\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!
「実は出発前フロントに言付けを頼んだんだ。ボスが探している人物はライ・カルセドニーかもしれないと伝えた。きっとボスは情報の裏取りをしつつ、部下に港を見張らせているだろう。彼等は手段を選ばないから、糸口さえつかめば調べ上げるのはあっという間だ」
「おいクソ野郎!! なにしてくれてんだ!!」
相手が王族だということも忘れて、ライが怒鳴る。
「調べた結果、無実とわかれば何もされない。まあ、その反応を見る限り、二人とも本島に戻れば拉致されるだろうな」
「……ちょっと疑問なんですが、どうして殿下はそんな事をしたんですか?」
全く悪びれるところのないヴァルに、アンドリューが疑問を呈した。
「ボクがクォーツに着いたのは一週間前だ。いつもの習慣で新聞を読み、治安悪化の件を知った」
「はあ」
「暇だったから、町をブラブラして原因を突き止めた」
「はあ?」
「出立前の会話で、ライ・カルセドニーが怪しいことに気付いたから情報提供した」
「はああ!?」
「船中の会話でウヴァロも関係者だと気付いた。犯罪者である可能性が非常に高い二人組だから、挙動に注意していたら復讐劇が始まったので、引き続き観察していた」
コイツ。ホップ・ステップ・ジャンプの勢いでおかしなこと言ってんな。
「ちょっと、ちょっと待ってください。混乱してきました! 出立前の会話って、あのロビーでのできごとですよね?」
こめかみを押さえながらアンドリューが呻く。クレイも同じ気持ちだ。
「そうだ。帝国にカルセドニーという名の貴族は存在しない。帝国人を騙ったのは、遠くて身元の確認が取れないこと、実力主義を謳っているので若くして大金を持っていても誤魔化しやすいことだ」
ヴァルは、チラリとライの手首を見た。
「君の肌の色は半年程度の日焼けじゃない。地域や生まれによってはそうでもないが、帝国人は基本色白だ。最近焼けたように見せかける為、ブレスレットの下はドーランを塗っているんだろう」
「……もしかして、貴族全員覚えてるって本当だったのか?」
ライが呆然とした顔で呟く。
「ボクは意味のない嘘はつかない。──あの時、君は『俺は日焼け、あっちは本物』と言ったな。無意識の言葉だったんだろうが、生まれつき肌が黒いと断言したのは知り合いだからだ。しかし君は無関係を装った。何故だ?」
「……」
ヴァルは答えに見当がついているからか、黙秘するライを問いただすことはなかった。
「ええと、それに関しては過去の事があるから他人のフリをしただけでは?」
沈黙に耐えられなかったのか、アンドリューが口を開いた。
昨夜の一件がなければ、二人が幼馴染であるとアンドリューとクレイは知らずに終わっただろう。
「あの時点では、八年前の話は出ていない。罪人の自覚がない者が、他人のふりをする動機としては弱い。つまり過去ではなく現在に理由がある」
「身分を詐称していたから……?」
「ひとつ目よりはマシだが、その答えも不十分だ。そうだな、彼の状況を別の角度から見てみよう。大金を持った人間が身元を偽り、治安が悪化した場所に滞在し続けている。前半はともかく、後半はリスクしかない。何か抜き差しならない理由があるはずだ」
ヴァルが丁寧に説明する。お前一応成長してるんだな。
「ううむ。そう言われると、確かに妙な話だが……」
二人の会話にクレイは唸った。
他人のふりをすることと、危険な町に滞在し続けることが繋がらない。
「ライ・カルセドニーがあのホテルに滞在したのは、富裕層のふりをして盗みに入る店を下見をするためだ。盗みに失敗した後は、出るに出られなくなったからだ」
クォーツに居る人間は二極化している。
お互いを子供の頃から知っているような地元民か、金持ちの観光客かだ。
