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【電子書籍〜4巻。コミカライズ予定】ダイアナマイト - 転生令嬢は政略結婚に夢を見る -  作者:
ギャラン帝国編

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格の違いってやつを見せてやる!!

 驚く男達に、ダイアナは流れるように自己分析の結果を説明した。

 この後待ち受けるガレスとの対決に彼等を利用するつもりなので、自分がロト達に嵌められたことも話す。


 但しダイアナ・アダマスの名は伏せた。

 今の彼女は単なる男爵令嬢ではなく、ジェンマ国王太子の婚約者だ。


「ええと……つまり、二人の中身が入れ替わった。もしくはアナスタシア嬢は複数の人格を有していて、アナはそのうちの一人ってこと?」

「アナスタシアの記憶どころか、この国の知識が無いので前者の可能性が高いですね」

「ええー。何でそんなに冷静なの?」


 絶句したままの二人と違い、ギャラハッドは柔軟な思考の持ち主で、飲み込みが良かった。

 早くも目の前の存在を、アナスタシアではなく『アナ』として受け容れている。これが若さか……


「どんな状況でも、私のすることは変わりません! 自我があり、動かせる肉体があるのであれば、どんな姿であれ私は私。引き続き自分の生を全うするのみです!」


 ダイアナお嬢様はアレだな。自分の体が鎧になっても「僕は兄さんが錬成した存在かもしれない」とか不安にならないタイプだ。記憶に齟齬があろうと「生きている人間の記憶だって完璧じゃ無いんだから、細かいことは気にしない!」とか言いそう。

 但し鎧姿だと「結婚相手が見つからないかもしれない」と嘆くかもしれないが。


「……本物のアナスタシア嬢の事は気にならないの? 後者の場合は、彼女の体を奪ってることになるだろ?」


「表層に出ているのが私の自我なら、それは生存競争において私が勝利したまでのことです! 自分が消えるその瞬間までは、これは私の体で、私の人生です!!」


 なんて真っ直ぐな目をしてやがる。

 結構酷いこと言ってるのに、清々しく感じさせる謎のパワー。

 

「──ともあれ元の体に戻れるなら、それに越したことはありません」

「そっ、そうだよな」

「元の体に戻れば、卒業と同時に結婚できるんです!」

「え?」


 ギャラハッドの目が点になる。


「アナスタシアにも婚約者が居ますが、彼との結婚は論外です!」

「あ、ああ。そっか……!」


 一瞬何を言われたか理解できなかった──実を言うとまだ違和感があるのだが、ギャラハッドは続く言葉に同意した。

 アナスタシアとロトの婚約はまだ解消されていない。


「……お嬢さんが自分の正体を打ち明けたのは、俺達に元の体に戻る手伝いをさせたいからか?」


 黙って話を聞いていたメルランが口を開いた。


「そうです。但し私はギャンブルは好みません。元に戻る方法を探すと同時に、この体で残りの人生を生きる事も考えて動くのでその協力もです」


 アナスタシアの置かれた苦境を打開する。元の体に戻る方法を見つける。

 両方やらなくっちゃあならないってのが、ダイアナお嬢様のつらい……いや、特に辛いとか感じてそうにないな。


「今聴いた限りだと、お嬢さんは学生で帝国民じゃないんだよな? 外国に居る『アナ』お嬢さんの本当の体が、今どうなっているか探って欲しいのか? 確かに俺は情報収集が仕事だし、そこの王子様には金があるだろうけど、そこまでして協力するメリットはあるのか?」

「いいえ、そこまでは望んでいません」


 その方法だと正体を明かさなくてはならない。

 彼等をどこまで信用して良いのか分からない状況で、そんな危険な真似はできない。


「私はこの状況を作り出した原因は、アナスタシア・ヴィヴィアンにあると考えています。今の状況はあまりにも彼女にとって都合が良い」


 アナスタシアとして目覚めてから、ダイアナが会う人々に彼女の印象を聞いて回っていたのはコレが理由だ。


「収集した情報から彼女の性格をプロファイリングしましたが、こうなるよう彼女が意図的に行動したとは考え難いです。今の状況から逃げ出したくて、深く考えずに『何か』をして、偶発的にこうなった可能性が高いと踏んでいます」

「あり得ますね……」


 この中ではアナスタシアの性格を最もよく知るケイが同意した。


「手段を探ることで解決方法が見つかるならそれもありですが、他に解決策があるなら原因追求の必要はありません」

「要は問題解決できるなら、方法は何でも良いってことね」


 ギャラハッドが伸びをしながら、ダイアナの意見をまとめた。


「私の体にアナスタシアが入っていると仮定して、彼女へ安易に接触するのは危険です」


「なんで? 確かにまだ起訴は撤回されてないから、渡航は無理だけど手紙は出せる。あれこれ考えるよりも、入れ替わってるのか直接確認して、情報交換すれば手っ取り早いじゃないか」


