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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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九十一章 ヒラリーVSランサー

九十一章 ヒラリーVSランサー


「お前、名前は何って言うんだ?」

「ヒラリーです、ベレッタ師範。」

「よし、ヒラリー…その剣、抜いて見せろ。」

 ヒラリーはレイピアを抜いて、二、三回振って見せた。

「細いな…。なるほど、スピード重視の刺突武器か…おい、ジャネット。ヒラリーの相手をしてみろ。」

「ほいっ!」

 ジャネットと呼ばれた女兵士が皮鎧と皮グローブを着け、棍棒を持って前に出た。

「ちょっと待って…そっちは棍棒で、こっちは真剣って…」

「ああ…適当に寸止めしてくれたらいいよ。よっし、始めろっ!」

(うわ…何て大雑把な人だ…!)

 ヒラリーとジャネットは間合いを取って対峙した。ヒラリーは槍を専用武器とするランサーを相手にするのは初めてだった…一体、どんなスキルを使ってくるのか…胸が躍った。

 レイピアと槍では、はるかに槍の方がリーチが長い。とにかくどんな形でも、ジャネットの懐に飛び込まないとヒラリーに勝機はない。

 突然、ジャネットがヒラリーの胸めがけて渾身の突きを放ってきた。ヒラリーは咄嗟にレイピアの鍔部分で上に払い上げ、それでも足りなくて体を退け反らせて避けた。速くて重い突きだ。スキルを使わずにこの威力…基本がしっかりしている証拠だ。

 すかさずヒラリーはサイドステップで相手の死角になる右側に右側にとどんどん移動した。後ろに退いて避けていたら…多分、そのままの勢いで突きの連続を喰らって終わっていただろう。

 あの距離でもランサーの槍の間合いに入っていたのか…ランサーは槍全体が見えにくいので間合いがとりづらい。とにかく撹乱して相手の隙を誘わねばと、絶えず動きながらレイピアを上下左右に振り回した。

 ジャネットもレイピアは初めて見るようで、高速で動くレイピアの切先に二の足を踏んでいた。

 その様子を見てとって、すぐさまヒラリーは「疾風」を発動させて瞬時に棍棒の先を通過し…左の「籠手」を狙った。レイピアの切先がジェネットの左手の皮グローブを切り裂こうとしたその刹那、ジャネットは棍棒から左手を離してレイピアの攻撃を外した。「籠手」を狙われるのはジャネットの想定内だった。

 ヒラリーはそこからさらに踏み込んでジャネットの胸元をレイピアで突こうとした。ジャネットは右手だけで棍棒をぐいと引き戻して、柄の中央部分を握って棍棒を短く持ち直し、レイピアの突きを上から叩き落とした。

(何っ⁉︎…ランサーは接近戦は苦手じゃないのかっ!)

 ジャネットは槍の中央あたりを両手で持つと、棍棒の先端部分と尻部分を交互に振り回して、ヒラリーのレイピアの突きを器用に捌いていった。

「おお〜っ、ヒラリー!一応、スキル持ちなんだな…いくつ持ってるんだ?」

(こらベレッタッ!このクソ忙しい最中に質問してくるなぁ〜〜っ‼︎)

 本当に忙しかった。ジャネットは槍を両手で槍が三等分になるように持ち直して、ヒラリーの突きを捌きつつ、左右から殴ってくる。まるでロングソードの両刀使いのようだ。

 本来、受け太刀しないヒラリーが、ガンッガンッと音を立ててレイピアの鍔で棍棒を受けざるを得なかった。ランサー…近接戦もしっかりこなすじゃないか!

「お〜〜い、二人とも、スキルを出し惜しみするなぁ〜〜っ!」

(…ベレッタ…うるさい…!)

 …とは言いつつも、ヒラリーはレイピアが折れそうな勢いなので、「護刃」を発動させた。

 せっかく近接戦に持ち込んだのだ、一旦離れて間合いを作るのはたやすいがそれでは振り出しに戻ってしまう。もう少し接近戦で粘ろうと思ったその次の瞬間…

ギャリリリッ…

 棍棒と接触したレイピアが悲鳴を上げた。レイピアが手から弾き飛ばされそうになったのをヒラリーは必死に堪えた。

「な…何だっ⁉︎」

 ジャネットが発動させたスキル「スピンドル」だった。棍棒を猛烈な速度で軸回転させるスキルだ。ヒラリーは大きく飛び退いて間合いをとった。

(ランサーのスキルか…。「護刃」を発動させててよかった…あれは片手じゃやばいな…。)

 ヒラリーは補助武器のダガーナイフを抜いた。ジャネットは再び柄の三分の一の位置を左手、柄尻を右手で持って中距離攻撃の構えになった。

「ジャネットッ!相手は剣士だ、飛び道具あるぞぉ〜〜っ!」

(げっ…!今から撃とうと思ってたのに…)

