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戦乙女イェルメイド  作者: 丸ごと湿気る
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八十八章 ダフネとサム

八十八章 ダフネとサム

 

 ダフネとサムはコッペリ村の通りを連れ立って歩いていた。二人とも話し掛ける言葉が見つからず…黙りこくって歩いた。距離も触れそうで触れないぴったり10cm…離れるのは嫌だし、かと言ってくっつくのも抵抗があるという絶妙の距離だ。

 二人の目の前に肉屋があって、そこの店主が露店のための屋台を組み立てていた。それを見て、サムがやっとダフネに話しかけた。

「…あれは何を売るんだろうね…。」

「…あそこは肉屋で、鶏の串焼きを売るんだよ、すごく美味しいよ…。」

 サムはすぐに露店に駆け寄ると、二人分の串焼きを注文した。店主が炭に火を入れ、網の上に串を刺したもも肉を乗せ、岩塩を振って、10分ぐらいして、ジュゥ〜〜ッという音がして、いい匂いがしてきた…それを二人は微動だにせず、ただただじっと見ていた。

 二人は焼きたての串焼きを一本づつ持って、食べながら再び歩き始めた。串焼きを食べ終わっても、二人は黙ったままだった。

 すると、向こうから装備を着けた数人のイェルメイドがこちらに歩いてくるのが見えた。

「まずいっ…!」

 ダフネはサムの手を取ると、すぐに横道に入った。

「…⁉︎」

「な…仲間が来てたっ!戦士房の連中だった…そうか、そろそろ十一時かっ…!」

「…十一時って…何かあるの?」

「この先にイェルマ橋駐屯地ってのがあって、仲間が十五人ぐらい駐屯してるんだ。十一時になると交替でお昼休憩を取るんだけど、だいたいみんなコッペリ村まで足を延ばして…さっきの串焼きなんかを買い食いするんだ…。」

 ダフネは喋りながら、サムの手を引っ張りながら早足で歩いた。

 この横道は民家しかない。ダフネが安心して歩を緩めて、手を引っ込めようとすると、サムは逆に強く握り返してそれを許さなかった。ダフネは両耳を真っ赤にして顔を背けた。サムも敢えてダフネの顔を見ようとしなかった。それでも…二人はそのまま、真正面を向いたまま横道をまっすぐ歩き続けた。お互いの顔を見る必要はなかった…お互いに右手と左手で相手をしっかり確認できていたから…。

 しばらく歩くと、村のはずれに出た。野性のコスモスがあちこちに咲いていた。もう秋なのか…。

 おもむろに…サムが口を開いた。

「…イェルマに帰っちゃうの…?」

「…うん…?…うん…」

「…イェルマに帰っちゃうと…会えなくなる…?」

「…かもね…。」

「…もったいないな…もったいない…。」

「…何が…?」

「…ダフネは綺麗じゃないか…もったいないよ…。」

「よ…よく、分かんない…。」

「…綺麗だよ。う…美しいよ…。」

「…。」

「…ねぇ…。い、い…一緒にならないか…な…?」

「…!」

「…ダフネと所帯を持ちたいな…考えてくれないかな…?」

 サムの精一杯の求婚だった。サムの汗ばんだ左手に力が入り、ダフネもそれに応えて力を込めて握り返した。

 サムはダフネの返答を待っていたが、なかなか返事をしてくれないので、こっちを見てくれないダフネの顔に自分の顔を近づけた。そして顔のそばでもう一度言った。

「…一緒になろうよ…結婚しよ…?イェルマには帰らないで欲しい…。」

 ダフネの心は揺れに揺れた。イェルマは自分が生まれ育った故郷だ。仲間もたくさんいる…捨てることはできない。でも…サムと一緒にいたい、ずっと一緒にいたい。どうしたらいい…?

 サムの唇がダフネの頬に触れて、返答を求めている…サムの唇が少しづつ少しづつ、ダフネの唇に近づいてくる…サムは意地悪だ、こんなに美味しそうな餌をちらつかせて…サムの魅力がこんなに強力だなんて…。

 ダフネは堪えきれずに…サムの唇に自分の唇を重ねて思いっきり抱きついた。ダフネも女だった。内に秘めていた激情が堰を切ってサムに押し寄せ、今までの我慢を帳消しにするかのように唇を求めむさぼった。そしてサムに抱きついたまま…

「…もう少し…もう少し、考えさせて…お願い…。」

と言った。

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