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見知らぬ天井

サブタイトルのみ修正2023/8/19

 まだ昼過ぎだというのに薄暗い部屋。空気の循環がない為か、何処となく息苦しく、湿っぽい空間だ。

 ベッドの上で一人の少女が身じろいだ。


「……?」


 目を覚ました少女は周囲を見渡すと首を傾げた。ほつれた髪がパサリと肩に落ちる。

 訝しむようにも見える物憂げな表情は、目元の黒子と相まって彼女を大人っぽく見せているが、恐らくまだ十代後半。

 何処ぞの国には、何を着ても夜の蝶っぽく見える十代女子が居たが、ここにいる少女の場合は気だるげな雰囲気も相俟って未亡人に見える。人妻感パネェ。

 正直どっちも褒め言葉じゃないな。悪い。


 少女は視界に入った髪を一房手に取ると、目を見開いた。

 燃え盛る炎を糸にしたような、主張の強い赤髪だ。癖毛だからか、傷んでいるのか、少しパサついているように見える。

 しかし彼女が驚いたのは、年頃の乙女としてキューティクルボロボロの毛先にショックを受けたからではない。

 ブチッと数本、髪を抜くとその毛根をしげしげと観察した。

 思い切りが良いなオイ。絶対痛いだろうに、躊躇なくいったな。


 少女の謎の行動はこれだけではなかった。

 次に襟を引っ張ると、自分の胸を観察した。見るだけじゃなく服に手を突っ込むと、恥じらい無く触って確かめる。何してんねんお前。


「髪は染める事ができるけど、豊胸手術は無理だ。あー、あー。……うん、声も違う。──これ私の体じゃないわ」


 なんやて!?


 とんでもない発言をした少女だが、パニックを起こすことなく速やかに異常事態を受け入れた。

 肉体の確認が終わると、今度は部屋の観察に移る。


 それなりに上等な部屋だが、全体的に質素。壁や扉が重厚な作りをしているので、立派な建物の一室なのだろう。

 静まり返った部屋は、外の喧騒はおろか建物内からの物音が全く聞こえない。単に人が居ないのか、防音が施されているのかはわからない。


 扉は一つ。試しに開けようとしたが、鍵がかかっていた。

 ノックをしたが、扉の向こうで誰かが反応する気配は無し。見張りのいない状態で閉じ込められているらしい。

 窓も一つあるが、かなり高い位置に造られている上に鉄格子が嵌められている。


「監禁部屋……? それにしては年季が入ってる。もしかして此処は貴族用の牢屋?」


 自分の推測に納得したのか、少女はふむと頷いた。


 部屋にあるのは最低限の家具のみ。ベッド、一人掛けのソファ、ミニテーブル、空っぽのチェスト。

 鏡はないので、今の自分の姿を確認することは叶わない。鏡は割れば凶器になるので、設置していないのだろう。


 チェストの近くに不自然に垂れ下がるカーテンがあったので開けたらトイレだった。カーテンは扉がわりのようだ。


「水洗で良かった」


 その感想どうなんだ?

 いや、気持ちはわかるけど、さっきからチョイチョイ反応がおかしいよなこの娘。冷静すぎるというか、どこかズレてるんだよな。


「……これ以上は一人で考えても、答えは出ない。よし、人を呼ぼう──」


──ガンッ! ガンッ!


 観察を終了した少女は、徐にミニテーブルを持ち上げると壁に叩きつけ始めた。ええー、怖い怖いって!!

 気が狂ったような行動だが、その表情は至って冷静だ。正直、何考えているのかわからなくてマジで怖い。異常事態でおかしくなったと言われた方が安心できるレベル。


「なんの音だ!? 五月蝿いぞ!!」

「!? 何してるんだお前!? 気が触れたのか!?」


 ノックも無しに、二人組の兵士が入ってきた。一人は料理を載せた盆を持っている。

 音を聞きつけて飛び込んだというよりは、タイミングよく夕食を持ってきた所で少女の奇行と鉢合わせたようだ。


「お二人に質問があります!」


 兵士の問いかけを無視して、堂々と言い放つ少女。


「今はいつで、此処は何処で、私は誰か言いなさい!!」


 我々はこの少女を知っている!

 いや! 正確には、こんな行動を取る人物に心当たりがある!!


 ……もしかしてこの娘の中身、ダイアナお嬢様?

 ハハハ。いや、まさかね。そんなファンタジーな展開──って、前世の記憶が蘇っている時点で、既に充分ファンタジーだったわ。

 え? マジで? どうなってるの??





 一方その頃。


「──アナ? ダイアナッ!?」


 肩を揺すられた少女が顔を上げると、心配そうな顔をした年配の女性と目があった。

 自分に呼びかけたのは彼女らしい。その身に纏う雰囲気と、品のある装い。一目で高貴な存在と分かる女性だ。


「急に黙ってしまって、どうしたの? もしかして、もっと良いペナルティを思いついたのかしら?」

「……ペ、ナルティ?」

「そうよ。婚活サロンの規約違反者に対する罰則……『ルールを破った者が存命の間は、その二親等以内の者を婚活サロン利用不可とする』と、ついさっき貴女が提案したでしょう?」

「……え?」

「『ルール違反して自力で結婚相手ゲットできるなら、近しい親族はその人に婚活協力してもらえば良いんです。サロンの恩恵は必要ないでしょう』って、言っていたじゃない」


 うわぁ。相変わらず発想がえげつないな。

 この罰則が『違反者が生きている間』ってのが、ダイアナお嬢様らしい。つまり違反者は実の兄弟姉妹、子供、孫に「早く死んでくれないかな」って思われるんだろ。身内にそんなこと望まれるとか、針の筵なんてもんじゃないぞ。


「……私、……私が?」

「あらやだ。本当に大丈夫? 顔色が悪いし、体調が優れなかったのね。今日はもういいから、客室で休みなさい」

「陛下。馬車を手配いたしましょうか」

「今、馬車で揺られたら悪化する可能性があるわ。城で休ませるから医師を呼んで頂戴。ああ、男爵邸へ連絡するのも忘れずにね」


 テキパキと指示を出す女性──陛下と呼ばれるからには王族で、此処は王城なのだろう。

 目の前で交わされる会話を、ぼーっと他人事のように眺める少女。

 その瞳は精彩を欠いており、いつもの溌剌とした感じはない。

 呆然とした状態から回復する事なく、少女は流されるままに医師の診察を受け、用意された部屋で寝かされた。


「ダイアナって誰? 私は殺人未遂で牢に入れられた筈……。一体何がどうなっているの?」


 ダニィ!!??

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 牢の中の女性の中の人がダイアナ ダイアナの中の人が牢の中の人 であってますか?ちょっとよくわからなくて。
[良い点] ギャラン帝国にダイアナお嬢様がどう関わるのか楽しみでした。大ピンチでの始まりで展開が読めずドキドキしております。 [気になる点] 男性キャラで一番好きなドゥ皇帝の登場がいつになるのか気にな…
[良い点] 初っ端から頭おかしい勢いて笑うw
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