表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【電子書籍〜4巻。コミカライズ予定】ダイアナマイト - 転生令嬢は政略結婚に夢を見る -  作者:
ギャラン帝国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/146

癖になってんだ深読みするの

「殿下にされていたお話ですが、私には些か納得しかねる部分がございます」


 ギャラハッドが立ち去った部屋で、ダイアナはケイと向かい合っていた。


「何故アナお嬢様の元へ、カヴァスを派遣する必要があったのでしょうか? フォローなら、警吏官に伝言役(メッセンジャー)を紛れ込ませて、安心するよう伝えれば済む話です」


「もし有罪になっていたら、そうしていたでしょう。もしかしたら適当な理由を付けて、皇帝が戻るまでこっそり身柄を保護した可能性もあります」


 急遽予定を変更したから、書類上の偽装しかできていないメルランを投入する事になったとダイアナはふんでいる。


「しかしお嬢様は有罪になりませんでした。婚約者に裏切られた精神的ダメージも見受けられませんし、そもそもフォローする必要がございません。態々記者と身を偽って、お嬢様に接触する手間をかけた理由は何でしょうか?」


「……ロト殿下が、私に危害を加える恐れがあるからだと考えています」


 国はロトの企みを知っている。

 その前提で今日の出来事を判断すると、ロトは婚約者を嵌めた上に、彼女に返り討ちにあって色々失った。

 激昂して、早まった行動にはしってもおかしくない。


「一応王子ですからね。王族の肩書きを振りかざされたら、守りきれない可能性があります。なのでいざとなったら戦える人間を、ジャーナリスト役で彷徨かせる事にしたんだと思います」


 ダイアナにとって、メルランは国が遣わした監視であると同時に護衛だ。新聞記者として彼女の側に存在するだけで、アナスタシア・ヴィヴィアンを攻撃しようとする権力者を牽制してくれる。仮に実力行使に出られたとしても、カヴァスなら対処可能だ。


「ギャラハッド殿下に誤魔化して説明されたのは、殿下の言動に気にかかる部分があったからですか……?」


「おや、ケイも気付きましたか。真意は分かりませんが、当面は味方と考えて良いでしょう。それよりもこの家の掌握です! 私を代理として認めると、選定者としてとっとと通達してください!」


 明日はイグとエクターの親達が公爵家を訪れる。こちらはちゃんと先触れありだ。

 彼等の目的は、今回の件は息子の個人的な企みであり、家は無関係だと釈明するためだろう。その時に当主代理として、ダイアナは色々と要求するつもりだ。


 ダイアナは目の前の執事がヴィヴィアン公爵家の選定者だと言い切った。


「……何故私が選定者だと?」

「裁判所にヴィヴィアン公爵家所縁の者は居なかった、と断言したでしょう」


 本家の娘の裁判だ。気にならない筈がない。

 自分が赴かなくても、使用人を傍聴させる可能性は充分にあったのにケイは即答した。


「言い切れるのは、誰かが一族の者達に裁判に赴かないよう指示したからです。公爵家を傾かせたアーロンの指示に、全員が律儀に従うとは思えません。彼等が従うとすればそれは選定者です」


 選定者が一斉通達する手段を持っていることは、ケイ自身が明かしている。


「何故選定者がそんな通達を出したかというと、貴方が言った通り、出席することで余計な火の粉が降りかかるのを防ぐ為です。選定者さえ情報を正確に把握できていれば、公爵家の今後の方針については事足ります」


 弁護人として選定者が直接ことの顛末を見届けるのだ。情報の信頼性はこれ以上なく確かだ。

 彼はアーロンの指示で弁護人になったように説明したが、おそらく自分を使うようアーロンを唆したのだろう。


「それだけですか?」

「モルガーナの横領は、次期当主を見極めるための試金石。ギリギリのラインで、リカバリーできる範囲に収まるように貴方はコントロールしていた。公爵家の異常に気付いた者が調査を始めたら、あの報告書を見せて、その人物を当主に指名するつもりだったんじゃないですか?」


 アナスタシアが気付く可能性が最も高かったが、従兄弟達にも可能性はある。

 本家の娘に一番機会を与えつつ、他の者達にもチャンスを与えていた。当主になりたいのであれば、公爵家の状態を常に気にかけるべきだし、家が傾きつつあるのに何もしない当主など必要ない。