「……自分で言うのもアレですが、私はかなり恵まれた生活を送っています。アナスタシアが元に戻りたくないと思っていた場合、抵抗されます」

「まあ俺が調べた限り、ヴィヴィアン公爵令嬢の境遇は、恵まれてるとは言い難いわな」


 メルランが頷いた。取材するにあたり、アナスタシアの基本情報は頭に入っているのだろう。


「アナスタシア様は小心者ですが、それゆえに追い詰められると思わぬ行動に出る可能性がありますね」

「はい。どんな抵抗をされても封じられるように準備した上で、奇襲を仕掛ける必要があります」


 馬鹿や臆病者は、下手に突くと何をしでかすか分からない。

 完全に杞憂なのだが、そんな事はこの場の人間には知りようのないことだ。


 つまり今回の件は、ダイアナお嬢様の慎重さが仇となり、ジェンマ国での入れ替わり発覚が遅れたのである。


「そんな呑気なこと言ってて良いのか? 婚約者が中身が入れ替わったことに気付かず、えーっと……その……深い仲になっちまったらとか、心配じゃ無いのか?」


 自分で言っておいて気まずくなったのか、メルランは頭を掻きながら目を逸らした。

 顔に「セクハラおじさんとか言われたら死ねる」と書いてある。


「そうじゃなくても卒業したら結婚なんだろ? どこの国の出身か知らないけど、この辺は六月卒業だ。今年卒業なら半年切ってるぜ。体は自分とは言え、婚約者が自分じゃない相手と結婚しちゃったらどうすんの?」


 ダイアナがどんな反応をするか楽しんでいるのか、ギャラハッドがニヤニヤしながら問いかける。


「もし体が戻る前に、二人が相思相愛になったり、結婚した場合は──この体で生きていくことにするので、新しい結婚相手を探さないといけませんね……!」


 クッと、悔しそうに告げるダイアナお嬢様。

 ゴール目前だったのに、リタイアせざるを得なくなったマラソンランナーのようだ。


 しかし苦悶の表情を浮かべたのは一瞬のことで、素早く思考を切り替えた。


「元の体に戻って婚約者と結婚するのが最善ですが、仕方ありません。惜しいですが、過去の相手に拘っていては婚期を逃します! 幸いこの体は、男性ウケが良さそうです! 公爵家の娘ですし、磨けばサクッと新しい婚約者ができそうな気がします!」


 奏江、ダイアナ、アナスタシアの体を比べると、一番スタイルが良いのはアナスタシアだ。


(顔も悪くないし、由緒正しい公爵家の後継だ。今日の裁判で評判が改善したはずだし、婚約解消後は求婚者の一人や二人現れるに違いない)


 目を輝かせるダイアナとは対照的に、男性陣の反応は微妙だ。特に間近で被告人席のダイアナを見ていたケイはしょっぱい顔をしている。


 あの時の彼女は獲物を品定めする猛獣も同然だった。

 傍聴席からダイアナを見た人々は、檻の中に入れられた飢えた獣を見るような気持ちだっただろう。

 あの場には、公爵家と釣り合いそうな家格の者達が揃っていた。一歩間違えれば、食い殺されかねない相手に求婚する猛者が居るとは思えない。


 弱そうなダイアナボディであればイキる小型犬程度の迫力だが、身長とメリハリのあるアナスタシアボディなので人を噛み殺しかねない猛犬になってしまったのだ。


「随分あっさりしてますね……」

「……ちょっとお嬢さんの考えについていけないんだけど、コレってカルチャーショック? それともジェネレーションギャップ?」


 思っていた反応と違う。大人組が首を傾げていると、ギャラハッドがツッコんだ。


「いやいやいや! 普通におかしいから! アナは元の婚約者と結婚したいんだよな!?」

「はい! これ以上なく良いお相手だと思っています!!」


 だってよ。良かったなサフィルス殿下。


「好きな男が他の女と結婚しても良いの? 両想いなんだよな? そんなアッサリ切り替えられるの?」

「え? お互いに恋愛感情はありませんよ。政略結婚です」


 アウチ。殿下の気遣いが悪い方向に働いたようだ。


「あー……オジサン、ちょっと分かんないわ」

「ごめん。俺もついていけない」

「使用人の私では、貴族の御令嬢の価値観を理解するのは難しいようです」


 まあ、そうだろうな。ダイアナお嬢様を理解するには十万文字早い。

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― 新着の感想 ―
[一言] おかしいな、チャラ男という個性が一話の中でふっとんでツッコミ役という個性を付与されたぞ?
[良い点] 割り切るの早すぎるD導師が素敵です。 ジェンマ側がダイアナ様とアナスタシア嬢の入れ替わりに気づく可能性についてダイアナ様が気づいてないのって、もしかして、もしかしたら、ダイアナ様、この期に…
[一言] ダイアナお嬢様、やっぱりラブコメヒロインじゃなくて運営だよね。あるいはプロジェクト名「結婚」のプロジェクトマネージャー。ロードマップ作成している姿が目に浮かぶ。
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