裏社会ズブズブの町なので、外から就職しに来る人間は稀だ。ゼロではないが、奇特な人物としてかなり注目を浴びる。
ボスの息子は出戻りの地元民だが、ライは違う。
彼は町に溶け込むために金を持て余した放蕩者を装った。
「当時の記事から推測するに、君は相方を囮にして逃げた。好きでホテルに半年も滞在したんじゃない。息子を捨て駒にした人間を逃さない為に、ボスが人の出入りに目を光らせていたから町を出ることができなかったんだ」
「……」
滔々と語るヴァルを睨みつけながらも、ライは反論しなかった。できなかった、と言ったほうが正しいだろう。
「アルマ商会長の招待に応じたのは、招待客の誰かに取り入って、一緒にクォーツから出るつもりだったんだろう」
お披露目会は、各国から著名な経営者が集まる。
表の世界で強い影響力を持つ者に便乗して出国すれば、この終わりの見えない偽装生活から抜け出せる。
「君達はこの男が強盗犯だと気付いていたのか?」
ライが招待された経緯を聞いた時、ヴァルは作為的なものを感じた。
しかし彼らがライが強盗犯だと知っていたら、復讐はもっと簡単かつ効率的に済ませることができたはずなので、そこだけが疑問だった。
うーん、名状しがたき倫理観。
ヴァルに話を振られて、シストは首を振った。
「理由はわからなかったけど、標的の一人だったライ──本名はロードライト・カルセドニーがクォーツを拠点にしていたので、それに合わせてウヴァロの奴もおびき寄せることにしたんです。離島のようなうってつけの舞台もあったし、アルマ商会長が全面的に協力してくれたので準備は簡単でした」
シスト達の行動に合点がいったヴァルは「なるほど」と頷いた。
「そのう……ライ君はともかく、ウヴァロ君も犯罪者というのは些か飛躍しとりませんか? 二人共知り合いであることを隠していただけでしょう」
ヴァルとシストの会話に、クレイが割って入った。
「彼がクォーツから脱出する方法は、招待客のひとりと一緒に出国することだ。ならば知り合いであるウヴァロに協力してもらえば、新しく誰かに取り入る必要はない」
「まあ、そうですな」
「外にウヴァロの姿を見つけた時、ロードライトは彼を招待客だと推察した。ならば協力を求めるのが普通だ。『知り合いかもしれないので挨拶してくる』とでも言って、自分だけ接触すれば解決する」
「確かに」
『ライ』というキャラクターはフットワークが軽い。腰の重いオッサン達を置いて、パパッと外に出て話を合わせるよう頼むのは難しくない。
「二人は何の打ち合わせもしていないのに、お互いに他人のふりをした。片方は窮地に陥っていたにも関わらずだ。知人であることすらバレたくないほど、現在の関係を隠したかったんだ」
「ふむ……」
「例の強盗が狙ったのは、高価な宝飾品だ。裸石と違って加工品は換金するのが難しい。普通に売り払ったら直ぐに足がつくし、買い手も足元を見てくるから苦労して盗んでも買い叩かれる」
石をバラして売るなら二度手間。
「殿下のおっしゃる通り。持ち運ぶにしても嵩張るし、ルースか現金を盗む方が断然楽ですな」
コレクターでもない限り、ジュエリーや美術品は盗んで終わりではない。現金化するまでがお仕事です。
「そこでウヴァロ・スフェーンが経営するホテルの登場だ。おそらく諸外国からやってくる客の目的は、そこで行われる盗品オークションだ」
ヴァルは船中でのクレイ達の会話を聞いていたらしい。
「まさかそんな事を堂々と!?」
「個人経営のホテルは、オーナーの箱庭だ。繁盛しているホテルなら動く金の桁も大きいから、経理も誤魔化しやすい。巨大な密室のようなものだから、簡単に盗品の売買ができる」
ギョッとした顔をしたアンドリューは、ヴァルの説明にホテル経営者として思い当たる節があるようで、すぐに納得の表情になった。
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