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【電子書籍〜4巻。コミカライズ予定】ダイアナマイト - 転生令嬢は政略結婚に夢を見る -  作者:
コランダム編

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南国乃風

 火事の経緯を話したことで、二人は一緒に行動することを許されたが、クレイの胸はモヤモヤした。


 ウヴァロとライのしたことは虐めだ。

「子供の悪ふざけ」「ちょっとした冗談」「からかっただけ」と言い訳していたが、自分達に都合の良いように考えているだけだ。

 虐めという表現だと軽く見られがちだが、やったことは脅迫罪、暴行罪。ラズリの死に関しては不真正不作為犯。

 歴とした犯罪だ。


 ひょんなことからプレーズ家の表沙汰にできない事情を知った二人は、それをネタにラズリを虐めていた。

 しかしある日、我慢の限界に達したラズリは二人に抗議した。

 下に見ていた少年に反抗されたことが面白くなかったウヴァロ達は、ラズリに「男を見せたら、もう手出ししない」と言って度胸試しという名の火遊びを強いたのだ。

 その結果は言うまでもない。

 手元を滑らせたラズリは火事を起こし、二人は助けを呼ばずに自分達だけ逃げた。


 全て聞き終えたシストは「胸糞悪い」と舌打ちし、女性陣は冷たい目で二人を睨んだ。

 アンドリューはクレイと同じ思いなのか、特にコメントはせず、複雑そうな顔をしていた。



 翌朝。

 シストはアメトリン誘拐説を諦めていなかったようで、彼を探すことを提案した。

 専属医として、雇い主の安否が気になるのは当然のことだ。


 アメトリンが犯人だろうと、被害者だろうと、彼を見つけることで良くも悪くも事態が進展する。

 他にやることもないし、襲撃を恐れてただ時が過ぎるのを待つよりは精神的負担が少ないとクレイは賛成した。


 執事の遺体は発見時のままだ。

 残り2日。迎えの船が来たら警備隊を呼ぶので、それまで現場を荒らしてしまわないよう部屋を立入禁止とした。


 気温が高いので腐敗が心配だが、こればかりはどうしようもない。

 アンドリューが部屋の保全とは別に、遺体を涼しい場所──地下室に運ぶことを提案したが、食料庫として使われている地下に遺体を置くのは嫌だとアメリアが反対した。

 クレイにも死者を悼む気持ちはあるが、流石に食料庫はいただけない。

 医師であるシストが衛生面で待ったをかけたので、アンドリューはあっさり引き下がった。彼も一応言ってみただけのようだ。

 他に候補となる保管場所もなかったので、部屋を施錠して放置している。


 偶然居合わせた刑事や探偵は存在しないので、誰も遺体の周囲を調べてはいない。



 初日の屋敷探索の組み合わせで、男三人は別荘から少し離れた場所を歩いていた。

 襲撃を警戒して、見通しの良い場所だけ捜索する。


 三人とも特に腕がたつ訳ではないが、成人男性──しかも過去の事件とは無関係なメンバーだ。

 単独行動して思わぬ証拠を見つけた、なんてことになったら死亡フラグ待ったなしだが、クレイ達はスリーマンセルで行動している。

 目的は消えたアメトリンの痕跡がないか、軽く見てまわるだけなので身の危険は少ないと判断した。


 襲われる可能性のあるライとウヴァロ。非力な女性であるアメリアと侍女は、外を動きまわるのはリスキーなので別荘で待機だ。

 四人だけだと心配なので、捜索の発案者であるシストも一緒に居る。

 女性陣に関してはいざという時に護るためだが、復讐対象二人については監視の意味合いが強い。


「──あれ!! 船じゃないですかッ!?」

「本当か!?」


 アンドリューが指差す先には、たしかに船の姿があった。


「「おおーい!!」」


 クレイとアンドリューは手を降って必死に呼びかけたが、その後ろにいるヴァルは無言で傍観していた。


 船に乗っている人物が手を降るのを見て、二人は「もしかして挨拶してると思われてる?」「こりゃいかん! 助けを求めてるのに気付いてもらわんと!!」と、異常事態をアピールしようと脱いだ上着をブンブン振り回しながら岸まで全力疾走した。

 ウォォーッ晩夏のジャンボリィィィ!!


