IQが20違うと会話が成立しないらしい
〜前回のあらすじ〜
あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!
国の上層部相手に取引を持ち掛けたダイアナお嬢様は、報酬として国王に男を紹介するよう頼んだんだ!
何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何が起きたのかわからなかった。
*
「……」
「スターリング家との縁談よりも優先されるような条件だと有難いですが、これは必須ではありません。婚約解消は自力でも可能ですので!」
「……」
「大事なのは私と友好的な関係を築く意志があること、信頼できる相手であることです! 妻以外の異性と、適切な線引きができる方でお願いします!」
「……」
「政略結婚大歓迎です! 卒業後は即結婚希望ですが、相手の年齢によっては数年我慢します!」
ダイアナお嬢様、ブレーキ! ブレーキ踏んで!!
王様が何も言わないのは、了承したからじゃなくて、話についていけないからなんだ!
ブレないのはダイアナお嬢様の美点だけど、王様に直談判して「結婚相手紹介してくれ」とか正気の沙汰じゃないからな!
1、2、3……
モブおじ達の表情は、宇宙猫とフレーメン反応が同票だった。ルベルは、目元しかわからないので無効票。
国王夫妻とサフィルスはポーカーフェイスだが、彼等が衝撃を受けなかったわけではない。
オニクス三世はダイアナ砲の直撃で思考回路がショートしてフリーズしているだけだ。
王妃はよく見るとスゥゥ〜と妙な呼吸をしている。淑女の矜持でなんとか表情キープしているようだ。
サフィルスは見えないよう己をつねって、笑いを堪えている。
「……うむ。検討しよう」
「この場で確約してください!」
「ワカッタ……」
わからせちゃった。
ウチのお嬢様が強すぎる件。
ああ、もう。王様カタコトになっちゃったし、完全に未知の生命体を見る目してるじゃん。
*
今後の方針が決定したため、会議室に集合した面子は解散した。決定したというか、決めさせられたというか……うん。
王族のプライベートルームには今、国王夫妻しかいない。
サフィルスは、現場で指揮するために出立済みだ。
帰還した影から、劇場内で起きたことの詳細を報告されたオニクス三世は、今度こそ本当に頭を抱えた。
アリアネルは怒りでブルブル震えている。
「言うに事欠いてあの女……!」
「アリー姉さん落ち着いて!」
どこから出ているのかと思うくらい低い声を出す王妃。国王はつい昔の呼び名で、彼女を呼んでしまった。
「人生狂わされたのは私達の方よッ!!!」
あの女──マイカ・オブシディアンは、オブシディアン公爵家の汚点。
関わるだけで損をする厄災女だ。
彼女をわかりやすく表現するなら『自己愛の化身』『頭お花畑地雷女』。
*
幼少期の少女は誰もがお姫様に憧れ、自分が物語のヒロインだと夢想する。
そして成長するにつれ自分が特別でないことを知り、夢と現実の折り合いをつけるものだ。
しかしジェンマ国屈指の名家に生まれ、早々に王太子妃になることが決定したマイカはそうならなかった。
生まれた時から、自分は特別。
世界は自分が中心。
どんな時も自分が優先されるのが当たり前。
彼女にとってオニクス三世は、王妃の冠をもたらすだけの存在。
優等生タイプだった彼は、幼い頃からマイカにとっては面白味のない男だった。
同世代の少年少女はこぞってマイカをチヤホヤするのに、婚約者である彼は、彼女を溺愛しないどころか、親のようにうるさく注意してくる。
彼女が取り巻きに囲まれて良い気分になっていると「節度を持つように」と水を差す。
男性達に崇拝されていると「慎みを持つように」と咎めてくる。
「予算は適切に使われるべき」と贈り物は無難な物を、最低限のみ。
ちゃんと彼自身が選んで、決して婚約者を蔑ろにしないよう気を遣っていたのだが、男は自分と会う度にプレゼントするのが当然と思っているマイカにとっては物足りなかった。
異性としての婚約者に不満を抱いていたマイカの前に現れたのが、ジェンマ国に来訪したジャスパーの父だ。
彼は典型的なコランダムの男性だった。
マイカが女神であるかのように大袈裟に讃え、裕福な彼は豪華な贈り物を惜しまなかった。
次期王妃を口説ける機会なんて滅多に無い。
最初からマイカがノリノリだったので、彼としてはお互いに割り切っている男女の戯れだと認識していた。
マイカに捧げた愛の言葉は全てリップサービス。引き裂かれる悲恋を嘆く言葉も紡いだが、当然本気じゃない。
母国へ帰国後は、コランダム人の大人しく貞淑な女性を妻に迎えるつもりだった。
二人が出会って間も無く、本格的な王太子妃教育が開始されることになり、そのスケジュールが発表された。
マイカにとってその内容は非常に辛く厳しいもので、彼女の能力では教育期間中はお茶会もパーティーも全てお預けになる。
誰にもチヤホヤされずに勉強漬けになり、その結果結婚する相手はお小言ばかりの冴えない男。
今まで散々恩恵を得ていながら、マイカは課せられた義務を放棄した。
裕福なコランダム人の彼に嫁げば、勉強しなくて済む。
彼が最後までシないのは、彼女を大切にしているから。
コランダムで女性の地位は低いと言うが、マイカは例外。
彼はマイカを溺愛しているから、異国の地であろうと心配ない。何があっても守ってくれるに違いない。
母国を離れることになるが、耳に痛い事ばかり言ってくる家族とも離れられる。
自分は特別だと信じて疑わない彼女は、ものの見事なまでに全てを都合よく捉えて暴走した。
遊びのつもりでマイカに手を出したジャスパーの父は、本気にした彼女が大騒ぎしたことで責任を取らされることになった。
ジェンマ王室としては、年回りが近かったので幼少期にマイカをオニクス三世と婚約させたが、頭も尻も軽い王妃なんて要らない。
婚約解消は歓迎する所だが、王太子が婚約者に捨てられたと世間に思われるのは避けたい。
オブシディアン家としても、娘が義務を放棄して逃げたと知られるのはマズい。
コランダムとしても、自国の貴族が王太子妃になる筈だった女性と火遊びして、大火事になったのは外聞が悪い。
醜聞を覆い隠す為、両国は偽りの美談で、体裁を整えることにした。
オニクス三世とアリアネルも恋に落ちたことにして、若者達の気持ちを大人達が尊重したという態で、婚約の組み直しをしたのだ。
ジェンマ国で恋愛婚の象徴とされている国王夫妻は、実のところゴリッゴリの政略結婚なのである。
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