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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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九十七章 オリヴィア奔走

九十七章 オリヴィア奔走


 アナ達はマーゴット、ボタンの見送りを丁重に断って、「北の五段目」から城門広場まで降りていった。

 城門の前まで来ると、疲れた顔をしたヒラリーが待っていた。アナが声を掛けた。

「ヒラリーさん、どうしたんですか?なんか…凄く疲れているご様子…。」

「いやぁ〜〜…まいった…。師範のベレッタとルカにこってり絞られたよ。模擬戦を交互にやらされて…体じゅうあざだらけだ。殺されるかと思った…。なんでかなぁ…オリヴィアの名前を出したら、突然人が変わってさぁ…。」

「ああ〜〜、ヒラリーさん、それはやらかしちゃったね。」

 アンネリが腹を抱えて笑った。

「どういう事だ⁉︎」

「ベレッタさんは昔、オリヴィアさんに負けてるんだよ。…あれだけの負けず嫌いで見栄っ張りだろ?いまだに根に持ってて…打倒オリヴィアとかまだ言ってるよ。」

「うわぁぁ…地雷踏んだのかぁ…。」

 ヒラリーは見慣れない顔に気づいた。

「あれ…そっちの女の子は…?」

「サリーと申します。この度、アナ様の警護を仰せつかりました。アーチャーです、よろしくお願いします。」

 サリーはヒラリーに挨拶をした。

「アナ…様の警護?…なんで?」

 ヒラリーは歩きながらアナとアンネリから事情を聞いた。ヒラリーは驚いた。

「えっ!…アナ、イェルマに移住するつもりなのかっ!なんでまた、そんなことにっ…?」

「うん…私にとって、とても良さそうな居住環境だと思ったので…!」

 アナとアンネリはちょっと見つめ合ってほくそ笑んだ。

「…個人の自由だし、いいけどさぁ…。うちのパーティーどうなるんだよぉ…。ただでさえクレリックが少ないのに、アナがいなくなったら大変なんだけどなぁ…。」

 五人は話をしながら城門をくぐった。女兵士が馬を三頭連れてきたので、それに分乗してコッペリ村まで戻った。


 その頃、オリヴィアは数枚の羊皮紙を左手に握りしめて北の急斜面を転がるように下っていた。

「…冬眠卵を常温に置いとくと、青くなって孵化する…25°Cから30°C…湿度は70%ぐらい…四回脱皮したら繭になる…え〜っと、それから…ありゃりゃ、何だっけ…」

 オリヴィアがやっと「北の五段目」に続く階段に差し掛かった時、木陰から巨大なイノシシが現れた。イノシシはオレンジ色に黒のマダラ模様の体をしていた。

「げっ!…アシッドボアかぁ〜〜っ!」

 アシッドボアはオリヴィアを見つけると、もの凄い勢いで追いかけて来た。アシッドボアはイノシシ型のモンスターで気性が荒く、血液は強酸性を示し刃物などで傷つけた者を武器もろとも腐食させてしまう。

「面倒くさっ!…アンタにかかずらわってる時間はないのよぉ〜〜っ!」

 ひとりでも倒せなくはないが、コッペリ村に戻ってまだやらなくてはいけない事があったので…本当に面倒臭いと思った。

 オリヴィアはアシッドボアを引き連れて、「北の五段目」まで全速力で駆け降りた。そして、そこから左に曲がると「五段目」の上をずっとまっすぐに走った。騎馬立ちで低い姿勢を保って足腰を鍛えている二十数人のイェルメイドの集団がいた…武闘家房だ。

「あ、オリヴィアさんじゃない?」

「…オリヴィアだ。」

「…オリヴィア、いつの間に帰って来てたんだ⁉︎」

 オリヴィアは後ろのアシッドボアを指差しながら叫んだ。

「リューズ、ドーラ、ベラ、キャシィ…コイツ何とかしてぇ〜〜っ!」

 オリヴィアに指名された四人は訓練を中止して、アシッドボアに走り寄った。中のひとり…リューズが他の仲間も呼んだ。

「みんなぁ〜〜っ、コイツを殴れ、蹴り殺せぇっ!刃物は使うなよぉ〜〜っ‼︎」

 リューズの号令で二十人が一斉にアシッドボアに群がり、殴る蹴ると…文字通りフルボッコにした。

ピギィィィ〜〜ッ…

 武闘家房の鍛えられた拳と蹴りを散々に浴びて…アシッドボアは絶命した。

「あぁ〜〜〜…助かった。ありがとね…じゃねぇ〜〜!」

「じゃねぇ〜〜…じゃねぇよっ!お前、いつ帰って来たんだよっ!あたし達に挨拶なしかよっ⁉︎」

 リューズがオリヴィアを問い詰めた。リューズ、ドーラ、ベラはオリヴィアの同期で、ベラの妹のキャシィを加えて…イェルマでは「オリヴィア愚連隊」との異名を馳せていた。いわゆる悪仲間だ。

「ああ…あのね、ちょっと野暮用で立ち寄ったのよ…すっごく忙しかったから、忘れてたわぁ〜〜っ!」

 そこに、武闘家の房主堂から出てきた浅黒い初老の女がオリヴィアに声を掛けた。

「オリヴィア…お帰りなさい。」

「ただいまぁ〜〜、ジルッ!」

 すると二人の女が近寄ってきてオリヴィアの無作法を責めた。

「オリヴィアッ!房主を呼び捨てにするなと、あれほど言ってるのに…」

 オリヴィアは反射的にタマラとペトラに対して身構えた。二人は武闘家房の師範で、房主ジルの娘だ。

「まぁまぁ…いいじゃないか…。」

「父様、母様はオリヴィアを甘やかし過ぎですっ!」

「これ、武闘家房では房主と呼びなさい。」

「う…。」

 武闘家房の歴史は浅い。東世界からやって来た男武芸者…今は亡きジョウ=ジィがその凄腕を買われてイェルマの食客となり、請われて「武闘家房」を創設した。その時の一期生がジルで、創設者で初代房主となったジョウ=ジィに見染められ二人は夫婦となり、幸運にも二回続けて女児を出産した。それがタマラとペトラだ。

 母娘の様子を見て取ったオリヴィアはみんなの間隙をついて脱兎の如くその場の離脱を図った。

「また明日も来るからぁ〜〜っ!急いでるから…まったねぇ〜〜ぃっ‼︎」

「お…おいっ、こらぁ〜〜っ…!」

 リューズは地団駄を踏んで、遠ざかっていくオリヴィアを見送った。

 オリヴィアはイェルマの厩舎で勝手に馬を調達すると、城門の番兵を一喝して門を上げさせ、そのままコッペリ村まで走って行った。

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