分の推論を語り始めた。
当てずっぽうではないと釈明するためなのだが、この先に行うのはギャラハッドの内面を詳らかにする行為だ。公開処刑と言っても過言ではない。
言っておくが、失言に対する仕返しではない。
本人が根拠を求めたので、それに答えるだけだ。
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