 船乗りからすれば、ヤッホーのノリで手を振り返したら、おっさん二人が奇行に走ってさぞビビッたに違いない。


 船は元々この島を目指していたようで、まっすぐ着岸した。

 汗だくで駆け寄ってきたおっさんズに、船頭達は完全に引いていた。


「どうして予定より早く来てくれたのかわかりせんが、助かりました!」

「殺人事件だ! 警備隊を呼んでくれ!」

「え? ええ!?」


 目を白黒させる男に、悠々と歩いて合流したヴァルが「アグじゃなくて君か。さしずめアルチュールのヤツがボクに頼みがあって、遣いに出したんだな」と話しかけた。


「ボーマン。彼らの主張は間違っている。まだ誰も死んでない──ボク達がこうしている間に、殺してるかもしれないけど」


「「「はあああ!?」」」



 別荘のダイニングルームには行方不明のアメトリン、死んだ執事以外の人間が勢ぞろいしていた。


「なんだ。お望み通り別行動してやったのに、まだ殺してなかったのか」


 開口一番物騒な感想を漏らしたヴァルに、周囲がザワついた。


「さて、今回の事件だがそれなりに良いアイディアだったと思う」


 名探偵による推理ショーが始まるかと思いきや、謎の講評が始まった。


「復讐において重要なのは、優先順位とスピードだ」


 は? お前探偵役じゃないの?


「本命を後回しにして良いのは創作物語フィクションだけだ。あれは終盤を盛り上げるためにそうせざるをえないだけで、現実なら不意を突いて本命を最初に仕留める、もしくは一網打尽にするのが正解だ。後回しにするほど、相手に猶予を与えることになり、逃げられたり反撃される可能性が高まる」


 え。コイツまさか犯人にアドバイスしてる?


 呆気にとられる一同に対し、ヴァルは説明を続けた。


「ただ殺すだけでは一瞬で終わる。標的ターゲットを精神的に追い詰め、苦しませたいと考えているのかもしれないが、そうなる可能性は低い。復讐される程のことをしておいて、平然と生きている人間だ。罪の意識に苛まれたり、過去を悔いたりはしない。自分は悪くない、やられる前にやってやるとなるだけだ」


 ねえ、これ何の時間?


「アメトリン。アメリア。……どちらの名前で呼ぶのが最適なのかわからないので、まあ適当に呼ばせてもらおう」


「ちょっと待ってくれ! アメトリン氏がアメリア嬢!?」


「そうだ。見れば分かるだろ」


 そうは言うがアメトリンは首から上は包帯男で、首から下も露出ゼロだ。

 ヴァルお得意の黒子認証は封印されてるのに、どうやって区別したんだ?


「いや全然わからん! そもそも彼女は? 彼? ええい、一体どっちだ? とにかく性別が違う!」


 ギョッとしたクレイが、椅子に座るアメリアを振り返ったが、どこから見ても普通の女性だ。

 昨日アメトリンと話した時も、彼の性別に違和感はなかった。


「……あのぅ。殿下はいつ二人が同一人物だと気付いたんですか?」


 戸惑いを隠せない様子で、アンドリューが小さく挙手した。


「昨夜アメトリンが自己紹介をしている時だ。耳の形が同じだった」


 鑑別方法が特殊すぎて、誰も「なるほど〜」とか「確かに!」とは言わなかった。


「それって、つまり最初からですよね。どうして言わなかったんですか!?」


「相手が秘密裏に何か計画していたら、気付かないふりをして付き合ってやるのが優しさ。余計な口出しをして台無しになったら、誰も幸せにならないと言われたんだ」


「誰がそんな事を!?」


(ワシじゃん!!)


