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【電子書籍〜4巻。コミカライズ予定】ダイアナマイト - 転生令嬢は政略結婚に夢を見る -  作者:
ギャラン帝国編

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逆転裁判

 ロトが逮捕劇を仕組んだのは事実。

 王族ロトとアーロンが共謀して、平民エクターにヴィヴィアン公爵家の婿の座を与えようとしたのも事実。

 ダイアナは『ちょっと』センセーショナルな言い回しにして、巨悪による陰謀が進行していると周囲に勘違いさせた。


「公爵家の当主の座を勝ち取った母に対し、当主争いに敗れて婿に出された父は劣等感を抱いていました。母への愛憎は、彼女亡き後ヴィヴィアン公爵家に向けられました。私の後見人となった父は、凡夫のフリをして時間をかけて公爵家の力を削ぎました……」


 口から出まかせの動機だが、実は的を射ている。アーロンが外に子供を作ったのは、優秀な妻への反発心だ。

 後半は勿論嘘である。アーロンは真面目に当主の務めを果たそうとしたが、普通に至らなかっただけだ。


「父はとある王族と結託し、多額の金銭と引き換えに弱った公爵家を売り渡すことを企みました」


 ロトを仲人とした単なる政略結婚なのだが、物は言いようである。


「私は偶然、父の目論見を知ってしまいました。しかし子供が告発したところで、大人がまともに取り扱ってくれるとは思えません。しかも下手に漏らせば父達に勘付かれてしまいます」


 未成年は立派な子供だ。さも幼い頃に親達の陰謀を知ってしまったように聞こえるかもしれないが、気のせいだ。もし勘違いしたなら、それは自己責任というものだ。


(聞いていた話と違うぞ!)


 想定外の事態に検察官は、傍聴席にいるロトを盗み見た。

 第四王子は、隣に座る少女の肩に手を置いた状態で目を見開いている。


「父に目をつけられぬよう、身を潜めて過ごす日々でしたが、一人で戦うことに限界を感じた私は、婚約者と愛する妹に全てを打ち明けました」


 過去の冴えないアナスタシアは、身内に潜む敵の目を欺く為の演技だったとアピールする。


「最初は三人で証拠を集めてから、訴えるつもりでした。しかし素人であり、子供である私達は成果を得る前に、身の危険を感じるようになりました」

「……なんて無茶な真似を」


 裁判官の一人が、思わずといった風に呟く。


「私達は計画を変更し、誰にも揉み消せない方法で告発して、捜査は警吏に任せることにしました」


 その手段が捏造した犯罪による裁判ということに、法曹家達は渋い顔をした。


「強引で稚拙な行為だったと反省しております。皆様も疑問に思われたのではないですか? 現行犯とはいえ、翌日に裁判なんておかしい──と」


 被告人席から裁判官だけではなく、聴衆に語りかけるダイアナ。


「私が不自由な生活をするのを少しでも短くする為に、殿下が手を回した結果です」


 帝国民は馬鹿ではない。

 事件の概要を知り、何か裏があるのだろうと考えた者は少なくない。

 中には高貴な人達のスキャンダルを娯楽として観にきた者も居るだろうが、傍聴席に座っている大半の者達は少しでも情報を仕入れて、今後の身の振り方を考えるつもりだった。


 しかしこれは意外過ぎる展開だ。ダイアナが発言する度に、傍聴席に小波のように動揺が広がる。


「殿下の浮気に関してもそうです。王子ともあろう者が、婚約者の妹に手を出す。貞淑が求められる貴族の令嬢が、姉の婚約者と関係を持つ。更にそれを隠すことなくひけらかす……自らの評判を落とすだけの愚行です。まともな思考回路の持ち主であれば、絶対に行いません」


 続く発言に、ロトとネヴィアの顔が強張った。

 今すぐ彼女の口を塞ぎたいが、傍聴人である自分達に発言権は無い。


 ダイアナが述べたように今、彼女は誰にも揉み消すことができない状況で話している。

 裁判官以外に彼女を黙らせることができる者は居らず、その裁判官は被告人の主張を見極めようと傾聴の姿勢をとっている。


「殿下と妹は、スキャンダルを捏造することで世間の関心を集めようとしたのです。私は二人が醜聞まみれになるのに耐えられず、何度も思い止まるよう諌めましたが力不足でした……」


 遺憾の意を示すように、目を伏せるダイアナ。その様子は、自分の至らなさを悔いている思慮深い娘だ。

 嫉妬に狂った女のレッテルが貼られていたアナスタシア。しかし実際は、計画の方向性に反対して揉めていた事にした。

 自分のイメージアップを図りつつ、さり気なくロトとネヴィアを正義感を暴走させた愚か者に仕立て上げる。


「しかしその結果、本日はこんなにも多くの方が傍聴に訪れてくださいました。これならアーロン・ヴィヴィアンとその協力者達と言えど、今日のことを無かったことにはできないでしょう」


