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スキップした人向け☆過去編超訳
オーロラの子が男じゃなかった場合に備えて、ディーンがアルマと取引して生まれたのがラズリ。
ラピスとラズリ。
腹違いの姉弟は、双子だと偽っても疑問に思われないくらい良く似ていた。
半年遅れで生まれたので当然乳児期はラズリのほうが小柄だったが、二人が歩けるようになる頃にはその体格差も殆どなくなった。
服を交換すれば家の者でも見分けがつかないくらい、二人はそっくりだった。
「ラピス様は小さな頃からお転婆で、その……登城するのがお嫌で、ラズリ様を身代わりにしていらっしゃったのです」
「ならあの日も……」
「王太女殿下にお目通りしていたのはラズリ様です。ラピス様は弟君のフリをしてロードライトとウヴァロと会い、あの事件が起こりました」
「……そうだったのね」
カイヤの告白を、ルベルは静かに受け止めた。
「申し訳ございません。……あたしの所為です。なんと言われようとも協力などせず、お諌めすべきでした……!」
登城するためには、子供であっても正装が要求される。
十歳のラピスとラズリが、自力で衣装の交換ができるはずがない。
ラズリをラピスに仕立て上げる為、身支度を手伝った協力者の存在があった。
カイヤはプレーズ家の使用人で、当時はお嬢様の世話係の一人だった。
「貴女はお若く見えますが、当時は何歳だったんですか?」
自分達とそう年が離れているように見えないカイヤに、ダイアナは疑問を投げかけた。
「十二歳です」
「本当にお若いですね」
両親が住み込みの使用人として働いていたとしても、早すぎる気がする。
「あたしは少し特殊で……家庭の事情で、ツテを辿って行儀見習いという名目でお世話になっていました」
カイヤは中流階級の出身だ。
ある日父親が怪我で働けなくなり、母親は離縁して実家に戻されることになった。
しかし彼女が娘を連れ帰ることはできなかった。
母方の実家は、イレギュラーな存在を二人も養う余裕がなかったからだ。
カイヤが父の元に残れば「世話をする家族がいない」という入居条件から外れるので、彼は貧窮院に入ることができない。
共倒れにならない為、カイヤの家族は離散を選んだ。
「お二人に年齢が近いということで世話係に任命されましたが、位置付けとしては話し相手に近いものでした」
大事な嫡子達の世話を同年代の少女に任せるわけがない。
仕事に関しては年配の者達が中心となって行ない、カイヤはあくまで補助だ。
若干年上ということで、カイヤの役目は子供達の遊び相手を兼ねたお目付け役だった。
「その状況だったら、雇い主の子供たちに命じられたら逆らえませんね」
自分達の我儘を通せる相手として、立場の弱いカイヤは最適だったのだろう。
子どもと言っても十歳だ。それなりに悪知恵が働く。
「それでも先輩たちに相談するなり、ご当主に報告するなりできたはずです。お二人があんなことになったのは、……あたしの責任です」
「それは成長した今だから言えることでは? 当時の貴女にそれだけの判断力があったとは思えません」
「……」
時間が人間に与える影響は大きい。
当時はそれが最善だと思っていても、経験を重ねて視野が広くなれば、見えていなかった選択肢に気付くことができる。
子供というのは大人の想像以上に悪知恵が働くが、同時に年相応に未熟なのだ。
「貴女は己の行ないの償いとして、ラズリの共犯者になったのね」
「はい……」
カイヤは目を伏せると、ルベルの言葉を肯定した。
二人の入れ替わりを補助したカイヤは、プレーズ家を解雇されなかった。
オーロラが、ラズリをラピスに仕立て上げるよう命じたからだ。
死んだのがラピスであり、生き残っているのがラズリだと判明したらプレーズ家は終わりだ。
他国の王族に嫁ぐ予定だった王女に、息子を女と偽って会わせていたことになる。
*
子供の頃は瓜二つだったが、ラズリは男だ。
体が成長するにつれ、女装は難しくなっていく。
厳しい食事制限と、意図的に筋肉をつけない生活を送ることで細身な体型をキープした。
声変わりも肺炎の後遺症で声がかすれるようになったと言って誤魔化した。
それでもヴァルが指摘した通り、関節や喉仏などのどうしようもない部分が増えていく。
いつかどこかで限界が来るのは、関係者全員がわかっていた。
カイヤをラズリの側仕えにしたのは、オーロラからの罰だ。
お前が余計なことをしなければ、娘は死ななかったかもしれない。
その男を娘に仕立て上げたのなら、最後まで責任を持てと。
先日のラピス(ラズリ)失踪の際に、カイヤは職務怠慢でプレーズ家を解雇されている。
オーロラの命令は別として、カイヤは個人的に長年ラズリの協力者だった。
彼が姿をくらますのを手助けした後は、元より辞職して復讐に参加する予定だった。
*
「ラピスはよく喋る、気の強い娘でしたが、事件のあと人が変わったように大人しくなりました。弟を失ったのだからそれも当然かと、最初の頃は疑問に思いませんでした」
医師役だったシスト。彼の本名はシスト・アンダルサイト。
その正体はラピスの婚約者だ。
「僕には姉も妹も居るので、時が経つにつれなんとなく、ラピスは本当は男なんじゃないかと思うようになりました」
ラブコメのような展開は無かったが、身内の女性との違いから徐々に違和感が確信に変わっていった。
「ご両親に報告しなかったのは何故ですか?」
「この国で男児は丁重に扱われます。我が家のように上に跡取りが居ようと、何が起こるか分かりませんし、親戚から養子にと求められることがありますから……だから余程の事情があると思ったんです。僕は本人から話を聞くことにしました」
アンダルサイト家は子沢山で三男二女。
スペアですらない、三男のシストですら大事に育てられた。
たとえ親であろうと、憶測混じりで告げ口するのは憚られた。
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ちょいと長くなったので分割します。スマソ。
ここからハッピーエンドに入れる保険あるんですか?
D損保なら大丈夫。