 アンドリューの悲鳴のような声を聞いて、クレイも叫びたくなった。


「ステンドグラスの前で、これみよがしな元神父の独白があり、屋敷のインテリアであからさまに『罪と罰』をアピールしていた。一人二役をこなすアメトリンの姿を見た時に、これは八年前の件で一部の参加者に復讐を行うつもりだと理解した」


 おい。これみよがしとか、あからさまとか言ってやるなよ。かわいそうだろ。


(ワシ、彼になんて言ったっけ? そうだ、特別な演出だ! いやいや、サプライズのことだから! 犯罪行為が行われると分かっていて、スルーしろなんて言ってないぞ!)


 クレイが冷や汗をダラダラかいている隣で、アンドリューがヴァルを恐ろしい生き物を見る目で見ていた。


「殺人を予測しておきながら、見逃されたということですか?」

「そうだ」


 スルーどころか協力してただろ。

「別行動してやった」って、完全にお膳立てしてるじゃん。


「殿下の口ぶりでは、執事の死は狂言のようですが、こうして偶然船が来なければ、カルセドニーさん達が殺されても見て見ぬふりされるおつもりだったんですよね?」


「かなり大掛かりな計画だ。金と時間を費やして、大勢の人間が覚悟を決めて整えた舞台を、偶々居合わせた人間が邪魔するのは忍びない。人付き合いは、相手の立場を尊重することが大事だと教わったんだ」


「だから一体誰がそんな事を!?」


(止めてくれ! お願いだから止めてくれ!!)


 クレイは胃がキリキリしてきた。

 なんで犯人(そっち)尊重しちゃうんだよ!


「彼らに気を遣っただけじゃない。今回、標的じゃない者は証言者として集められている。昨夜進行役(ゲームマスター)のドクターが誘導していたが、余計な詮索をする方が命の危険があったんだ」


「ドクターも!? いや、そうか。執事の死を確認したのは、彼だけだったな」


 つい大きな声を出してしまったが、クレイはすぐに納得した。

 アメトリン(アメリア)、執事はもちろんのこと、アメリアの侍女であり第一発見者の侍女も仲間ならば、執事の死を偽った医師もグルだ。


「協力して犯人一味に立ち向かう選択肢もあったが、建物に何か仕掛けが施されている可能性があるので抵抗しなかった」とヴァルは続けた。


 なるほど。昨夜から大人しかったのはそれが理由か。


 ヴァルは頭脳や五感はパラメーター突き破っているが、実は腕力などの身体能力は平均値を下回る。

 ベイカー街の探偵はボクシング、東の名探偵は博士の発明道具、西の名探偵は剣道……物語の探偵達はことごとく自衛に長け──あ、孫がいた。名探偵の孫はフィジカル(ノーマル)だったわ。


 まあ、他所の世界の探偵事情は置いといて、必要最低限の護身術しか身につけていないヴァル。

 親父にも殴られたことがないアンドリューや、最近お腹周りが気になるクレイと腕っぷしはどっこいどっこい。


 戦力にならない男三人+信用ならない復讐対象者達。なんて嫌なフルハウス。

 かたや対戦相手は殺す(ヤル)気満々のチーム・オールフォーワン。

 被害を拡大させない為に、ヴァルは余計なことはせずドロップすることを選んだのだった。

不真正不作為犯……不作為(〜しなかった)により実現する犯罪。〜できない状況なら適応されないが、二人はアウト。


しかしまだ序の口。

ヤツはこれから、逆指名率100%の本領を発揮するのである!

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― 新着の感想 ―
孫はなぁ。ぅっそだろぉ?!なんで生きてんの? 。°(|||°´ᯅ`°)°。って犯人たちが怯えるような環境から生きてるからなぁ。 (底なし沼, 雪山放置, 頭部損傷etc.)
[良い点] 空気読んで(?)珍しく大人しくしてると思ったらまさかの。殺人目論んでる奴らを放置するあたりやはり人の心がわかってない。あと孫はフィジカルが普通だとしても作中で何度狙われても死なない不死身だ…
[一言] 犯人たちの事件簿見た後だと孫もその犯人たちもフィジカルお化けにしか思えなくなったw 孫がアッサリ再現した劇中のトリックをミスターサスケが挑戦してたけど失敗してたしw
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