 彼女の意味深な言葉に、この場に居合わせた者達は、この陰謀には多くの権力者が絡んでいると誤解した。

 ダイアナお嬢様は、嘘は言っていない。その協力者達は言わずもがなロトシックスだ。


「ネヴィア。……貴女は父の不義の子であること、そして実の父親の罪に悩んでいたわね。心の清らかな貴女は、ずっと公爵家の娘として生きるのが苦しかったのね」


 あっさり妹の出生の秘密をバラす。

 呆然とするネヴィアを、ダイアナは慈愛の眼差しで見つめた。


「積極的にふしだらな女の汚名を背負うだけではなく、お芝居の手筈だったのに本当に足を滑らせた貴女を見て、私は反省したわ。これ以上貴女が自傷行為に走るのを見ていられない……もう貴族社会で生きろなんて言わないわ。修道院で心穏やかに過ごして頂戴」


 先ずは一人目。ダイアナお嬢様は、手早くネヴィアを葬った。

 ダイアナにとって彼女は最優先の排除対象だ。


(裁判の後、敵と一つ屋根の下で生活するなんて冗談じゃない)


 これで修道院行きを拒否したら、ネヴィアは不義の子でありながら公爵令嬢の地位にしがみ付く卑しい娘になる。

 彼女が自分の評判を守るためには、ダイアナが与えた清廉潔白な乙女の看板を背負って俗世から退場するしかない。

 度々愚鈍な姉を嵌めては、彼女の評判を落としていたネヴィアだが、登場した瞬間終わったわ。ダイアナお嬢様が強過ぎて(社会的に)お亡くなり。


(帰宅後は最優先で屋敷内を掌握しないと……)


 父のアーロンも、同様の理由で排除しなければならない。

 ダイアナが公の場で告発した以上、この後彼は取り調べを受けることになる。

 同じ屋敷で生活するのは身の危険があるとして、事情聴取後に戻ってきたアーロンを本邸に入れるつもりはない。別館か、適当な別荘に放り込んで軟禁予定だ。


 ロト主導の告発にした為、これから警吏は徹底した捜査を行うだろう。

 だが調査の結果、アーロンの共犯として浮かび上がるのは、告発者であるはずのロト。

 このわかりやすい矛盾は、真の黒幕がロトに罪を着せたように見える筈だ。

 存在しない黒幕探しに警吏が躍起になればなる程、ダイアナには猶予が与えられる。稼いだ時間で彼等を仕留めれば良い。


 逆に帝国警吏が早々にロトが主犯だと結論付けても構わない。

 仲間だと思っていたら、実は黒幕だったというのはミステリーでもお馴染みだ。アナスタシアに協力するフリをして、彼女を本当に犯罪者に仕立て上げて口封じしようとしたと、本来の流れに近い形で片付けることができる。


「──い、異議あり! 被告人は本件と関係の無い発言をしています! 被告人は裁判を攪乱させようとしています。妨害行為を止めさせ、速やかに本件の審議に入るべきです!」

「裁判長。被告人が述べているのは、本件の根幹に関わる内容です」

「異議を却下します。但し被告人は、傍聴人に話しかけるのを控えてください」


 ケイのアシストにより、ダイアナ劇場は続行となった。

 これは彼女を裁く場ではない。

 被告人席という、あらゆる権力から守られた場所で、彼女が敵をぶちのめす場だ。


「ごめんなさい。邪魔が入らない内に、私に告発の場を与えるため、殿下は方々に手を回したと仰っていましたが、貴方は事情を知らない──ただ巻き込まれただけの職務に忠実な方だったのね」


 裁判長の言葉に従い、ダイアナは傍聴席に話しかけるのを止めた。

 代わりに同情するフリをして、検察官をぶん殴った。


「碌な取り調べもなく裁判になったので、てっきり検察の方々も殿下に協力されているものと思っておりましたの……」


 ダイアナに取り調べ中の記憶はないが、ちゃんとした捜査が行われていれば、そもそも彼女はこの場にいない。

 どこまでロトが根回ししたかは知らないが、このスピード裁判だ。少なからず警吏側に協力者がいるはずだ。

 目の前の検察官は十中八九、ロトの協力者だ。彼がまともな検察官であれば、こんな杜撰な捜査結果で起訴する訳が無い。


「……」


 検察官は沈黙を選んだ。

 王子と無関係だと主張すれば、公訴事実に不備があるのに気付かず起訴した無能と公言することに。逆に王子との関係を認めれば、権力者に阿り職権濫用をしたことを認めることになる。


 ダイアナの発言と検察官の態度に、裁判官達の目付きが鋭くなった。

 確かに今回はスピード裁判だが、正当な手続きを踏んでいた為に受理されたのだ。

 どんな事情があろうと、法務を司る者が職権濫用するなど、絶対に許してはいけない。


 恥ずべき事だが、権力者が捜査機関に圧力をかけることは多々ある。

 その結果、罪がもみ消されたり、逆に捏造されてきた事を否定することはできない。自分達の目の届かない場所で行われたことはどうしようもないが、こうも堂々と行われたのであれば、それを見逃すつもりはない。

 この場で宣言はしないが、裁判官による職権発動と内部監査が確定した。


 黙秘を貫いた検察官だが、彼のキャリアはここまでのようだ。間違った子を被告にしてしまった、と後悔してももう遅いんだミュ!

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― 新着の感想 ―
自然に差し込まれるネットミームにお腹いたい 裁判の展開がカードゲームで1ターンキルされる流れとすごい重なるねー
あれ?双龍せんせいのとこの魔法仕様すかうたー?⊂(・ω・*⊂)ミュ?
[一言] ずるいぞ、メガンテしてるのに自分だけ無傷なんて!w
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