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【電子書籍〜4巻。コミカライズ予定】ダイアナマイト - 転生令嬢は政略結婚に夢を見る -  作者:
コランダム編

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110/146

魔王城に一番近い村

 場面は変わり、ダイアナお嬢様inアンバーの実家──ではなく、海辺のリゾート地。


 燦々とした太陽、強い潮風に輝く海面。

 富裕層の間でバカンスに大人気のクォーツ諸島だ。


「……ふう。こんなに暑くちゃ、出港の時間まで外に出る気になれんな」


 クレイ・アダマスはホテルのロビーで涼んでいた。

 彼は独りごちながら、汗の滲む額にハンカチをあてた。


 今日は雲ひとつない快晴で風が弱い。

 この後に船で移動することを考えれば、雨が降らず、海が穏やかなのはラッキーなのだろうが、いかんせん体感温度が暑すぎる。

 昼下がりのこの時間帯は、一日の中で最も気温が高い。


「今、外に出るのはオーブンの中に飛び込むようなものだな」


 ぼっちの中年は独り言が多いのである。

 生温かい目で見守るか、見て見ぬふりしてやって欲しい。


 クレイと同じ考えなのか、外を行き交う観光客の姿は疎らだ。



 もっとも人の数が減っているのは、残暑が続いているからではない。

 ここ数ヶ月治安が悪化しているのだ。


(ホテルのコンシェルジュに、あんな対応されたの初めてだ)


 クレイはチェックイン時のことを思い出した。

「今年この町に来るのは初めてですか?」と聞かれたので、興味半分で彼はイエスと答えた。

 てっきり知り合いの店でも紹介するのかと思ったら、まさかの防犯講座が始まった。


 一つ。歩くのは大通りだけ。店の中以外で財布は出さないこと。

 二つ。夜八時に玄関(エントランス)を施錠して従業員は帰宅するので、絶対それまでに戻ってくること。

 三つ。どんな音がしても、朝ホテルの人間が出勤するまで、決して外に出ないこと。


 どこの修羅の国だ。


「早くなんとかしないと、観光で食ってる連中は商売あがったりだろうな」


 クレイが昨年訪れたとき、此処はまだ治安と羽振りの良い絵に描いたようなリゾート地だった。



 この国は少し独特で、一昔前は海賊の被害が多かった。

 大小様々な島で構成されているので、至る所に船を隠すのにうってつけの入り江がある。

 根城にしやすい島が豊富で、何かあっても簡単に海に逃げられる。


 そんなフットワークの軽い海賊に対し、善良な一般市民は防戦一方だった。

 我慢の限界に達した彼等は「国の兵隊なんてアテにならん」と、自分の身は自分で守ることを選んだ。


 そして住民達は『ドラゴンを倒せちゃう系村人』に進化した。


 立ち上がった彼等は、効率的かつ安全に外敵を排除するために、腕っぷし自慢や、血気盛んな者を集めて、町の警備を目的とする組織──自警団と名乗っていたが、ぶっちゃけマフィアを結成した。


 近代化が進むにつれ、海賊の数は減った。

 外敵が少なくなり治安が改善すると、クォーツは近隣諸国からのアクセスの良さと、一年を通して温暖な気候と美しいビーチをウリに『常夏の楽園』として観光業に舵をきった。


 しかし今でも、探せばちらほらと弱肉強食時代の名残がある。

 子供が生まれたら盾を作り、玄関にはハルバードを飾るといった風習がそうだ。

 昔は一人一帖マイ(シールド)が必須で、肝っ玉母ちゃんや頑固親父がハルバード担いで侵入者を迎撃していた。

 いつしか盾をデコるのが若者達の間で流行り、最近は誕生時の体重で盾を作って、誕生日とクマちゃんを彫刻するようになった。

 ハルバードは無骨な武器から職人が作るインテリアとなり、今では新築祝いの定番だ。



 クォーツ自警団は、非認可の民間組織。

 活動資金は、住民からのみかじめ料。

 住民から金銭を徴収して、暴力行為によって外敵を排除する……当然国は良い顔をしなかったが、自分達の手が届かないのは事実。

 海賊に好き勝手されるよりはマシかと、当時の政府は暗黙の了解状態で存在を認めた。


 国が規制しなかったため、自警団の勢力はどんどん拡大し、あっという間にクォーツの裏社会そのものになった。

 結果としてこの辺りは、何十年も表社会と裏社会が堂々と共存した状態になったが、流石に昨今はそこまでではない。


 一応政治は各島の代表からなる議会政治で、治安は自警団を解体して、表社会の人間で再構築した警備隊が担っている。一応は。

 実のところは以前ほどオープンにしていないだけで、議員も警備隊も未だに裏社会とズブズブなのが現状だ。


 何を隠そうクォーツが観光地として成功したのは、この裏社会のおかげでもある。

 ガチな彼等が睨みをきかせているおかげで、他国の観光地でよくあるアマチュアのスリや詐欺が存在しないのだ。


 彼等はクォーツの秩序を乱す者を許さないが、カタギの人間には手を出さない。

 そんな硬派な地元警備員達がいる土地なので、土産物屋の大半が裏社会のシノギで、ハードボイルドに生きる彼等の資金源になっているのはご愛嬌。

 薬物の売買が横行するくらいなら、もらっても困るペナントやクソダサマグカップの方がマシというもの。むしろ日頃の感謝の証として、グッズ購入で課金していると考えれば、健全な関係と言えなくもない。


 ところで絶体絶命ピンチなまま三話以上経過してる、ダイアナお嬢様は大丈夫なのかって?

 まあ平気だろ。

 ヒロインが無事かどうかじゃなくて、今回はどんな手で切り抜けるのか「ンフフフ……全く。これだから面白い」と馬上で腕組みして楽しむのがダイアナお嬢様の物語だ。


 王道ヒロインなら苦境に耐えながらコツコツと準備を進め、脱出後は新キャラと次々に出会い、友情を育んだり、当て馬ヒーローに惚れられたり……と、たっぷり時間も文字数も費やして帰還するところだが、生憎ウチのお嬢様は四十秒で支度しちゃうし、仲間は伝馬のごとく取っ替え引っ替えなんだもん。

 ぶっちゃけ話の構成的に、後回しにするしかないんだよォ!

面白い! 続きが気になる! などお気に召しましたら、ブックマーク又は☆をタップお願いします。

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― 新着の感想 ―
お強いヽ(*゜ー゜*)ノ作者からも「もうこいつすぐ解決しちゃうから暫く寝かしとかんと起承転結つけらんない」ってなる方すんごい
[良い点] 気付かせず、考えさせず、喋らせないまま1撃で仕留めるという物語として成立させ辛い方法以外でどうこう出来るとは思えないからなぁ、ダイアナ嬢。
[良い点] 彼女だけで物語が簡単に終わらせられちゃうから周りの人の右往左往が必要とか新鮮
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