 しかし…それしかないので、ヒラリーは「遠当て:牙突」を撃った。ジャネットは「遠当て」を槍で弾こうと試みたが…できなかった。「遠当て」は胸の真ん中に命中し、ジャネットは槍を落として尻もちを突いた。もちろん…「遠当て」の寸止めは無理なので、ヒラリーは手加減をしていた。

「よしっ、そこまでっ!ヒラリー、『遠当て』も持ってるんだな。素晴らしいっ!ジャネットはまだまだ修業不足だな…精進せよっ!」

「…ほい。」

 当然、イェルマの剣士とも練習試合をしているのだろう…イェルマのランサーは剣士のスキルについて熟知しているようだ。ジャネットは明らかに「遠当て」が来るのが分かっていて、一か八かそれを撃ち落とそうとしたのだ。

「よ〜〜し、次は私の番だな!」

 ベレッタの後ろに控えていた大柄の女兵士が名乗りを上げた。もうひとりの師範のルカだ。

「ルカ、出しゃばるなっ!私がやるっ!」

「ベレッタばっかり、ずるいぞっ!」

 ベレッタとルカはしばらく睨み合って…お互い棍棒で激しく打ち合った。両師範が突然喧嘩?を始めたのでヒラリーは驚いて周りを見回したが、見学をしているランサーは誰も止めようとはせず、ただじ〜っと見ているだけだった。

 すると、ジャネットが打ち合っている二人に近づいて…言った。

「師範、ジャンケンで決めたらいかがでしょう?」

 二人は打ち合いをやめ、納得したようにお互い視線を交わして…ジャンケンをした。ベレッタが勝った。ルカは負けたグーを高く突き上げて天を呪った。一体、こいつらは…。

 ダフネといいオリヴィアといい、イェルマの女たちは揃いも揃ってみんな好戦的だな…と、ヒラリーは思った。

「よっしゃっ!ヒラリー、やろうかっ!」

 ベレッタは他よりもひと回り太い棍棒を肩に担いで出てきた。

「私はスキル深度2をカンストしてる…上位職種の『ランスロット』だぁっ!」

(何てヤツだ…自分で自分の手の内を晒しやがった…。まぁ、ランサーのスキルなんてひとつも知らんけど…。)

「確かに、剣士スキルの『遠当て:牙突』は他の『遠当て:兜割り』や『遠当て:草薙』に比べて、点攻撃だから避けにくいし撃ち落としづらいな…」

 そう言ってベレッタは棍棒を構えてヒラリーと向かい合った。ルカの「始めっ!」の合図で…やはりと言うべきか、すぐにベレッタは棍棒を繰り出してきた。

 ジャネットとの試合を教訓に十分に間合いを取っていたはずなのに、ベレッタの棍棒はさらに伸びて迫ってきた。ベレッタの棍棒は伸縮自在か⁉︎

 ヒラリーは初めて真横に「疾風」を使って大きく回避した。ベレッタの手元を見ると、棍棒の柄尻を右手のみで握って、右脚を大きく踏み込んで突いてきていた。そして、長い棍棒を引き戻すと右手を滑って一瞬で元の位置に戻り、今度は左手で柄尻を握って、左脚を踏み込んで突いてきた。その速度たるや、まるで巨大な矢が飛んでくるようだった。

 ヒラリーはひたすらサイドステップで逃げたが、ベレッタの棍棒は執拗に追いかけて来た。ヒラリーは苦し紛れに「遠当て:牙突」を撃った。

 ベレッタはニヤッと笑って…ランサーのスキル「スパイラル」を発動させた。ベレッタの棍棒の先端が円を描いて高速回転し、ヒラリーの「遠当て:牙突」を掻き消した。「スパイラル」は「スピンドル」系の選択スキルだ。

「はっはっは、どうだっ!『スパイラル』を持っている私には、お前の『遠当て:牙突』は通用しないぞっ!」

(…いちいち説明してくるな…面倒臭いヤツだ…。)

 ヒラリーは大笑いしているベレッタに続けて「遠当て:牙突」を撃った。すると、ベレッタは「遠当て:牙突」を普通に棍棒で弾いた。

「え…。」

「はははっ…私ぐらいになると、タイミングを計って『遠当て』を弾くこともできる。さっきのは…どうしても『スパイラル』を見せたかったんだっ!」

(…おいおい。)

「よしっ…そろそろ終わらせるかっ!」

 ベレッタは腰を低くして構えた。ヒラリーは、「やばいっ!」と思った。

 ベレッタが寄り足をしながら連続突きを繰り出してきた。ヒラリーはレイピアとダガーナイフで突きの軌道を逸らしながら横に横に移動するのが精一杯だった。防戦一方のヒラリーに、ベレッタは突きの中に薙ぎや足払いを混ぜて攻撃を続けた。ヒラリーは何とか反応して必死に回避した。

「うむっ!なかなか良い反射神経だっ!だが…防戦ばかりなのはいただけないなっ!」

(…くそっ!)

