僕の婚約者が強すぎて異国の奴等がまるで敵わないんだが
「──あの、ヴァル殿下。ありがとうございました」
コランダムの王宮に到着し、馬車を降りて歩いている途中。シストがヴァルに小さく感謝の言葉を述べた。
「最初はアイツ、全部一人でやるつもりだったんです。偽装工作なんてせず、相打ち覚悟で二人を自分の手で始末しようとしてました……」
「君の言う『アイツ』とは、アメトリンのことか」
「はい。『僕達にも敵を討つ権利がある』と食らいついて、なんとか軌道修正させたんです」
「……捨て身で復讐しようとする彼を、君達は引き留めたかったんだな」
すべてを終えた後に、自分がどうなろうと構わない。
当初アメトリンは、なりふり構わず復讐しようとしていた。
そんな彼とは違い、共犯者達には復讐後の人生がある、と完全犯罪を計画することで、残るメンバーでアメトリンの自罰的な復讐を止めさせた。
「それでも実行犯になることは譲りませんでしたが、目の届かないところで無茶されるよりは安心できます」
「本人がどれだけ望もうとも、私はあの子に人を殺してほしくなかった。シスト君とカイヤに協力してもらって、連中には私が手を下すつもりでした」
ヴァルとシストの会話に、執事役のディーンが加わった。
犯人グループは、一枚岩ではなかったらしい。
結束が固いのは間違いないが、チーム・オールフォーワンのワンはラズリだけではなかったようだ。
話題の中心になっているアメトリンは、フラフラと移動している。
復讐にかける熱量が他の面子とは比べ物にならなかった彼は、あれから廃人のようになっていた。
どうにも足取りが危なっかしいので、いざとなれば支えられるようクレイとカイヤが側についている。
*
宮殿への入り口にて、捜索隊一行をルベル、サフィルス、アルチュールと各国の代表者が直々に出迎えた。
ルベルはゾロゾロと歩いてくる集団をジッと見つめていたかと思うと唐突に駆け出した。
「ラピスッ!!」
前を歩くヴァル達を素通りすると、彼女は一直線に最後尾を歩く男に飛びついた。
「無事で良かった!! でもどうしてこの方たちと一緒に!? ああ、酷い顔……。それにどうして男の人の格好をしてるの? あなたに言いたいことが沢山あったはずなのに、今は聞きたいことだらけだわ!!」
ルベルはアメトリンをプレーズ家の双子の姉の名で呼ぶと、彼の様子を確かめるように顔を覗き込んだ。
「込み入った事情がありそうなので、場所を移しましょう。ラピス様はここにいるのですから、落ち着いた状態で話を聞けば良いんです」
興奮状態のルベルに冷静な提案がなされた。
「導師!?」
「ただいま戻りました!」
足を止めたダイアナ捜索隊の後ろに、新たな団体が合流した。
屈強な男達を従えて先頭に立つのは、もちろんダイアナお嬢様だ!
*
「今までの経緯をお話したいんですが、まずは──ブッ」
駆け寄ってきたサフィルスが力いっぱい抱きしめたため、ダイアナの言葉は途切れた。
足の問題で駆け寄れなかったアルチュールがギリギリしながら二人を見ている。
お前そういうとこだぞ。まずは無事を喜べよ。
「ダイアナッ!! 本物なのか!? 怪我は!?」
興奮しているのか、ダイアナを名前で呼ぶサフィルス。
ルベルと似たりよったりのテンションで、彼は婚約者のボディチェックを始めた。
サフィルスがダイアナの上半身に触れるたびにガサガサと謎の音がする。ついでに手触りにも違和感がある。
ダイアナはサフィルスの気が済むまで好きなようにさせた。
なんなら手を広げて、足を肩幅に開いて調べやすい姿勢をとった。
あれれ〜、おかしいぞ〜。絶望的な状況から生還したヒロインとヒーローの再会だぞ。
普通ならもっとこうエモい感じになるはずなのに、テロ対策か税関みたいな光景なんですけど。
ダイアナの異常を見逃すまいと、サフィルスが真剣に調べてる姿が大変シュールだ。
一応恋愛小説なんで、もうちょっと何とかなりませんかね?
「私は無事です──あっ、膝擦りむきました! でもそれくらいです!」
なんだその公園ではしゃぎ過ぎたヤンチャボーイのような自己申告は。
「助けを待つ方が危険な状況だったので、自力で帰還しました!」
再登場早々パワーワード炸裂。
外国で攫われたくらいで、助けを待つとでも思ったか。
どこの魔王様だよ。
それにしても殿下といい、ダイアナお嬢様といい、知らない土地で身ひとつだったのによく帰ってこれたな。
帰巣本能高いカップルだなオイ。
「一体誰が君を。いや、どうやってここまで──!」
「道中のことは、あそこに居る護衛の方々に聞いてください。彼等は犯人とは無関係な方々なので、丁重に扱ってくださいね」
「あ、ああ。わかったよ」
「私を王宮まで連れて行った後に、元の場所に連れ帰る契約でしたが後者は無理です。依頼未達成は彼等の過失ではないと、依頼主に説明できる人物を同行させる必要があります」
サフィルス達と一緒に行動していたので、ダイアナは現金を持ち歩いていなかった。
護衛を雇うとなればそれなりに費用がかかる。
体を張って仕事をしている彼等はその辺りシビアだ。ランクの高い護衛ほど後払いはきかない。
どこの国であろうと、前金で半額以上支払うのが鉄則となっている。
「元の場所に連れ帰る? それに依頼主って……」
「良識ある善良な市民の方です。あと私が戻ってこれたのはコレのおかげです」
サフィルスの言葉に答えながら、ダイアナはドヤ顔で左手を見せた。
彼女の薬指で輝くのは、婚約祝いにサフィルスが彼女に贈った指輪だ。
*
婚約後に何か欲しいものがあるか聞かれたので「左手薬指用の指輪がほしいです!」と即答したダイアナ。
結婚情報誌チラ見せどころじゃない火の玉ストレートだが、この世界には結婚指輪はあるが婚約指輪の習慣はない。
結婚指輪も嵌めるのは別の指なので、当時のサフィルスは「利き手を避けて、邪魔にならない指につける指輪がほしいのかな」と考えた。
「以前サフィルス殿下にいただいた指輪ですよ!」
これがマトモな恋愛小説なら「辛い時もこの指輪が私を励ましてくれました」ってところだが、ダイアナお嬢様の場合は絶対に違うと言い切れる。
その指輪、言葉通り道具として使ったんだろ。
満面の笑みを浮かべるダイアナに、サフィルスが目を見開いて動きを止めた。
「えっ。そっ、それはよかった。よかったよ、うん……」と、しどろもどろになる。
人が恋に落ちる瞬間というよりは、記憶を失ったせいで無自覚だったものに気付いた瞬間と言ったほうが正しいだろう。
周囲の面々は何が何やら状態だったが、その辺の機微に敏いアルチュールだけは何が起きたか正確に把握したようで、目からハイライトが消えた。
どちらにせよお前にチャンスはないんだから、負のオーラしまえよ。
なにはともあれ、おかえり。
まさか捜索隊と同着で帰還するとは思わなかったわ。
帝国の時と違って、選択肢が「帰る」一択だとこんなに早いんだな。
アメリア=アメトリン=ラピス。
つまりどういうことだってばよ!?
というわけで、次回からの3話「喜びがないー…」「心が二つある」「またお前か」は過去話です。
ダイアナお嬢様の脱出劇は、その後にちゃんとやります。
シリアスとか暗いのはゴメンだぜ!って方は、スキップ可能です。
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