やだ…カッコいい…
「我が名はブラック!」
オメーは鳩だろ。
あとブラッドと紛らわしいから、せめて別の名前にしろ。
「影を纏い、影を統べる者──!」
双子の兄に強制連行されたピジョンは、口を半開きにして自分を見上げているアンバーに対して、バサリと漆黒のマントを翻して渾身のポーズを決めてみせた。
完成形は言わずもがなだが、過程の動きも重要だ。
ブレない体幹と風を切る音が聞こえてきそうなキレの良さは、日々のトレーニングの賜物である。
あらゆる角度で厳しくチェックしなければいけないので、彼の部屋の壁には一面にダンススタジオ用ミラーが埋め込まれている。
流石王族。スケールが違う。その気になれば私室でバレエとかヨガレッスンできちゃうじゃん。
「か……」
「ああ! それ気にしなくていいぞ!」
「カッコいいっ!!」
「──へ?」
これがピジョンの平常運転なのだが、初見だと困惑するだろうとブラッドがフォローした。
しかし、どういうわけかアンバーは目を輝かせて身を乗り出した。
「凄いっ! これを自分で? スリットを入れることで、露出を抑えながら涼しくしてるんですね! 黒一色なのに、パーツによって素材を変えてるから高級感と立体感があります!」
「それだけではない! スリットを入れることで、よりシャープでスタイリッシュなシルエットになるのだ!」
「体にフィットしていながら、ピチピチにならない絶妙なパターン! まさか自分で採寸して、自分で型紙を!?」
「当然のこと。しかし仮面に関してはまだ革細工と彫金はアマチュアの域を出ていないので、職人の力を借りている」
「!? ブラック様ほどのお方でも、職人に依頼するんですか?」
「確かに全て自作するという行為は、その作品に対する熱い想いを知らしめることになるが、他人の力を頼ることで情熱が失われるわけでもない。そもそも販売されている布を使用している時点で、完全なる手作りとは言えまい」
「た、確かに……」
手作りチョコの定義みたいだな。
『クーベルチュールチョコレートを使うとはけしからん! 本物の手作りならカカオからだろ!』並の屁理屈。
「最高の一着を作るためなら、未熟な己を認め、信頼できる人物の力を借りることも時には必要なのだ」
「……本当にお強い方は、必要とあれば意地をはらず、他人に託すことができるんですね」
アンバーが感じ入ったように目を伏せた。
コスプレ衣装作りの話をしているはずなのだが、妙にシリアスな雰囲気になっている。
「ここまでピジョンと気の合うヤツ、生まれて初めて見た……」
置き去りにされたブラッドが小さくぼやいた。
「貴様のその服。思い描いたデザインの半分も再現できていないのではないか?」
「そっ、そうです! もっとスカートをフワッとさせて、胸元の花も立体的に作ってお花畑みたいにして、裾も妖精の羽みたいに薄い布にして歩くだけで靡くくらい軽やかな感じに……本当はもっと透ける布を何枚も重ねたかったんですが、材料が無くて……」
「フン。貴様が理想を現実にできないのは、技術と経験がないからだ」
「どっ、どうやったら貴方みたいになれますか?」
「俺もまだ道半ばだが、貴様に覚悟があるなら我が叡智を──」
ピジョンの言葉は、アンバーの腹の音で中断された。
「おい筋肉バカ。この女に食事は与えたのか?」
「え? まだだけど」
「俺の所に来る前に、食事の手配はしたんだろうな?」
「え? してないけど」
悪びれず即答するブラッドに、ピジョンはため息をついた。
「……全く気のきかないヤツだな。おい貴様、食べたいものがあれば言うが良い」
「なんでも大丈夫です」
「好きなものを言っていいぞ」
「食べられないものはありません」
ピジョンとアンバーのやり取りに、ブラッドが首を捻った。
「なんだか話が噛み合わないな……。アンバー、君の好物は? 嫌いなものは?」
ブラッドの問いかけにアンバーは目を瞬かせた。実家の食事は弟の好みが中心だった。
そこに父や母の嗜好も反映されていたと思う。アンバーは出されたものを食べるだけだった。
「ごめんなさい。わかりません」
「……よしっ! 肉と魚、今の気分はどっちだ?」
彼女の答えに顔を曇らせたブラッドは、すぐに表情を切り替えると笑顔で問いかけた。
「え? ええと……」
「野菜でも良いぞ!」
「じゃあ野菜を……」
「煮る、焼く、蒸す。どれが食べやすい?」
「に、煮る……?」
「じゃあスープだな!」
部屋を飛び出していったブラッドを見ながら「俺より名前がカッコいいのが気に入らんが、悪いやつじゃない」とピジョンが言った。
*
部屋に残されたアンバーは、敬愛するブラック様ことピジョンの横顔を見上げた。
半顔を隠す仮面を付けているが、ちょうど露出した部分が彼女の方を向いている。
双子というだけあり、ブラッドと彼は基礎が同じだ。
どちらも灰色の瞳に、小麦色の肌と黒い髪。
中肉中背のピジョンに対し、ブラッドは骨太で、彼より頭一つ分背が高い。
ブラッドの方が眉が太く、その他のパーツも大きめだが、顔立ちはどことなく似ている。
双子とまでは分からなくても、血の繋がりをしっかりと感じる容姿だ。
(もし私が男だったら、この人達みたいな兄弟になれたのかな……)
アンバーと弟の髪の色は同じだが、目の色は違う。
そして母親似で色白なアンバーと違い、父親似の弟は小麦色の肌だ。
この国は複数の部族が各地に根付いたのが始まりなので、肌の色は様々だ。とは言え、これだけ日差しの強い国だ。長年の日焼けで地黒になる者が大半なので、アンバーくらい白いとなると余程の箱入り娘か引きこもりだ。
彼女は男になった自分を想像しかけたが、そんな事をしても意味がないと思って直ぐに止めた。
「……あのブラック様。これエリクサーって説明されたんですが」
「ただの水だ」
「なんでそんな呼び方を?」
「わからん。子供の頃からちょっと頭が可哀想なヤツなんだ。日用品に変な名前をつける癖があるだけで害はない。聞き流せば問題ない」
「良い人そうなのに、なんか残念な方ですね。……あの。初対面でこんな話をされても困ると思うのですが、ブラック様を信頼できる方と見込んで、ご相談したいことがあるのですが──」
ピジョンとは一瞬で意気投合したアンバーだが、ブラッドの方はジャンル外だったようだ。
パロディタグ追加しました。
カクヨムは最初からしてましたが、なろうはやってると思い込んでました。
追記:雀にピジョンとルビを打ってた馬鹿は私です。
鳩に修正しました。ツッコミ大感謝!