 ヒラリーは少し無理をして、体勢を崩しながらもベレッタの左の「籠手」を狙ってレイピアを突き出した。

「わははっ…素直だなっ!」

「…⁉︎」

 ベレッタはすっと大きく一歩退いて…「スパイラル」を再び発動させた。罠だった。「スパイラル」はレイピアを巻き込んで、あっという間にレイピアを空高く跳ね上げた。

「あっ…しまったぁ…。」

「はははぁっ!これが『スパイラル』の本来の使い方だよっ!」

 ヒラリーは、「参った」と言ってちょこっと頭を下げた。

「どうだ、ランサーは?レイピアとは相性が悪かったかもしれないな。」

「いやぁ…相性うんぬん以前に…ベレッタ師範、お強いです…。スキルを駆使しても、全く歯が立ちませんでした。」

「そ…そうかっ‼︎」

 ベレッタはにこにこしながら、ヒラリーに手招きをしながら少し歩いた。歩いた先は若手のための練習場で、五本の太い丸太が地面に埋められていた。練習用の丸太だ。

「今から、特別に他のスキルも見せてやるっ!」

 すると、ベレッタの横を通り過ぎて、真剣の槍…方天戟を持ったルカがツカツカと前に歩み出た。

「おい、ルカ。何のつもりだ?」

「私がヒラリーにランサーのスキルを見せてやるのだっ!」

「余計なことをするなっ、私が見せてやるんだっ!」

「いや、私だっ!」

「何をぉ〜〜っ!」

 ベレッタはジャネットが持ってきた青龍刀を握ると、ルカにいきなり斬り掛かった。二人は轟音を響かせて、再び何度も何度も打ち合った。

 ジャネットがヒラリーのそばに寄って来て耳打ちした…。

「…いつもの事です。誰かが仲裁に入ってくれるのを待ってるんです。このままだとなかなか終わらないので、どうか…ボソボソ…」

 ヒラリーはジャネットの助言に従って、二人に声を掛けた。

「ベレッタ師範、ルカ師範、どちらも素晴らしいっ!是非、お二人の力を私に見せてください!どうでしょう…ひとり一つずつスキルを見せていただくというのは…?」

 ベレッタとルカは打ち合うのを止めて、まんざらでもない顔で言った。

「そうかっ!客人の頼みとあらば仕方がない。ルカ、お前は『アサルト』を見せてやれ、私は『ジャベリン』をやるっ!」

「おうさっ!」

 ルカは一本の丸太の前まで歩いて行くと、方天戟を構えて腰を低くした。そして、気合いもろともに方天戟を突き出した。

ドガアァァッ!

 丸太が木っ端微塵に吹き飛んだ。

「これが『アサルト』だぁっ!『ストライク』の上位互換スキルで、槍の攻撃力を上昇させるスキルだっ!」

 ベレッタとルカを囲んでいたランサー達が拍手をした。ヒラリーも拍手をしていた。ジャネット曰く…両師範は自己顕示欲が旺盛で、とにかく、とにかく自分の強さを褒められるのが大好きだと言う…何の事はない、二人とも自分の強さを見せびらかしたいだけだった。

 次に、ベレッタが右手で青龍刀を肩の上に構えた。

「これが『ジャベリン』だ…『スピア』の上位互換スキルで、槍の投擲時に、その貫通力を強化するっ…」

 ベレッタは青龍刀を丸太めがけて投げつけた。青龍刀は見事に丸太に命中し、丸太を真っ二つにしてなおその奥へとすっ飛んでいった。再び拍手が起こった。

(…イェルメイドは軍人並みだと思ったけど…意外にアットホームだな…。)

 ヒラリーはふと湧いた疑問をベレッタにぶつけてみた…。

「ベレッタ師範…あなたとオリヴィア、どっちが強いんですか?」

「…オ…リ…ヴィア…だとぉぉ〜〜っ…!お前…オリヴィアの知り合いかっ⁉︎」

 いきなりベレッタの顔が歪んで鬼の形相となった。ヒラリーは「しまった!」と思ったが、後の祭りだった。周りのランサー達がつぶやく声が聞こえてきた…。

「…禁句なのに…。」

「…禁句を言った。」

「わ…禁句だ。」

「…おもっきし禁句…。」

「…ヒラリー終わった。」

 ヒラリーは真っ青になった。

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