「他にもありますよ。貴方にアナスタシアの印象を聞いた時、端的な評価を即答しましたね」

「ええ」


 ダイアナは印象を問うたのだから、もっと主観的な意見を述べるものだと思ったが、そうではなかった。

 まるで日頃からアナスタシアを内心で審判(ジャッジ)しているかのように、彼は迷う事なく答えた。

 だがそれだけでは、ケイが誰に対してもそのような物言いをするだけという可能性もある。


「試しにモルガーナに対しても同じ聞き方をしましたが、アナスタシアの時とは随分違いましたよ」


 モルガーナについて聞かれた彼は、考えながら憶測混じりの意見を述べた。普通の反応だ。つまりアナスタシアに関してが例外。


「次期当主候補として、貴方は常にアナスタシアを審査していたんですね」

「……」

「カヴァスと同じです。使用人にとって、どんな人物が当主になるかは死活問題。だから使用人の代表として執事(あなた)が次の主を選ぶ」


 降参だと言わんばかりに、ケイが手を挙げた。


「ご指摘の通りです」

「貴方が『自分の知る人物は見当たりませんでしたが、代理人に傍聴させたかもしれませんね』と答えていたら、気付くのが遅れたと思います。あれはヒントだったんですか?」

「買い被りです。単純な失言ですよ」


 口ではそう言うが、余裕のある笑みを浮かべているのでワザとであった可能性は否めない。


「以前のアナスタシア様は論外ですが、今のアナお嬢様でしたら私はいつでもこのチェーンを差し出します」


 ケイは眼鏡のチェーンに軽く触れてみせた。

 彼のチェーンは留め具の部分が外れるようになっており、そこには極小の紋章が彫られている。ヴィヴィアン公爵家の選定者の証だ。

 他家はどうか知らないが、仕舞い込むのではなく、常日頃から身に着けることによって、公爵家は証の紛失を防いでいる。


 ケイにとってアナスタシア・ヴィヴィアンの中身が別人であることは問題ではない。

 その肉体はヴィヴィアン公爵家の血を継ぐ者であり、その魂は当主たるに相応しい強さと賢さを兼ね備えている。


「それ帝国特有の言い回しですか? 知らない慣用句なので、意味を説明してください」

「……」


 ケイは言外に代理どころか、正式な当主として認めると告げたのだが、ダイアナお嬢様は、証についてはその存在すら知らないので全く伝わらなかった。

 イケメン執事はドヤ顔で決め台詞を放ったのに盛大に滑ってしまった。

 そして彼は悪魔的なイケメン執事だが、普通に人間なので赤面した。





 劣化防止のために、薄暗い造りになっている後宮内の宝物庫。

 唯一外と繋がる扉から、燦々と朝日が差し込み、静謐な空間に小鳥の囀りが微かに届く。


「うわあ。やばーい」


 緊張感のない台詞だが、ギャラハッドの顔は引き攣っている。


「もしかして俺が第一発見者? これ正直に報告したら、疑われたりする? どーしよ……」


 昨日は宰相とガレスの処分について話し合って終わった。

 ダイアナとの約束を果たすべく、朝一番に宝物庫に来てみれば目当てのケースは空。


 宝物庫はあまり人の立ち入る場所ではない。年数回の目録作成を除けば、日頃は換気と、手入れ目的に定期的にメイドが訪れるくらいである。

 捜索するなら早いに越したことはないのだが、何の為に朝早くに部屋を訪れたのかと追求されたら堪らない。


「勘弁してくれよ……」


 数時間で返せば問題ないだろう、と自分がしようとしていたことは棚に上げて、ギャラハッドの背中を嫌な汗が伝った。


 国宝の聖杯が姿を消していた。

面白い! 続きが気になる! などお気に召しましたら、ブックマーク又は☆をタップお願いします。


ダイアナお嬢様のセリフが「……」で始まっているのは、相手の発言に引っかかるところがあったからなんだぜ!

暇な時探してみよう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
ばたむ[][]⊂(´・◡・,⊂|||)∘˚(国宝の紛失。第三王子が第一発見者。おまえ何に使おうとしてた?隠したのお前だろフラグ。アナに相談しよ)
[一言] あ、すり替えじゃなかったか······ 元々の伝説からして聖杯に多少意志的なものが存在する可能性がある以上、 気に入らない相手に使われないのと逆に、 気に入った相手に進んで使われる可能性もあ…
[一言] ダイアナちゃん流石です! もうこの癖になるジェットコースター気分が止められなくなりそう… ギャラハット流石ギャラハットですね…聖杯喪失に気付く役目、ご苦労様です…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