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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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九十二章 イェルマの王

九十二章 イェルマの王


 オリヴィアは「北の五段目」まで一気に駆け登った。北、南の斜面ともに五段目までがイェルメイドの居住区域の最上部である。

 オリヴィアは息を切らせながら、絶壁にもたれ掛かるように建築されている三階建ての建物を訪れた。木造のそれはイェルマでは珍しく屋根は瓦葺きで、建築様式が東世界を思わせる。

 一階の戸口の両側には弓を持った衛兵のイェルメイドが二人立っていた。血相を変えて突進してくる金髪女を発見した女衛兵は弓を構えて叫んだ。

「何者だぁっ⁉︎」

「オリヴィアよぉ〜〜っ!」

「…ええ?」

「ボタンちゃん、居るぅっ?急用で会いたいんだけど、入っていいっ⁉︎」

「オ…オリヴィアさんでも、アポなしでは『鳳凰宮』に入れることはできませんっ!」

「面倒臭いわねぇ〜〜…。」

 オリヴィアは五歩下がって、三階の窓に向かって大声で叫んだ。

「ボタンちゃぁ〜〜んっ!ボタンちゃぁ〜〜んっ!ボタンちゃぁ〜〜ん…」

 三階のベランダの窓が開いて、女が顔を出しオリヴィアに向かって手招きをした。それを見た女衛兵は一階の戸口の扉を開けた。

 オリヴィアは入り口に飛び込むと、目の前の登り階段を無視してすぐに右の廊下を直進し、真ん中の登り階段も無視してそのまま直進、突き当たりの階段を上がると、すぐに左に折れて途中二箇所ある登り階段も無視して、突き当たりの階段を登った。勝手知ったる鳳凰宮…幾つものトラップ階段をやり過ごして、オリヴィアは女王ボタンの居室に辿り着いた。

 居室の入り口は開いていたが、そばにはもうひとりの女衛兵が弓を持って立っていた。

「オリヴィア…女王は今朝から頭痛でご気分が悪い。もっと声を低くしろ…それから、次からはちゃんと前もってアポイントを取れ。」

「アルテミス…分かってる、分かってるぅって!」

 どかどかと居室に入ると、十二畳ぐらいの部屋の真ん中に紫檀のテーブルと五脚の椅子が置いてあり、その奥に畳を敷いた寝台のようなスペースがあった。そこに、凝った刻印と装飾を施した皮鎧を着た女が座っていた。女は黒髪のストレートのロングヘアーで目は少し細く肌も少し黄色かった…東世界の民族の血が強いようだ。

 オリヴィアは座卓を挟んでその女の横に座った。

「ボタンちゃ〜〜ん、ねぇ、聞いて聞いて…!」

「オリヴィア…ちゃん、あんた、旅に出てたんじゃなかったの?」

「あのね、あのね…コッペリ村にシルク工場ができるのよ。イェルマで資金援助をして欲しいのぉ〜〜っ!」

「…突然、何を…」

「これからはシルクの時代よっ!シルクは高く売れるのよ、シルクの服は金貨十八枚もするのっ!工場に投資すれば莫大な利益を生むこと間違いなしっ!…で、金貨二百枚ちょうだいなっ‼︎」

「金貨二百枚…そんな大金、ポンと出せる訳ないでしょう…。」

「えええ…絶好のチャンスなのにぃ〜〜…。ボタンちゃん、シルクを見たことないでしょう?その美しさを見たら、絶対にお金を出したくなるわっ!」

「…見たことあるよ。」

「え…どこで?ボタンちゃん、イェルマから出たことないじゃん…。」

「森のエルフが着ている服、あれがシルクじゃないの…?」

「えええええっ!」

 オリヴィアはしばらく黙り込んでいた…ない知恵を絞っているようだ。突然、何かを思いついたようで…

「また来るっ!」

 そう言って、オリヴィアは部屋を飛び出して行った。

 オリヴィアと入れ違うようにして、女兵士がボタンの部屋に入ってきた。

「女王、蒼龍将軍…マーゴットさんが至急、お越しくださいとの事です…。」

「…今度は何だ…?」

「アナというクレリックがイェルマを訪問して来たので、是非女王にも会っていただきたいと…。」

「クレリックだと⁉︎…すぐ行く。」

 ボタンは衝立に掛けてあった赤に近いオレンジ色の虎の皮のマントを羽織り、大小の刀を携えて部屋を出た。女王の護衛であるアルテミスもボタンに同行し、後に従った。


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