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悪ノ貴族を召喚!

「……シル、バー……?」

「……誰だ?」

「スターリング……聞き覚えがあるような、ないような……」


 突然出てきた見知らぬ名前に、男達は動きを止めた。

 ザワザワと困惑の声が上がる。


 自分の言葉が彼等に浸透したのを確認して、ダイアナは次の行動に移った。


「シルバー・スターリングは私の婚約者よッ!」


 動揺する男達に、ダイアナは悲壮な表情で言葉を紡いだ。

 この場の全員が聞き取れるように、腹式呼吸フル稼働のクソデカボイスで、婚約者の裏切りを嘆く。


「あの男……シルバー・スターリングはアダマス家のお金目当てで、政略結婚を持ちかけてきて……散々お金を搾り取った後は、用無しになった私を傷物にして捨てるつもりなのッ!」


 間抜けなイケメン、シルバー・スターリングからは想像もつかない鬼畜の所業。

 いささか説明口調になるが、そこは勢いで誤魔化す。


 唐突に始まったダイアナ劇場に、男達だけじゃなくジャスパーやアレキサンダーも固まっている。

 なまじ本物のシルバーを知るが故に、ダイアナの放つ衝撃的な言葉に理解が追いつかないのだろう。


「アイツはハナから、元平民なんかと結婚する気なんてなかったのよッ! 婚約解消どころか、私を嫁げない体にして、アダマス家有責の婚約破棄にして最後に慰謝料せしめる気なんだわッ!!」


 ガンッ


「クソッ!」


 ダイアナの言葉を聞いて、一人の男が備え付けの観客席を蹴飛ばした。

 朽ちかけていたのだろう。木製の背もたれが、大きな音を立てて床に落ちた。


「……俺の妹も、貴族のボンボンに弄ばれて捨てられたんだ。……アイツら俺達のこと、なんだと思ってやがるんだ……!」


 早くもダイアナの術中に落ちた男が、涙を流しながら吠えた。

 無精髭の所為で三十路前後に見えるが、声からするともっと若いようだ。もしかしたら彼の妹は、丁度ダイアナと同じ年頃なのかもしれない。

 彼は妹とダイアナを重ねているのだろうが、ダイアナお嬢様の口から出ているのは嘘八百──否、微妙に事実が含まれているので嘘八割の創作話(フィクション)なので、なんか……ごめんな。


「あっ! スターリングってアレだ。最近、アダマスのデカイ工場ができた場所だ!」

「どっかで聞いたと思ったらそれか! ウチの兄貴がそこで働いてたわ」


 結婚を餌に領地内に工場を建てさせ、散々利用した後に悪辣な手段で婚約者を捨てる。

 男達の脳内に、復讐物の序章のような物語(ストーリー)が描かれた。


「とんでもねぇ!!」

「シルバー・スターリング! なんて奴だっ!!」

「これだから貴族は! 外道めっ!」


 元より気が昂っていた事もあり、男達は簡単に憤慨した。

 この場に居ないシルバーを罵る言葉が、あちこちで上がる。


 実物とはかけ離れた、悪虐非道な貴族の象徴、シルバー・スターリングの出来上がりである。


「──お、おいっ! お前ら騙されるな! その女が言ってる事は出鱈目だっ! それに、そいつもこの国の貴族だぞっ!」


 場の空気が想定外の方向に流れるのを感じて、ジャスパーが叫んだがもう遅い。


「そうね、私は数年前に貴族になったわ。……でも人生の半分以上は、貴方達と同じ平民として生きてきたのよっ!」


 ダイアナは、自分が生まれついての貴族でないことを強調した。

 言葉遣いも男達に合わせたものに変え、親近感を抱かせる。


「死んだお母さんとの約束で、お父さんは私を良い家に嫁がせようと、必死に働いて爵位を手に入れたけど……。私は貴族になりたかったわけじゃないっ、平民のままでも充分幸せだった……でも、お父さんの努力を否定するようなこと言えなかった! こんな事になるなら、我慢しなきゃよかった!!」


 今度は事実無根、純度100%の真っ赤な嘘である。


「元平民な私達は、何年経っても貴族の世界に受け入れられなくて……やっと結婚相手が見つかって、……こんな私でも、お父さんを安心させてあげられると思ったのに……!」


 涙なんて出ないので、ダイアナは手で口元を隠してそれっぽく見せた。周囲を観察して素早く対応しなければいけないので、目元を手で覆うような真似はしない。


 ジャスパーの言葉は、むしろダイアナのアシストとなってしまった。


「ちくしょうッ! 泣かせるじゃねぇか……!」

「俺……クレイ・アダマスのこと、銭ゲバのゲス野郎だと思ってたっ……!」

「俺も奴の事は、金儲けのことしか頭にない冷血漢だと思ってたぜ。……全部、娘の為とか、アイツ不器用すぎんだろ……!」


 クレイ・アダマス。本人のあずかり知らないところで好感度が上がる。


 実際のクレイは彼等のイメージ通りの人物なのだが、シルバーとは逆の意味で、実物とはかけ離れた人物像が出来上がった。

 嘘泣きのダイアナと違い、ガチで涙を流している男がちらほら現れた。


 最早彼等の頭に、当初の目的は残っていない。

 男達の同情を集め、身の安全を確保したダイアナは、勢いそのままに保身から攻撃へ移行した。


「……勿論こんな事、シルバー・スターリングひとりじゃ不可能だわ。……あいつには共犯者がいる。これは連中が共謀して仕組んだことよ」


 ダイアナは顔を上げると、呆然とする男二人を指差して叫んだ。



「嵌められたのは私だけじゃない、貴方達も騙されてるのよ! そこの二人──第二王子・アレキサンダーとジャスパー・ベリルにっ!!」



「「はああっ!!??」」


 異なる環境で生きていたはずだが、従兄弟故か反応がそっくりである。

 本人達に告げたら、さぞ不本意な顔をするだろうが、息ピッタリだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 他国のお偉い貴族とこの国の王子とか、確かに暗躍して平民を好き放題するには十分すぎる肩書きだから否定が難しいw 無実の照明は、悪魔の証明になりかねないな。シルバーはとばっちりだけど己の今までの…
[良い点] ダイアナお嬢様、マッターホルンの頂上でも息するようにオラオラフィクションを紡げてるゥウ! お父さんの好感度上げがツボりました…意味ねえ… [一言] こち亀位長く続きますように
[良い点] わぁぁいダイアナお嬢様ノリノリ★ アレキサンダー大丈夫かな。護衛どころか、同情的な人すら一人もいない場所でこんな目に。 まー、ジャスパーの目的や素性を知らなくても、自分の護衛を一人も付け…
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