ただし二次元に限る
「アナお嬢さんは、皇位継承戦についてどこまで知ってるんだ?」
「選帝侯と呼ばれる人物が、皇太子を選出することしか知りません」
「いやぁ、それ普通の外国人は知らないと思うんだよなあ。──お嬢さんは結構地位が高い貴族。だから俺達に正体を明かせない。違うか?」
「……当たりです。そういう貴方は普通の市民なのに随分、継承戦について詳しそうですね」
ニヤリと笑いながらメルランが探りを入れてきたので、ダイアナも微笑んで腹の探り合いに応じる。
「それはホラ。俺の場合は仕事ですから、一般人が知らないようなこともそれなりにね」
「ふうん。では私が元に戻る方法についても、何か心当たりあります?」
「俺はオカルトは専門じゃないから、咄嗟には出てこないな……」
「──聖杯」
メルランが言葉を濁すと、ギャラハッドが呟いた。
「ああ、帝国には聖杯伝説がありましたね。今は何処かの教会に保管されてるんですか?」
聖杯伝説はその昔、忠義の騎士が、領主の病を治す為に聖杯を手に入れる話だ。
この物語に出てくる聖杯は、純粋な者の心からの願いしか叶えないと言われている。
騎士が持ち帰った聖杯に領主の息子達は父の快癒を願ったが、全員失敗した。父を癒せなかった息子達は、聖杯が偽物だから失敗したと騎士を責めた。
責任を取らされそうになった騎士が主君の快癒を願ったところ、聖杯は黄金に輝き忽ち領主を癒した。
息子達の本心を知った領主は、血のつながった息子ではなく騎士ギャラハッドを跡取りに指名した。
これが初代皇帝ギャラハッド。後にギャラン帝国と呼ばれる国を興した男の物語だ──。
「──後宮内の宝物庫にあるよ。一応ケースに入ってるけど、そんなに厳重に保管されている訳じゃない。まあ、後宮にあること自体が厳重な警備になってるんだけどね」
「私は初代皇帝の話しか知りませんが、もしかして王家には実際に使われた記録が残ってたりするんですか?」
ダイアナが知るのは御伽噺だけだが、実際は魔道具的な存在なのかもしれない。
この世界に魔法はないが、特別な力を有している可能性は否定できない。
「俺達も聖杯については、御伽噺だと認識してるよ。お願い事すれば叶うって信じてるのなんて、ガキぐらいだよ」
「物は試しです。聖杯持ってくるか、私がそちらに赴いて祈る事はできますか?」
「一応国宝だから、持ち出すには正当な理由と、面倒臭い手続きが必要だ。アナは第四王子の婚約者だけど、王族じゃないから後宮に入るのも無理。……まあ、サイズとしてはそこのカップと大差無いから、こっそりならいけるかも」
「ほー」
ダイアナお嬢様。聖杯は純粋な者じゃないと駄目なんだ。
不法に持ち出そうとしている時点で、アウトなんだよ。
「ちょっと待て! 俺は何も聞いてないから! ちょっとトイレいってくるから、悪巧みするなら俺の居ないところでしてくれ!」
共犯にされては堪らないと、二人の会話に不穏なものを感じたメルランが退室した。
*
「行っちゃいましたね。──ではメルランさんに聞かせられない、皇帝候補達の詳細を聞かせてください」
「そっちが狙いかよ」
「これがラストスパートなら、これから殿下も忙しくなるでしょう。手っ取り早くこの場で説明してください」
「あんまり面白い話じゃないから、正直気が進まない。世間話扱いならお断りだね。聖杯の話で既にサービスしてるんだ。これ以上は有料」
「報酬はちゃんと用意してあります」
「ふーん、なら良いか──」
第一王子アルチュールは、ギャラハッドの五歳上の兄だ。
ギャラハッドが生まれる前年に馬車の事故で、足が不自由になっている。片足に軽い障害が残っている程度なので日常生活には支障がない。走る事はできないが、杖を使えば歩行は問題ない。
事故が起こるまでは、彼が皇太子の最有力候補だった。
頭脳も身体能力も、人格も申し分なかった。
どちらも過去形だ。
エレインが第二子に初代皇帝の名前を付けたこと、それをドゥ皇帝が許したことで、エレイン妃の陣営は第三王子ギャラハッドを擁立する流れになったからだ。
少し足が悪いが、アルチュールが皇帝になるのを諦めるほどのものでは無い。
充分皇帝たり得る彼を、怪我一つで切り捨てることに抵抗を感じる者は多かった。多くの重鎮の息子達が、今も彼の側近として残っている。
結果として一つの陣営に、第一王子派と第三王子派が生まれることになった。
二人の候補を持つエレイン陣営は、どちらか片方が皇帝になる可能性が高いということで、どの王子を推すか明言せずに傘下に加わった家も多い。
よってエレイン妃の陣営は、派閥としては最大規模だ。
しかしアルチュール個人、ギャラハッド個人の支持者は、第二王子ヴァルよりも少ない。
第二王子ヴァルは一言で言えば天才。
スペック勝負なら王族どころか、国内でも抜きん出ているのだが、彼には致命的な欠点がある。
「王子は人の心が分からない」「もうあの人、一人で良くないですか?」と言って、何人もの側近が心折れて去っている。
彼に悪気はない。本人にはモラハラしているつもりも、パワハラするつもりもない。
寧ろ彼なりに色々と気を遣っているのだが、うまく行かない。
彼の側にいるのは、天才王子と一緒にいても心折れない少数精鋭。これが物語なら少しずつ理解者を増やす流れになるのだが、現実は一人加入する頃には、一人限界がきて去る。
実は皇位継承権を持つ者のうち、未だに婚約者が居ないのは筆頭候補の三人だけだ。
幼い頃は誰が皇太子になるか分からなかったので、どの家も様子見で陣営には属するが娘を差し出すことはしなかった。
今も婚約者候補の令嬢達は居るのだが、別の理由で婚約には至っていない。
正直、伴侶としては全員難ありなのだ。
先ずアルチュール。
順風満帆な人生を送っていた彼は、怪我ひとつで母から見放され、メンヘラになった。
弟とは真逆の漆黒の髪と金瞳。乙女ゲーの攻略対象に居そうな、トラウマ持ちの影のあるイケメンだ。
「彼の心を癒してみせる!」と意気込む乙女が定期的に現れては、一ヶ月ともたず心折れる。
取扱注意な地雷が多すぎて、一緒に居るだけで疲弊するのだ。しかも若干マザコン入ってる。
次にギャラハッド。
まあ、お気付きの者も多いと思うが軽薄。
勉学、執務能力となると他二人には劣るが、要領が良く、頭の回転が速いので総合力は互角。
女性に会えば誰彼構わず気軽に声を掛ける。その癖少し席を外すだけで、顔も名前も忘れてる。浅く広く付き合うどころか、そもそも一人一人をちゃんと認識しているか怪しいのが彼だ。
最後にヴァル。
金髪金瞳で、三人の中では一番線が細い。
彼もイケメンなのだが、アクが強すぎて乙女ゲーの攻略対象にはならない。
「王子がどんな性格だろうと、皇妃になれるなら気にしない!」と断言して見合いに挑んだ猛者が、一時間後には「もう二度と会いたくない」「見た目も地位もどうでもいい、結婚するなら話しやすい人に限る」と価値観ひっくり返されて帰ってくる。
彼のヤバさは、ダイアナお嬢様と同じで体験しないとわかり難い。
ヴァルの登場はまだ先のことだが、初手から相当なパンチをかましてくるので、是非とも期待して欲しい。
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